悪魔ノ 一
僕のまわりでは幼い頃から不思議な事ばかり起こっていた。
僕の3歳の誕生日。僕の家は火事になり、家は全焼。
僕の誕生日を祝う父と母は亡くなり、僕だけ無傷で生き延びた。
僕が6歳の頃。初めて行ったキャンプで夜のキャンプファイヤー。
僕が炎に近づくと、炎は瞬く間に燃え上がり、僕が離れると、それは一瞬にして消え去った。
僕が11歳の頃。理科の実験で使った、アルコールランプ。
他の班よりよく燃えた。
僕は昔から火というものに縁があり、何故か僕の周りでは火がよく燃える。
でも、それは普段よりちょっとよく燃えるというだけで、特に何か生活に不自由があるわけではない。
僕は父方の祖父母に育てられ、幼き頃に両親を亡くした心の傷も癒えてきた今日このごろ。
小学六年生の終了式も終えて、短い春休みを挟んで隣町の中学に通うという予定だった。
でも……。
『あなたは悪魔ノ学園に通いなさい』
……、誰だコレは!?
僕が友達と街に遊びに行く為に向かった駅への通り道。
花屋とうどん屋の間で突然、僕の前に立った黒髪の女性だった。
僕は一瞬で悟る。そう、この人は危ないヒトである。
『すいません。先を急いでいるので』
そう言い、僕は女性の横をすり抜ける。この春の暖かな陽気に全身が黒のロングコートに変なトンガリ帽子なんて絶対に変だ。
手には黒い流れ星を飾ったステッキ。病的な何かだろうか。
『ちょっと待ちなさい』
そう言って、女性は再び僕の前に立ちはだかった。厳しく真剣な眼差し。ますますヤバさが増していく。
『話を聞きなさい。今、世は悪魔で満ちているの。それを倒すにはあなたの力が必要なのよ』
唖然とする僕。何のどんなきっかけで悪魔の話が出てきたのか。
『いい。よく聞きなさい。今、この世にどんどん悪魔が増えているのね。昔からこの日本ではそれに対抗する為に悪魔を従える人材を育ててきたわ。悪魔に対抗できるのは悪魔だけだからね。でも、それって誰にでもできなくて、才能と努力があって初めて出来ることなの』
女性は僕から少し距離をおいて、身振り手振りで説明してくる。
『でも、最近は悪魔遣いや悪魔払いの人材が減ってきたわ。誰も自分で努力して悪魔に対抗しようと思わないのね』
頭に手を置き、苦悩する女性。なんだか大変な人なのだ。
『だから、私達、悪魔ノ学園は優秀な人材をスカウトする事にしたの。これからの時代、ただ待つだけなんて何にもならないもの』
腕を広げて、大きな声。うどん屋の亭主がなんだと扉の影から覗いてきた。
『私が調べた限りではあなたはすごい才能があるはずよ。その才能、私達のもとで開花させてみない』
前後左右に動き回っていた女性の目の手が再び僕のもとに戻ってきたら。
そして僕の一言。
『すいません。急いでいるので』
そう、彼女は新手の宗教勧誘の女性なのだ。