笑わない彼氏と笑うしか出来ない彼女が付き合ってる理由
夕方、東京駅の前に、ある制服姿の男性がぼさっている。 無表情で駅の名前を見詰めて、右手に握っていたチケットがふらりと地面に落ちた。
男は別に怒ってる訳じゃない、悲しんでる訳でもない、ただ頭を真っ白にして、顔色を変えずに駅の前で突っ立っていた。
周辺に通っている人々は変人を見るような視線で男を見て、避けていた。 当然のように、男はまったくそのことに気付いていない。
すると――、
「ウワッ!」
「ん?」
何かが男の右側の太ももにぶつかって、男は視線を向ける。
彼とぶつかったのは、女の子の小学生だった。 黄色の帽子をかぶって、鼻水を垂らして、地面に座ってる。
男は気付いた、彼のズボンはその小学生の鼻水で汚れていることに。 それでも彼は無表情まま、後ろポケットから水色のハンカチを持ち出し、膝を地面に当てて、小学生の鼻水を拭く。
「大丈夫? ドコか痛いところ、ある?」
男は優しい言葉で話して、女の子は彼の顔を見て、彼女が笑う。
「うん! だいじょうぶだ」
「そう…? でも次は気を付けろ、もし悪い人にぶつかったら、ただじゃ済まさないと思う…よし、これで終わり。 ほれ、早くお家に帰れ」
「うん、ありがと! おにいちゃん」
男は女の子を立ち上がるのを手伝う、そして女の子は無邪気な笑顔で手を振って、男と分かれる。
っと、その時、いきなり男の視線が暗くなって、彼の耳元に囁き声が聞こえた。
「ニヒ〜、だーれだ? ひひ」
女の子の声だった。 可愛い声で、なんか癒されるみたいな笑い声。 対して男は表情を変えず答える。
「美希」
「ニャハッ、また当たっちゃった…遊星って凄いだね〜いっつも当たるんだね〜」
美希は既に知っていたのように、笑いながら遊星の背中を抱き付く。
「そりゃあ、こんな笑えない男に近づけて、背後から『だーれだ』とやれるのはお前だけだ…あと、暑苦しい」
遊星は冷静な態度で説明する。
「それもそっか! ニシシ〜、それより、待った?」
「いいえ、俺は三分前来たところ」
「よかった〜、んじゃ! 今日のデートはどこに行く?」
はしゃぐ美希は遊星の右腕に絡んで、その上でふたりは手を繋ぐ。
「ウォーミングアップとして、ゲームセンターに行こう」
「さんせぇ〜」
更に興奮する美希は飛び跳ねる。 ふたりはいちゃいちゃしながら一番近くのゲームセンターへ向かった。
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そこに、遊星と美希は色んなゲームを遊んでいた、対戦ゲーム、ダンスバトル、射撃ゲーム、等々……そしてはしゃぎすぎて、思わず体力を消耗してしまった。
「ハァ…ハァ…ハハハ、満足満足!」
「ハァ…久しぶりに汗をかいてしまった…キモ…」
ふたりはそれでも相変わらず一方がヘラヘラと笑って、もう一人は陰気な顔で文句を口にする。
「なぁ遊星、今晩、泊まっていい?」
美希はニコリと笑う。
「……いいよ」
遊星はまるで何かを考えていたみたいで、返事に遅れる。
「よしッ! そうと決まれば、喫茶店に休憩して、その後でスーパーに行くってのはどう? ナイスアイデアでしょう!? ふんふ〜ん」
とっさに考えついた簡単な計画に、美希はドヤ顔で語る。
遊星は美希の可愛いドヤ顔を見て、密かに口の形が変わった、でも美希はそれに気づいていなかった。
「うん、そのプランで行こう。 せっかくなので、もう少し贅沢な食材を買おう…」
「珍しいねぇ、遊星がそんなことを言うだなんて、ハハハ。 んじゃッ! レッツらゴー!!」
美希は笑って遊星の手を掴んで、ふたりは喫茶店へ向かうようとしていた。
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遊星と美希、このカップルは学校内に凄く有名で、そして理解出来ない恋人。
篠崎美希、高校三年生、女子バスケット部所属。 文武両道、スタイル抜群、学園ナンバーワン美少女。 誰も憧れる存在、所謂学園のアイドル的な存在。 彼女のファンクラブも存在する、『MFC』、Miki Fan Clubの略。
星宮遊星、高校三年生、文芸部所属。 文筆は全国五位、運動は普通レベル、見た目は悪くない、が、彼は普段笑わないから、女子の間でマイナスポイントが付けられた。 料理の腕前は申し分ない。 綽名「星星」、名前には二つの星があるので付けられた綽名。
このふたりの間には接点が見付からないところか、知り合う機会なんてなかったはず。 っと、学園の連中が思ってた。
