千里の道も改造から
「くっくっくっ、では改造手術を始めよう」
「待てやコラ」
「これでまた一人、組織に忠実な下僕の誕生だ」
「人の話を聞けよ」
「せめてもの温情をかけてやろうか、怪人のモチーフは何がいいかね?」
「じゃあミッ○ーマウスで」
歯医者でよく見かけるドリルとメスを両手に掲げた爺さんは、ピタリと動きを止めた。あえて博士とは呼ぶまい、と一輝は思う。
耳鼻咽喉科でよく使われている銀色の皿に穴を開けたアレが顔の前でプラプラと揺れており、脂汗にまみれた顔は何こいつやべぇ、と思っている事が書いてある。
「それよりもよ――」
爺さんを見上げて一輝は続けた。
「怪人って、そんなチャチな道具で作れるもんなのか?」
「ふっふっふっ、時間稼ぎかね?助けを――」
「ごまかすな、第一その服装は何だ、外科医か歯医者か耳鼻科医かハッキリしろってんだ」
気を取り直した爺さんを再び一刀両断にする。
「だってワシ医者じゃないもん」
テンションの下がった爺さんがメスとドリルを下ろす。
「医者じゃないのに手術しようとしたのか?犯罪じゃねそれ?」
「ええと、だってウチ悪の組織だし・・・」
爺さんは何やら言い訳めいたのをボソボソと呟き、メスとドリルを指のようにカチンカチンと突き合わせる。
「それはともかく、だ」
台座の上に体を拘束している枷を顎で示し、一輝はガンをつけた。
「外せや、これ」
「・・・はい」
本当に従うとは思わなかった。
自由になった手足をさすりながら身を起こす。
「お茶ぐらい出せ、それなら話ぐらいは聞いてやる」
意外な事に、ちゃんと湯呑みに入ったお茶と羊羹が出てきた。
場が研究室なのはご愛嬌。
「・・・てっきりフラスコに入れた意味不明の液体とかが出てくると思ったが」
「またまたー」
七つ道具(?)を外した白衣の博士が手をひらひらと振る。
「そんなの漫画でだけじゃよ」
わざか、わざとなのか。
あからさますぎてツッコめないので羊羹を一口、ズズッとお茶を流す。
「おおー、うめー」
「じゃろ?じゃろ?」
くー、となった一輝に何故か得意気な爺さん。
「何せ○屋じゃからな」
「へー、高いのも頷けるな、こんなに煎茶に合う羊羹初めて食った」
「って何を和んでるんですかあんたへぶっ!?」
いきなり研究室の出入り口から飛び出してきた黒タイツの顔面に、一輝は足裏を叩き込んだ。
倒れ伏したそいつの頭をグリグリと踏みながらお茶を一口――うめぇ、この爺さん、できるな。
「てめえらのお偉いさんと茶の途中だ、正座でもして待ってろ」
「ああっ、何気に反論のし辛い理由をっ」
十五分後、爪楊枝でしーしーとやっている一輝は、黒タイツの太ももを踏ん付けた。
「さて、話のわかる奴のとこに案内しろや」
足が痺れていたらしい。
あおおおおおお、と鳴いた。
自分で書いといてだけど、何コレ