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stage2『一騎当千の白虎』


 その時、全てが終わった


 誤解が誤解を生み、彼女はその誤解に殺された


 俺と同じ穢れ者だから? それとも俺なんかと関わったから?


 何が起きたのか自分でもわからない


 彼女が人間だからいつか訪れるはずの別れは、俺が思っていたよりもはるかに残酷で、あまりに無慈悲だった

「あのさ」


「何だよ」


 縁側に座る霊緋は部屋の中で寝そべっている桔梗をお祓い棒でつつく。


「それ人をつつく道具じゃないだろ」


「私、昨日の晩の記憶がないんだけど……」


「知るか」


「桔梗何か冷たい〜!」


「冷たい〜!」


「お前は真似しなくていい」


 桔梗は女の子の頭をポンと叩くとそのまま突っ伏した。


 昨晩、霊緋を運ぶのと後片付けで一睡もしてないのだ。


「まったく、誰かさんのせいで……」


「あー! やっぱり昨日の晩のこと知ってるんじゃない! ちょっと教えなさいよ!」


「痛い痛い、ルーミアに口止めされてるんだよ」


「ルーミア? ってあの真っ黒けの……」


「そ、わかったら寝かせてくれ」


 事実、ルーミアはすごい剣幕で桔梗に念押ししていた。


 まあ建て前はそういうことにしといて本音は桔梗自身が一番関わりたくないからではあるのだが。


「ルーミアか……よし、捕まえてとっちめてやろう!」


「ほどほどにな。ふぁぁ……おやすみ」







 燃え上がる家


 悲鳴、叫び声、罵声


 あたりに撒き散らされた死体



 タリナイ……モノタリナイ……


「来るな化け物……来るなぁ!」


 銀色の髪をした妖怪は近くにいた男の頭を掴むと握り潰す。


 何かが砕ける不快な音と共に血飛沫が飛び散った。


 怯える人間達を尻目に、銀髪の妖怪は笑っていた……


 涙を流しながら笑っていた……









「はっ……」


 桔梗は飛び起きるとあたりを見回した。


 博麗神社の社の中、どうやらそのまま眠ってしまったらしい。


「なんだ、夢か」


 身体を起こすと、ひどくうなされていたようで全身に若干汗が滲んでいるのがわかった。


「またあの夢か。まったく、いい加減にしてくれ……」


 壁にかけられた小さな鏡に座り込む自分の姿が写る。


 日の光で銀色の髪が光って見える。


「綺麗過ぎるんだ……この世界も、やっぱり俺には似合わないな」


 桔梗は立ち上がるとちゃぶ台に置かれた置き書きに気付いた。


 見慣れた字で書かれたそれは、霊緋と女の子が妖怪の山に向かったことを知らせる。


「霊緋は山か……さて、俺はどうするかな」










 ちょうどその頃、霊緋と女の子は妖怪の山のとある家を訪れていた。


「綾音! 来たわよ」


 風が木々や雑草を撫でて行く。


 すると一陣の風が吹き上がり、そのあとに一人の女性が立った。


「ごめんなさいね霊緋、ちょっと待たせちゃったかしら」


「ついさっき着いたばかりよ。で、今日は何の用?」


 霊緋の前に立つ烏天狗、射命丸綾音は背中の翼をたたむと手に持った篭を縁側に置き、その横に腰掛けた。


「よっこいしょ。ふぅ……」


「お腹の子、だいぶ大きくなってきたわね」


「えぇ。夫のアシスタントは娘が代わってくれているけど、移動がちょっと大変よ」


 そういうと綾音は懐から一つのメモを取り出した。


 そこには日用品や薬などが列挙されている。


「これに書いてあるものを買い揃えてくれないかしら。もちろんお金は払うわ」


「わかってる、私とあなたとの仲じゃない。買い物以外でも任せてくれていいのよ?」


「それはダメよ。そのぐらい自分で出来ないと、この子が産まれたらもっと苦労することになるのに」


 大きくなった自分のお腹をさする綾音の表情はどこか幸せそうだ。


「さて、私たちもお使いに行きますか」


「いく!」


 霊緋もメモに書かれている物に一通り目を通してから、女の子の手を引いて妖怪の山を後にした。








「うんまーい!!」


 桔梗と同じ四神の一人、天袖カンナは両手に持つ団子を一気に口に押し込むと、お茶を一口すすっる。


 あれから桔梗は神社に来たカンナに連れられて人里に降りていた。


「まったく、カンナといい霊緋といい何で俺の周りにはこんなに甘党がたくさんいるんだ?」


「糖分は乙女のエネルギー源なのよ!」


「まったく同じことを霊緋も言ってたぜ……」


 桔梗が一人ぼやく中、早くも五皿目を平らげたカンナがおかわりの団子を注文しようとしている。


「おじさん、あん団子二つとみたらし一つ追加ね」


「はいよ!」


 ふと桔梗は空を見上げた。


 今日も快晴、ぽかぽかとした昼寝日和だ。


(あったかい……か……)


