悪魔ノ 八
家を出てから30分。僕は市役所前のバス停に立っていた。
昼間なのに、ひっそりと静まり返っている市役所は、それも当たり前で今日は休みの日曜日。
いつもなら誰もいないはずの市役所の駐車場には、何人かの人だかりができていて、僕はその中に合流した。
『サトルくん』
僕は集団の中で急に名前を呼ばれ、振り返った。そこにいたのは千夏ちゃんだ。
『やっぱり、サトルくんも悪魔ノ学園に進学するんだね。他に知り合いいないし、よかったー』
そう言い、笑う千夏ちゃんに僕も安堵した。薄々、千夏ちゃんも来るんじゃないかと思ってた。
『うん。宮下さんも悪魔ノ学園に進学だったんだね』
笑う僕に千夏ちゃんは倍返し。
『うん。私の家は先祖代々、悪魔払いをしているの。私も修行の為に行ってこいって』
そういえば、千夏ちゃんの家はこの街の奥にある大きなお寺だったはずだ。
『でも、本当によかった。ここに来る人って何だか喋りにくいし、このまま一人だったらって、本当に不安だったの。私の事は千夏でいいから。これからも宜しくね、サトルくん』
そう言い、僕に笑いかける千夏ちゃん。千夏ちゃんと呼び捨てなんて、同じ学年の男子全員が狙っていた。
『宜しくお願いします』
僕がそう言うと、千夏ちゃんは手を差し伸べてきた。
握手。
それは誰もが希望する高嶺の花。
僕は必死に震えを抑えながら握手する。
千夏ちゃんの柔らかな手とぬくもり。近づくことで、長い髪からトロけそうなシャンプーの匂い。
僕はその場で倒れそう。
『とにかく、まずは入学試験だね。頑張らなくちゃ』
『えっ……』