悪魔ノ 四
その日の夕方、隣町へ遊びに行った帰り道。
僕は朝に通った道を反対側に進んでいた。
今日の朝に会った変な宗教の勧誘の人。さすがに今はいないらしい。
僕はふぅーっと胸をなで下ろし、赤く暮れる春の空に今日の一日をうつしえがいていた。
隣町にある全国でも有名なアミューズメントパーク。
そこで僕達は卒業旅行!?みたいな感覚で楽しんだ。
記念にみんなで騒ぎまくり、記念にみんなでプリクラを取り、記念にみんなで遊びまくる。
そんな僕の忌まわしい過去。目を覆いたくなるような今日という一日がやっと終わったのだ。
僕は今日、何故呼ばれたのかやっと分かった。
ようは、僕は他の奴らの引き立て役。
千夏ちゃんを囲む集団の中で、スター軍団達はお互いにつぶし合うわけにはいかない。
でも、自分の溢れる才能は最大限にアピールしたい。
そこで白羽の矢が立ったのが僕というわけだ。
この平均的な少年の僕は何につけても彼等には適わない。
だから、嫌みなく頭脳明晰さをアピールしても、嫌みなく運動神経抜群をアピールしても、嫌みなくプレイボーイぶりをアピールしても変な空気にはならないのだ。
僕は常に笑い、心の奥深くで傷付いていった。
世の中は常にレールが決まっていて、彼等は僕とは歩む場所が違うのだ。
……。
歩む場所といえば、思い出した。
みんなで喋っている中で進学する中学の話になり、僕が隣町の中学に進学すると言った時。
『市立悪魔ノ学園!?』
僕のカバンを開けて、勝手にパンフレットを取り出した学級委員のノボル。
『何だよ、お前。隣町のこんな中学に通うのかよ』
ノボルは僕の制止を振り払って、パンフレットをみんなの前に取り出した。
僕は必死になって今日の朝に起きた出来事を話した。
話せば話すほどにみんなは面白がって、からかってくる。
僕は顔がびっくりするくらいに熱くなり、汗がダラダラ。
震える心を抑えて、恐る恐る千夏を見た。
『サトル君も通うんだ……』
それは千夏の消え入りそうな言葉だった。
事実、僕の聞き間違えかもしれない。
他の誰も千夏ちゃんの言葉には気付かず、笑いながら僕をつっつく。
僕は千夏ちゃんを再び見た。
千夏ちゃんは集団の奥でただニコリと笑っているだけ。
そして、騒ぎは千夏ちゃんの
『お腹すいたし、そろそろお昼にしない』
という言葉に救われ、沈静化した。
僕は千夏ちゃんに感謝。でも、その時には千夏ちゃんは集団の真ん中にいて、もうその場を離れていた。
あれは何だったんだろうか。
沈む夕日が完全になくなるまでに僕はやっと家に着くことが出来た。
取りあえず、考える事は後にして、今日は早く眠って疲れを取りたい。
今日集まったのは学年のスター選手ばかりでそれぞれが特出した才能を持っている。
そんな彼らは千夏ちゃんに秀でた部分をアピールしても、他の部分で必ず劣る。
だから、僕が呼ばれたのだ。
僕みたいな平凡な男子は格好の比較対照で、それぞれの良いところを最大限に引き立てられる。
みんなが千夏ちゃんを中心とした女子を囲み、そんなカゴの外でただ僕だけが眺めている。
それは気の遠くなるような我慢の繰り返しで、それが終わった今、僕は疲労困憊で歩いているのもやっとだった。