 見上げていた空に過去の記憶が重なる。


 あの日は確か雨だった。








 降り続く雨


 一族の住む山はもう見えなくなった


 濡れそぼった前髪がぺったりと張り付いて視線をふさぐ


 自分が一族から追い出される理由になった紫の毛色


 一族の皆の蒼い髪とは違う、呪われた子供


 もうこの場所にはいられない


 悲哀と恐怖に震える叫び声


 小さな白虎の叫びは静かな雨空に掻き消えていった……








「きょう……桔梗!」


「え?」


 はっと我に帰った桔梗は目の前で仁王立ちしている霊緋に気付く。


 霊緋はというと大きな袋を手から下げている。


「霊緋かよ、というかなんだそれ。お前妖怪の山に行ったんじゃなかったのか?」


「ちょっとお使い頼まれてね」


「ハハハ、博麗の巫女がパシリだって? こりゃブン屋を呼ばなきゃな」


「いや、そのブン屋に頼まれたんだけど」


「え……そうなのか?」


 足元の女の子はこくりと首を縦に振る。


 その瞬間、女の子は桔梗の視界から消えた。


「キャー! やっぱかわいいわぁ! ほお擦りしちゃお!」


「おいカンナ、めっちゃ嫌がってるんだが?」


 ジタバタしながらなんとかカンナから逃れようとする女の子。


 顔を真っ赤にしてものすごく苦しそうだ。


「そろそろ離してやれよ。なんか苦しそうだぞ?」


「大丈夫。私、下は4才から上は8才まで……」


「「へ、変態だぁぁぁ!」」


 傍観していた霊緋も思わずつっこむ。


 すぐさまカンナから女の子を救出すると、霊緋は自分の後ろに隠した。


「まったく、油断も隙もあったものじゃないわ」


「だな。まさかカンナがこんなやつだったとは俺も思わなかったぜ……」


「オーケー、落ち着こうか二人とも。冗談に決まってるでしょ?」


 お互いの顔を見合わせる桔梗と霊緋。


 アイコンタクトの結果、出た答えは二人とも同じだった。


「「嘘だっ!」」









 霊緋と桔梗の返事を聞いて怒りだしたカンナを桔梗に任せると、霊緋は急ぎ足で妖怪の山へ戻った。


「これからはカンナに気をつけないとね……」


「あのおねえちゃんこわい」


「大丈夫、桔梗が相手してるからここまでは来ないわ」


 妖怪の山は外観は険しそうだが、人に害を与える妖怪さえ現れなければハイキングに出かける感覚で登れる。


 今日もまだ緑色の紅葉やイチョウの並木が風に吹かれてサラサラと小気味よい音を立てていた。


「そういえば今日は哨戒天狗に会わないわね……これで2往復目だけど」


「しょーかいてんぐ?」


「山の警備をしている天狗のことよ」


 女の子は興味がなさそうだがこれは異常なのだ。


 普段なら何もしてなくても2、3人ぐらいは出くわすのだが今日はその気配すらない。


 やがて山の奥へ向かう道と滝へ向かう道の分かれ目に差し掛かると、霊緋はしゃがんで女の子に話しかけた。


「ねぇ、少し寄り道してもいいかしら」


「どうしたの?」


「ちょっと気になることがあって……」


 この場所には必ず哨戒天狗が一人は待機していて、間違って登ってきた人間を追い払うのだが、それさえいないとなるとよっぽど何かあったのだろう。


 霊緋は山頂へ向かう道とは逆方向、滝へ向かう道を進みはじめた。


(……さすがに滝になら誰かいるでしょ)








