通院彼女
何年も通院して、繰り返し診察されて、薬を受け取って、また飲む。
同じことばっかり。
体が弱いのは仕方のないことだけれど、それでもこの繰り返しに飽き飽きして止めてしまいたいと思う自分がいる。
「やぁ、詩織ちゃん」
白衣をはためかせる彼は私の主治医で三十代なりたての、モブっぽいイケメン。
モブっぽいイケメンとは、良く見るタイプのイケメンのことを指す。
……私の中で。
私が回転椅子に座ると彼はニコニコと笑い話し出す。
学校はどう?とか最近楽しかったことある?とか、ありきたりな話をしている。
もう通院したくないと思っている筈なのに、この時間は楽しいと思う。
目の前の相手に医者というイメージがないからかもしれない。
染めたことがないような黒髪に人懐っこい笑顔。
今までの担当医はもっとしかめっ面で面倒くさいタイプだったのに。
もぐもぐと飴を食べて話している辺りが、もう医者に見えない。
仕事中なのに。
私の視線に気付いた彼がデスクの中から飴を取り出す。
「食べる?」
聞いているくせに食べることが確定しているように、包み紙を開けている。
そしてそれを手渡すのではなく、ガボッ、と私の口に突っ込むのだ。
食べるなんて答えていないのに……。
私が眉を寄せても彼が笑顔を崩さないので、何も言えなくなってしまう。
「先生って、天然タラシですよね」
溜息混じりにそう言って、口に突っ込まれた飴を舐める。
私の言葉に一瞬だけ目を見開いた彼が今度は、クスクスと声を出して笑う。
笑いジワが見えて何だか幼い。
「誰にでもこういう訳じゃないよ」
聴診器を取り出しながら告げられた言葉。
それはどういう意味なのか。
考えようにも高鳴る心音が耳障りだ。
私は僅かに回転椅子を下げて聴診器を当てて来ようとする彼に、少しだけ時間をくれと告げる。
それを聞いた彼はまた、子供みたいに笑う。
繰りかえされる通院生活がゆるりと変わり始めた気がした。