秘密結社は世知辛い
「それでは5番、前へ!」
「Qー!」
「辞令、5番、秘密結社クアンタム戦闘員として、新宿区への配属を命ずる!」
「Qー!」
「悪の尖兵として励むがよい!」
「Qー!」
黒マントの偉そうな金仮面から受け取った辞令を胸に抱き、感涙にむせぶ黒タイツ。
いいなー、と広場に並ぶ戦闘員の面々。
どうでもいいが、一体どこから涙が出ているのだ。
「なに、これ?」
カクンと、首を傾いげた一輝の横には今だ内股気味の戦闘員。
「何って、研修明けの辞令授与ですが」
「あるんだ・・・」
「普通あるでしょ?秘密結『社』なんだから」
「ねーよ」
心なしかぼやきにも力がない。
少し切なくなった。
「あー、一輝さん、もう十四社も採用試験に落ちちゃってますもんね」
「・・・何でそれを知ってやがる」
「そりゃスカウトする相手を調べるのは基本ですから」
プライバシー侵害だっ!とそいつを蹴飛ばそうとしたが止めた、虚しい。
二人でその場に座り込んで目の前の辞令授与式を眺める。32番の戦闘員が田舎に配属されて肩を落としながら列に戻っていた。
無性に羨ましく思い、思わず呟きが出る。
「世の中って世知辛いよなー」
「そりゃ一輝さんが高望みしすぎなんですよ、小中高と勉強せずに遊び呆けて、Fラン大学を出ても新卒で就活しないのにブラック企業以外に入りたいなんて」
「嫌なことをズバズバと言うな、お前、てか何でそこまで知ってる」
「え、ありがちでしょ?」
ガリガリと後頭部を掻く。
「あー、くそ、そうだよな、世知辛いんじゃない、甘くないんだ、だから頑張るしかねーよな」
「そうそう、その意気ですよ」
うるせー、と恥ずかしさを誤魔化すようにチョップを入れようとして気付く。
黒タイツが横座りをしていた、俗に女の子座りだとか野郎にウケのいい姿勢である。
「・・・お前、女だったの?」
そこまではまあいい。
しかしその割には、と思いながら胸に視線を向けたのはいけない、いけません。
顔面に大きく描かれたQの下がニッコリと笑ったのが何故かわかった。
手首のスナップが効いた見事なビンタを食らい、軽々と宙に舞う一輝。
戦闘員ってすげー。