ところが、ふたりは高校に入学して数ヶ月後、付き合い始めたんだ。 一体、どうして、どうやって付き合ったのか、誰にも知らない。 好奇心で聞く度に、「これは私と遊星のひ・み・つ♪」、と美希は笑いながら答える。
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遊星と美希が喫茶店にのんびりと過ごしる間、ふたりは進路のことを話している。
「そうそう…! 進路のことなんだけど、遊星はやっぱり…?」
「ああ、小説家になること」
ふたりは窓際に座って、紅茶を飲んでいた。
「美希は? バスケット正式選手になる?」
「ん? いいや、流石に正式選手はない」
「どうして? お前の実力なら日本の女子バスケット正式選手に成れるかもしれないのに…」
遊星は無表情だけど、声は確実に自分の気持ちを伝えていた。
「どうしてって…もし私が正式選手になったら、遊星と会える時間が減るから、そんなことは断じて出来ない! ダメダメ!」
美希は自分が思ってることを話したら、遊星の眉毛はぴくっと動いて、彼は思わず顔ごと逸らす。
「あっれ〜? もしかして照れてるのぉ? ムフフ、可愛いやつめー」
美希は遊星をからかって、調子に乗っていた。
「何の話だ?」
遊星の顔はいつも通りの無表情で美希を見詰める。
「ニシシ、もう分かったから、そんなみえみえな演技をやめろ」
「ハァ…お前には通用しないか…っと、もうこんな時間か」
楽しく話してる内に、天気は徐々に暗くなっていた。
「そろそろスーパーに食材を買いに行こう…」
「うん、そうだな!」
「んで? 何が食べたい?」
「スーパーに着いたら考える〜ひひぃ」
美希は再び遊星の腕に絡む。 他人の視線を気にもせずスーパーに向かった。
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ふたりがスーパーで買い物を済んだ後、一緒に遊星の家へ向かった。
あと少しで着くところ、美希は遊星の横顔を見詰める。
「遊星、今日はなんの日か、分かる?」
彼女の顔はワクワクして、笑いながら遊星の答えに期待していた。
「ん?」
しかし遊星は無表情のまま視線をチラリと美希を見ただけ。
「いや、なんでもない! 今のことを忘れて…それより、晩御飯、楽しみだな! 遊星の手料理、早く食べたいなぁ」
「はいはい、もう少し我慢して」
「いやだ、早く食べないと私は確実に餓死する!」
美希は堂々と、ニコット笑って話す。
「そんなドヤ顔で言われても、説得力がない、よし…着いた」
遊星がツッコンでる間、ふたりは家に辿りついた。
そこそこのいいマンション、プールもある。 遊星は少しだけ豊かな家に生まれた、でもそれは美希も同様。
遊星たちは家に入ったら、靴の脱いで、右側の最初の扉を開く。 そこには広いリビング、でかいテレビ、二つのソファー、そしてその横には普段食事するテーブルと厨房も直ぐそばにいる。
「よいしょ…ハァ〜、始めよう。 美希、キャベツを洗って、俺は先に鳥肉を冷蔵庫に置いておく」
「はーい」
それから遊星と美希は楽しく料理しながら、今日で学校に起こった日常的な出来事を語り合う。
すべてが整った後、ふたりはテーブルに座って、目の前にある豪華な夕飯を見詰める。 そしたら、遊星は先に口を開ける。
「今日は六月二日」
「うん…」
「と同時に俺たちが付き合ってから三周年だ。 お前が言いたかったことってこれだろ?」
まったく動じない眼差しで美希の瞳を見詰める。
「覚えたのか〜、よかった…ありがとう、遊星。 遊星はやっぱり世界一の彼氏! 大好きッ!」
「……! お前、よくも平気にそんな恥ずかしいことを言えるね…」
美希の熱い告白を聞いた遊星の両目が大きく開けて、その上で顔を逸らす。
「だってそうだもん! エヘヘ〜」
無邪気な笑顔を晒す美希は眩しくに見える、遊星はその時、ポケットから小さな箱を持ち出し、真剣な表情で美希を見詰める。
「美希…お前にあげたい物があるんだ」
「ん? なになに? 三周年の記念にするプレゼント?」
美希は期待感溢れる顔で遊星があげようとしている物を待っていた。
遊星は少し怖くなってに見え、手の震えが止まらない。 彼は深呼吸して、改めて心の整理する。
「美希、お前はいつも支えてくれた人…そしてこれからもずっと支えて欲しい…だから…」
「ま、まさか…」
正に感動の瞬間を迎えようとした美希は両手を顔に置いて、瞳がきらりと輝く。
「美希…! 俺は美希とずっと居て欲しい!」
