モテるために
モテるために、女の子にちょっかいをかけた。
モテるために、生徒会長をした。
モテるために、常に人気者でいることを心掛けた。
モテるために、いつもニコニコしていた。
モテるために、沢山の趣味を持った。
モテるために、1日1時間は勉強した。
モテるために、町で一番良い大学を受けた。
今まで、誰にでも、モテれば良かった。
あの子にモテるために、受ける大学を変えた。
あの子にモテるために、同じ大学に受かった。
あの子にモテるために、いつも同じ授業を受けた。
あの子にモテるために、同じサークルに入った。
あの子にモテるために、勉強も部活も一生懸命取り組んだ。
あの子にモテるために、本を読んで知的アピールを始めた。
あの子にモテるために、ずっとグラウンドを走って元気アピールを始めた。
あの子にモテるために、中二病になってみた。
あの子にモテるために、いつも一緒に居るようにした。
あの子は、いつも笑ってくれていた。
あの子が、大好きだった。
あの子のために、ちょっとカッコつけて万引きした。
あの子のために、悪ふざけで後輩をいじめてみた。
あの子のために、目立とうとしてわざと教科書を忘れた。
あの子のために、未成年なのにお酒を飲んでみた。
あの子のために、授業をサボるようになった。
あの子のために、意味もなくイライラしている演技をした。
あの子のために、大学の壁に落書きした。
あの子のために、無駄に騒いだ。
騒いだ。騒いだ。騒いだ。騒いだ。
あの子は違うと言った。
俺に、初めて反抗した。
俺は呆然として動けない。
静かに流れていた雨。
窓の外は夕日。
雲は、ない。
俺は泣いていた。
なんで。
俺は、君のために。
違う、違うよ。
あの子は泣きながら言った。
二人きりだった。
横には、俺が描いた落書きがあった。
何故か俺が倒した花瓶も転がっていた。
ね、わかって。
あの子は言った。
だ、だって。
俺は、ずっと君だけを想って。
あれ以来、俺は、君が。
「──好き。だから、私の、ために……。そんなに、頑張らないで」
泣きそうな、でも結局泣いていたその愛らしい顔で、あの子は俺の手を取る。
『君』が、大事で。
『君』の、ために。
『あの子』を、『君』にしたかった。
「ごべん…………! 俺、俺でぼ……! 何にも、何にも……! 出来なくて……!」
「これからは、万引きも落書きもしちゃ駄目だよ? 『彼氏君』」
「は、はい……!」
「あ、でも『中二病君』はまた見てみたいかも! ねぇ、『彼氏君』」
「あ…………」
「……ん!」
「……! うん」
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「よろしく! 『彼女君』!』