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悪魔ノ 七

爺ちゃんとの話から二時間後、僕は最低限の荷物をまとめて、一階に降りてきた。



話では、悪魔ノ学園とはこの世に存在する悪魔に関する知識・遣い方を勉強する場所で爺ちゃんや婆ちゃん、父ちゃんや母ちゃんもそこで学んだのだという。



爺ちゃんが言うには、僕にかけられたら封印術が年々弱ってきていて、力の暴走を防ぐには悪魔ノ学園に行き、力のコントロールを学しかないとの事。向こうじゃ、もし暴走しても強力な悪魔遣いがいて、暴走も止めてくれるらしい。



僕は居間に座る爺ちゃんを見た。



テーブルには鞘袋に包まれた火ラ蜘蛛ノ太刀と入学願書の書類。それに通帳と印鑑が置かれている。



『向こうに着いたら、この書類を学園の人に渡しなさい。もう連絡はしておいたから。あと、お金は向こうでも使える。毎月、お金を入れるから大切に使うんじゃぞ』



爺ちゃんはそれから、悲しいような目を伏せた。少し躊躇い、そして言う。



『それからな、婆さんなんじゃが、あいつはお前を見送らんらしい。じゃが、許してやってくれ』



婆ちゃんは話の途中でどこかに行ったままだ。息子を亡くした原因の僕になんて会いたくないのは当然だろう。



でも……。



『やっぱり、最後に挨拶だけしておくよ。今までのお礼も言いたいし』



そう言い、僕は足を台所に向けた。そこは婆ちゃんがいつもいる場所。



やはりというか、婆ちゃんは台所にいて、僕に背を向けながら、晩御飯の下準備を始めている。



『あ、あの、婆ちゃん……』



そう言い、僕は言葉に詰まった。いつも優しい婆ちゃん。息子を殺した犯人の僕にいつもどんな気持ちでいたのか。



僕は意を決して更に続けた。



『婆ちゃん、僕行くよ。話は爺ちゃんから聞いた。その……、ごめん』



僕の頭には謝罪の言葉しか浮かばない。でも、その言葉は届かなかったのか、婆ちゃんはピクリとも動かず、ただ夕飯の準備をしていた。



僕は仕方なく、婆ちゃんに背を向けた。あんな話を聞いたら、もうここには帰ってこられないかもしれない。もしかしたら、もう婆ちゃんと会えるのは最後かもしれない。



だから、僕は婆ちゃんに責められる言葉を受けてもよかった。怒られて、責められて、僕は泣いて謝る。それが婆ちゃんとの最後の会話だ。



でも、それさえなかった。婆ちゃんにとって、僕は言葉をなくすほど憎む相手。ほんの数日前まで笑いあっていた仲が嘘のようだ。



僕は黙って、足を進める。



『ちょっと、待ちなさい』



僕は振り返った。婆ちゃんの声。覚悟は出来てる。



『これを、持って行きなさい』



婆ちゃんの声は思いの外、優しかった。僕の右手を掴み、指輪をはめる。



『これは家に伝わる由緒正しき指輪だよ。前はあんたの父さんが使っていたの。あんたが使いなさい』



『で、でも……』



それなら、これは父さんの形見の品だ。



『きよつけるんだよ。魔法は本当に危ないんだ。私だって封印術は使える。あんたはいつだって帰ってきなさい』



そう言って、婆ちゃんは僕を強く抱きしめてくれた。



僕の肩に伝うのは婆ちゃんの涙。もちろん、僕の涙も腕を伝う。



そして僕は旅立った。



集合場所は市役所前の駐車場。



現実感がハンパない。

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