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stageEX『孤独な黒衣の巫女』

 親しい人を失った君は、親しかった人に少しでも近付こうと努力した


 人を愛することを忘れた君は、人であることを捨てた


 いつしか時は流れ、君は君ではなくなった


 本当の君は今、どこにいる?


 私は今、君を見ることがとてもつらい……



「ごめんなさい……私がいながら桔梗と香澄は……」


「気に病むことはない。彼らはこうなることを承知の上で参戦した。君の責任ではない」


 静かな湖底の神殿に啜り泣く声が反響する。


 紫は階段に腰掛け、手で顔を覆っていた。


 あれから少し時間が経ち、幻想郷は黄竜の力によって元の姿へと戻りつつある。


 剥げた大地には緑が戻り、木々も復活した。


 壊れた神社の修復にはルーミアやその他、力に自信のある妖怪が里の人間と共に従事してくれている。


 時間はかかるが、元通りの生活を取り戻すために皆が頑張っている。


「危機は去った……だが、失ったものは大きい」


 黄竜は入口の人影に気付くと、その影を招き寄せた。


 影の正体は妖怪の山に避難した民を最後まで守った椿とカンナだ。


「黄竜様……桔梗と、香澄姉は……」


 カンナの問いに首を横に振る黄竜。


 呆然と立ち尽くす椿の隣で、カンナは泣き出してしまう。


 黄竜はただ、二人を見つめるだけで何も言わなくなった。





そして、月日は過ぎ行き……





「あの日から、もう10年近く経つんだなぁ……」


 冬の妖怪の山は寒い。


 椿は手に息を吹きかけてこすると、上っていた木から飛び降りる。


 辺り一面の銀世界で、今日も働いている哨戒天狗達はとても寒そうだ。


「さて、と……僕も準備しないとな」


 そう言って自分の家の中に入ると、外套の雪を払ってハンガーにかける。


 そのままの足で台所まで行き、熱い紅茶を一口。


 今日、この日のためにあれこれ準備はしてきた。


 あとはそれを実行に移すだけだ。


 椿は一つの部屋に入ると、そっと明かりを点ける。


 部屋の中には儀式用の魔法陣と、一つだけぽつんと置かれたベッドがあった。


 ベッドには青い服に白いマフラーをした女性が横たわっている。


 椿はその顔を覗き込むと女性を抱き上げ、床に描かれた魔法陣の上に下ろした。


「これが……僕に出来る最後の罪滅ぼしになる」


 椿が魔法陣に触れると魔法陣は光を放ち、やがて女性の身体に集中していく。


「さあ起きるんだ、レティ・ホワイトロック。僕の代わりは、君に頼んだよ」


 魔法陣から離れた椿は、自分に寒気を操る能力がなくなったことを確認する。


 自分の身代わりに作り出した人工の妖怪だから能力に制限が入るが、悪用すれば危険な能力だからちょうどいいだろう。


 椿はからっぽになった自分の部屋に別れを告げると、そのままどこかへと歩き去って行った。








「妖怪だ! 妖怪が出たぁ!」


 逃げ惑う人間達。


 妖怪はその様子をしばらく楽しむと、逃げ遅れた女性に目をつける。


「いや……来ないで!」


 人間達は女性を助けようとはせず、散り散りになって逃げていく。


 そんな人々の中、黒い服を着て笠をかぶった一人だけがその場に立ち止まっていた。


「……待て」


 その人は妖怪と女性の間に立つと、右手を突き出して妖怪を制止する。


 妖怪は少し驚いたようだったが、すぐさま黒い服の人間に狙いを変えると襲い掛かる。


 黒い服の人間は一歩も動かず、腰を少し低くした。


 音もなく、一陣の風が妖怪の首を過ぎ去る。


 困惑した表情の妖怪と、薄ら笑いを浮かべる黒い服の人間。


 次の瞬間、妖怪が少し動いただけで首がズレて足元に落ちた。