「くそっ、霊緋のやつ面倒なこと押し付けやがって……」


 桔梗は手元に虎鉄を呼び出すと、地面に突き刺して固定した。


 目の前に立つカンナも既に自身の武器、炎樹を呼び出して構えている。


「こんなところでカンナを怒らせたら里に迷惑だろうが!」


 とは言っても策がないわけではない。


 桔梗は足をしっかりと固定して剣を持たずに構えをとる。


「桔梗の……バカぁ!」


 そうこうしているうちにカンナは炎樹を突き出しながら走って来た。


 炎樹の切っ先をスレスレで避けると、左手を地面につけて姿勢を低くし虎鉄を蹴り上げる。


 カンナが虎鉄に反応して上を見上げた隙に、桔梗は右手に妖力を溜めた。


「行くぜ!」


 そのまま右手をカンナのみぞおちに叩き込む。


 ここまでわずか3秒。


 カンナは転がりながら吹き飛んだ。


「その名も、驚技『虎騙し』ってな」


 落ちてきた虎鉄を掴むとまた地面に突き刺し、カンナに歩み寄る。


 桔梗の一撃が効いたのかカンナは目を回して寝転がっていた。


「くきゅ〜こにょやりょ〜おぼえとけよぉ〜」


「まったく、世話かけさせやがって」


 肩を叩いてみたが起きる気配はない。


 とりあえず桔梗は団子屋の店主に頼んでカンナを奥の席で寝かせることにした。


 放っておけばそのうち目が覚めるだろう。


 次会った時が怖いなと思いつつ桔梗は里を後にした。








「遅いな、霊緋のやつ」


 勝手に逃げた霊緋をどやすべく博麗神社に戻った桔梗だったが、肝心の霊緋はまだ戻っていない。


「もう日が沈むな。仕方ない、今日は帰るか」


 夕暮れで赤く染まった空を仰ぎ見る桔梗。


 鳥達も自分の寝床へ帰るべく列を成して飛んでいく。


 明日もきっと晴れるだろう。


「さてと、のぞき見ご苦労だったな椿。霊緋ならいないぜ」


 桔梗は小石を拾い上げると境内に立つ木に投げつけた。


「ひっ! 危ないよ……」


 おずおずと木の陰から人影が現れる。


 桔梗はそれを見るともう一度小石を投げ付けた。


「うわっ!」


 人影はビビりながらも腰の銃を抜いて小石目掛けて撃つ。


 空気銃独特の音と共に小石は粉々になって地面に落ちた。


「へぇ、また腕を上げたじゃないか」


「いい加減にしてよね桔梗。いっつもカンナと二人して僕で遊んで……」


 四神の一人、天凪 椿は銃をしまうと腕を組んで頬を膨らませる。


「で、何の用だ? 俺は早く家に帰って寝たいんだが」


「ダメだよ、黄竜が呼んでる。今日の深夜に霧の湖で、だって」


「黄竜が? マジかよ」


 黄竜は四神の頂点に存在する者。


 それが召集をかけたとなると、四神は必ず応じなければならない。


「何かあったのかな。僕達が呼ばれなければならないような……その、事件とか?」


「単なる事件なら博麗の巫女が解決することだろ。ここ数百年音沙汰がなかったことから察するにもっとヤバい何かだな」


 正直桔梗には嫌な予感しかしなかった。


 それは多分椿も感じてはいただろう。


 全ては深夜にならないとわからないのだが。








 そして深夜……


 湖のほとりに四人の人影が現れる。


「桔梗、後で覚えてなさいよ?」


「黙ってろカンナ」


「全員、揃いましたね」


 香澄は他の三人が揃ったことを確認すると湖面に向かって自身の神器『風水』を振り上げた。


 すると水面が割れて湖底に階段が現れる。


「毎回思うけどこれってどんな原理なんだろうね」


 カンナは炎樹の先で割れた水面をつつきながらつぶやく。


「さあ、行きましょうか」


 香澄を先頭に四神達が湖底に下りると何事もなかったかのように水面が元に戻った。


 さらに底へと向かうと小さな建物が見えて来る。


『水底の神殿』


 四神や一部の認められた妖怪のみ進入が許された幻想郷の中心にあたる部分だ。


「よく来たな、我が子らよ」


 四人が神殿に着くと、神殿の中央にある巨大な杯から竜のイメージが浮かび上がった。


「お久しぶりです黄竜様」


「ふむ、香澄か。ほかの三人も元気そうだな」


「それより、俺達を呼んだわけを早く聞かせてくれよ。何かまずいことでも起きたんだろ?」


 桔梗は虎鉄を背中に背負うと竜のイメージを見上げる。


 イメージも桔梗の言葉に反応して頷くと、ゆっくりと話し始めた。


「いいか、心して聞いてほしい。今、この瞬間にも幻想郷が迎えようとしている事態を……」



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