プロローグ『消えた幻想郷縁起』
「よくお越しくださいました、どうぞ中へ」
「ええ」
稗田阿求は家を訪ねてきた人物を招き入れて客間に通した。
客間にはあらかじめ見せると約束していたものが置かれている。
過去の自分が書いた幻想郷縁起の一冊、幻想郷が外の世界から完全に離れた後最初に書かれたものだ。
「これね」
「はい、栞の挟んであるページが話していた部分です」
呼ばれた人物は栞を挟んである箇所にそっと指を差し入れ、傷付けないようにゆっくり開く。
そのページには何ページにも渡って破った跡が残っていた。
それも無理矢理手で引き裂いたような切り口。
「どうですか? 紫さん」
紫は破れていない前後のページを見て破られた時代を推察する。
まあ話を聞いた時からだいたいは予想が出来ていたのだが。
「暗夜天異変ね、やっぱり……」
「暗夜天異変?」
「よっぽど忘れたかったのね。自分の記憶からも歴史からも消してしまうなんて」
紫の言葉に首を捻る阿求。
覚えてないのだからこんな反応でも仕方ないのだろう。
「正直なところ、私も出来ることなら思い出したくない出来事よ」
「…………。」
「たくさんの人間や妖怪が傷付き、死んでいった。でもね、だからこそ私はこの異変を歴史からは消して欲しくない」
「じゃあ……」
「話すわ、全部」
暗夜天異変
それは忘れ去られた異変
惨劇
ロストヒストリー~東方四神伝