「私も…!」
「美希! 俺と結婚しよう!」
「はいッ!」
美希の返事を聞いた瞬間、遊星は感動過ぎて、彼の涙は溢れだす。
そして遊星は…笑った。 その瞬間を見た美希も笑う。
「やっぱり遊星の笑顔は最高だ…」
「お、俺…笑ったのか?」
不思議に思う遊星は自分の口を触る。
「うん、私が見たかった笑顔。 だから私は遊星の笑顔に一目惚れだった…あの時、私たちが入学してから一ヶ月後、放課後の時、駅の近くにあった本屋に欲しかった本を買った後、ある男性は子供が泣いてるところを見て、即さに駆けつけた。 男は子供に笑顔を見せつけた、子供も一緒に笑った…そう…遊星、私はあの時から、ずっと遊星のことを好きになったのさ」
「美希……」
美希が話した彼女が遊星に惚れた理由を教えたら、遊星は美希に近付き、彼女を抱き締める。
「俺も同じだ…俺はお前が頑張る姿を見てるうちに、この感情が現れたんだ…美希を見てると、俺も頑張れる! っと思えるようになった。 大好きだ…美希」
「うん…私も遊星のことが大好きだ」
ふたりの顔は徐々に近付き、接吻した。 涙を流しながら。
そしてふたりがようやく落ち着いた後、ふたりは幸せに食事を済ました。 食器を洗って、リビングで休憩する。
「そう言えば…遊星は既に小説を書いてるよね? タイトルとか、もう決めた?」
ソファーに座ってる美希が遊星のとなりまで寄せる。
「うん…ちょっと長いけど、物語に合わせたタイトルだ」
遊星は普段の無表情な顔に戻った。
「じゃあ、教えてよ〜」
美希は遊星の腕を掴んで、彼を揺らす。
「ちょっと恥ずかしいが…タイトルは『笑わない彼氏と笑うしか出来ない彼女が付き合ってる理由』…どう思う?」
「……ちょっと待って…そのタイトルはもしかして……」
美希の顔は複雑になっていた。 笑っていいのか、それとも驚いていいのか、彼女自身も分からなくなっていた。
「そう、物語は俺と美希の出会いとこれまで起きた出来事のあらすじ」
「……面白そう!!」
いきなり美希の瞳が輝く。 子供の無邪気な眼差しのように遊星を見つめていた。
「気に入ってくれて、何よりだ」
遊星は再び笑う。
「遊星、ちょっと聞きたいことがあるんだ、ひひ」
小悪魔みたいな笑い方で遊星を呼ぶ。
「なんだい?」
「もし子供が出来たら、名前はどうする? 遊星は小説家になるだろう? 名前くらいいくつ思いつくでしょう?」
「こ…! お前まさか…! にん――」
「あぁあ違う違う、ただ好奇心で聞きたいだけ」
遊星は一瞬にして、顔は真っ青になったが、美希の一言で顔色が元に戻った。
「な、なるほど…」
「ニシシ、そんな慌てて、遊星も自覚があるんだな。 ほぼ毎晩なかだ――」
「あああ!! 思い付いた…!」
美希が何かとんでもない言うとした先に、遊星はいきなり大声で叫ぶ。
「アハハハ、今誤魔化したんだろ? それで? どんな名前を思い付いた?」
「まず俺の名前から説明しよう。 俺の名前って、ある昔のアニメの第三部の主人公と同じ名前じゃないか。 だから俺は思ったんだ、もし娘だったら、俺と美希の名前、それぞれ一文字を加える」
「遊星はもしかして…娘が欲しいの? 娘から「パパ大好き!」みたいなシチュエーション、考えたでしょう?」
美希は疑う視線を送る。
「(ギクッ!)そんなことはないぞ?」
遊星は目を逸らして、知らないふりをする。
「図星かぁ…そんなにハーレムが欲しいんだ…ふーん」
「んじゃ、本題に戻ろ…」
「そうだな、遊星をいじめるのはまた今度にしよう」
からかうのを止めた美希は体ごと遊星に寄せ付ける。
「俺が考えた名前は…『遊希』、星宮遊希」
「へぇー、遊星の遊と美希の希、遊希…なんかいかにもアニメの主人公っぽい名前だな」
「それがいいのさ、何より、俺と美希はデュエルマスターズもやってるし、いいんじゃない」
遊星は美希の髪を撫でて、テレビが映ってる番組を見る。
「そうだな…でもまず、遊星が小説家になること頑張らないとね」
「うん、俺は生涯小説家の道を進むだけ。 俺たちのためと未来の子供のため、俺は全力を尽くす」
遊星の本気は美希もしっかりと感じていた。
「うん…私も遊星のことを応援する」
「見てろ美希、俺は必ず世界一の小説家になって見せる」
迫力満点のセリフを言った遊星だが――、
「無表情でそんな格好いいセリフを言われても…説得力がないよ?」
「うるせッ!」
「ハハハハ…!」
これは、感情をあんま表に出さない男と笑うしか出来ない女の物語。 ふたりの感情は溶け込んで、より豊かな感情を生む。