「キャーーー!」


 悲鳴を上げて逃げる女性。


 黒い服の人間は笠を少し上げると、ある建物に目を付けた。


「そこにいるのはわかっている。大人しく出て来い」


 すると、建物の影から一体の妖怪が出て来る。


 先ほど切り捨てた妖怪よりは少し力の強い中級妖怪のようだ。


「今すぐ立ち去り、二度と里を襲わないと誓うなら私は手出しをしない。決めるのはお前だ」


 中級妖怪は少し迷ったようだったが、意を決したのか黒い服の人間に襲い掛かった。


「間抜けが……」


 黒い服の人間は、中級妖怪が動くと同時に笠と上着を脱ぎ捨てる。


 中から現れたのは左肩に大きな傷を持った巫女だ。


「ならば斬る!」


 腰から提げた日本刀を抜きながらの柄での一撃目で妖怪の頭を殴って動きを止め、次の攻撃で切り付けた。


 約3秒程度、妖怪の方も何が起きたのかわかっていない様子。


 そして巫女が刀を収めると同時に、妖怪は崩れるように倒れた。


「他愛もない……」


 巫女はまた黒い上着と笠を拾うと、軽く土を払って身につける。


 散り散りになって逃げていた人里の人間達も、だんだんと戻ってきた。


「おぉ、これはまた派手にやりましたね。今日は二体も!」


「なんだ天狗か……」


「なんだとは何ですか! それに天狗じゃなくて射名丸です! 名前ぐらい覚えて下さいよ」


 文は写真を撮りつつ、人間達に取材している。


「ここのところ不用意に人間を襲う下級、中級の妖怪が増えましたからねぇ。巫女も商売繁jy……ってどこへ行くんですか!」


「帰る」


「ちょっ、今日こそは写真撮らせて下さいよ博麗霊稀さん!」


 巫女、霊稀は笠をかぶって文に手を振ると、どこかへと歩いて行ってしまった。


 文はメモ帳を閉じると盛大にため息をつく。


「あの頃は可愛いげがあったんですけどね……」


 暗夜天異変から10年、博麗の巫女となった霊稀の性格は一変してしまった。


 そこにかつての面影はなく、ただの冷淡な巫女に成り果てている。


 文はため息混じりにペンを挟んでメモを閉じると、追いかけるために翼を広げた。


 それと同時にポケットから一つのフィルムが転げ落ちる。


 桔梗に渡されたあの日から現像すらしてないフィルムだ。






 現像したりなんかしたら、きっと泣いてしまうから……








「そうか、椿は旅立ったのか」


 黄竜は首をゆっくり持ち上げると、宙に浮いた二つの光に手を伸ばす。


 光は能力の結晶、桔梗と香澄が持っていた能力のコピーだ。


「力は弱いが、今の幻想郷には十分だな」


 やがて光が人の形に収束し、3人の女の子の姿になった。


 香澄の能力から作り出されたのは現存する春告げ精に酷似した妖精。


 桔梗の能力から作り出されたのは実りと彩り、それぞれを司る二人の神。


 黄竜は満足げに頷くと、3人を外へ、幻想郷と送り出した。


 決して桔梗達を諦めたわけではない。


 黄竜は必死に睡魔を抑えながら足元の紫の方を見る。


「大丈夫、あなたが眠っている間は私が幻想郷を守る。この命に換えてもね」


「頼んだ」


 黄竜のイメージはそれだけ言い残すと消えてしまった。


 水底の神殿に一人残る紫。


 扇をスキマの中に戻すと、後ろを振り返った。


「藍、橙、あなた達にこの仕事は任せるわ」


 藍と橙はしっかりと頷いてスキマの中へと戻る。


 捜索はまだ始まったばかり。


 焦らず根気よく探せばきっと見つかるはずだ。


 神殿の中を一通り見て回ると、紫もスキマに入って消えた。



 神殿の中央、寂しげに突き刺さる薙刀の持ち主を探すために……





ロストヒストリー〜東方四神伝     Fin

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