プロローグ
すでに崩壊した世界を賭けて戦うは、
“異形の姿形をした災厄”と“人智を超越した希望”であった――。
「これより、懲罰裁判を始める」
懲罰会の内の一人が声を上げる。
「十二支隊辰組隊員、鬼灯幸。前へ」
名前を呼ばれ、ドーナツ型の会議テーブルの中央へと一歩踏み出す。
手錠と足枷をはめられているせいか、妙に窮屈に感じた。
「さて。鬼灯君。何故こんな場所に呼びつけられたか、わかるか?」
ちなみに言うと、懲罰会に呼び出される理由も理屈も、まったく心当たりがない。
「一週間前から、君は討伐任務のために四人の隊員達と共に外界へと遠征に出掛けていた。そうだろ?」
「はい」
淡々と、まるで単純作業である役所仕事を行うかのように、淡白な時間が続いていく。
「任務は滞りなく進み、つい昨日、君達のチームは帰還してきた。が、帰還途中である旧関東エリアの市街地区で、問題は起きた」
懲罰会の誰だかもわからない声が、急に強まってくる。
「帰還途中であるにも関わらず、隊員四名が変死体として発見された。死亡推定時刻だと思われる午後十時、現場でディザスターや不審人物の目撃情報は見られなかった。通信塔でも、ディザスター反応は確認されなかったらしい。ただ――」
「……………………」
「君の生体反応以外は、な」
まるで俺が犯人だと言いたげな言動をする。
俺は何もやっていない。
「確かに現場には行きましたが、僕が着いた時には、すでに死んでいました」
「ふむ。なるほどなるほど。つまり君は何もやっていない、と?」
穏やかな声音で、話掛けてくる懲罰会員。
「はい」
「――嘘をつくなッ!!」
机を叩く音が会議室に響き渡り、懲罰会員の態度が急変する。
「君以外にディザスター反応はないし、死亡推定時刻の午後十時の見張り役は君だったらしいじゃないか。なにより、君以外の人間が全員死んでるという状況こそが、君が犯人だと物語っている」
本当に俺が殺人犯なら、そんな間抜けた事はしないだろう。明らかに、俺以外の誰かがやったに過ぎない。ただ、この事件を速やかに収束させるために、俺を犯人に仕立てあげたいのだろう。
「君の能力はなんだったか……ええっと? 炎を自由自在に発現、操作することが可能、か。死亡した隊員達の遺体は、まるで焼かれたかのようにまる焦げだったらしいじゃないか。これをどう説明する」
「わかりません」
「そんな言い分が通るとでも思っているのか?」
懲罰会員の一人が席を立ち、俺の元へ歩み寄ってくる。
「君、普段からも問題を多数起こしているらしいじゃないか。単独行動の常習犯らしいな。大人しく口を割ったらどうだ」
「僕は何もやっていません」
本当に何もやっていない。まぁでも、軍規違反者であるのも事実だから、他にどうしようもない。
「ハァ……あくまでもしらを切るつもりか。いいだろう」
懲罰会員は俺から離れていき、自席へと戻っていく。
そして裁判用の木槌を叩き鳴らして裁判を終了させる。
「君の普段の素行不良を含め、今回の事件の判決を言い渡す」
同時に俺を照らしていたライトが、徐々に光を失っていく。
「辰組隊員、鬼灯幸。懲罰部隊猫組へ、無期の異動命令を下す。以上、解散」
こうして、俺は軍規違反者の吹きだまりである、「猫組」への異動が決定した。