ヒーロー三分クッキング
「・・・で、ここに戻る訳か」
手術台に手足を縛られたまま一輝は呟いた、恒例の大の文字である。
一回目と違うのは無言の博士が気まずそうな表情をしており、その隣に黒マントの金仮面が立っている事だ。
「おや、気が付いたようだね」
だからでけぇ。
倒れた地面から見上げてるとわからなかったが、比較になる博士がいればその異常な身長がわかった。男の倍――つまり優に三メートル以上。
そして仮面の下の一つ目。
人間じゃない、少なくとも普通の。
「ここ、本当に秘密結社だったのか・・・」
「何だ、知らなかったのかね?」
金仮面が首を傾げる。
「疑ってたんだよ」
「ほう、何故かね? 私と同じ外見の生き物は地球にはいないはずだが」
「そりゃあんたを見てからだろうが、初見がアレだぜアレ」
アレ、説明不要のシンパシー。
「アレ・・・戦闘員147番かね? そこまでそちらに馴染んでるのかね?」
「・・・馴染んでない馴染んでない」
それはともあれ。
この金仮面、少なくとも話が通じる相手のようだ、アレと違って。
「で、今からあれか、改造手術?」
「うむ」
「うわ・・・コッテコテ」
「秘密結社としてはスタンダードではあるのだろう?」
違和感があった。
「否定はしないが・・・何の説明もなしにか」
「説明責任とやらかね、秘密結社にそれが必要だとは資料にはなかったはずだが」
「どんな資料だよ、それ」
「ヒーロー物の番組とかじゃな」
空気と化してた博士が口を開く、ようやく出番が来たせいか一言だけでもやたらと嬉しそうである。
「・・・もっとマシな資料はなかったのかよ」
「仕方ないじゃろう、秘密結社がどんな物なのか書いてある資料なんて他に無い訳だし」
「あー――でも説明はした方がいいと思うがなー」
興味を惹かれたのか、前のめりに金仮面が顔を一輝に近づかせた。
「ほう、それは何故かね」
「わかってねーな、資料はヒーロー番組なんだろ? 納得もなしに勝手に人の体を弄ると――」
バカーン!
いきなりぶち抜かれた壁、朦々と立ち込めるほこり。
そこに蹲った人物はあろう事かこう呟いたのだ。
「くっ、俺の体はどうなったんだ?ここは・・・一体」
大の文字になった一輝は溜息を一つ。
「こうなる」
うわー、と手を口に当てて感心したような声を出す黒タイツ。
いたのか。