1 ニュースであいつの居場所を知った
僕の終生のライバル、そして大好きなあいつがいなくなって、二ヶ月が過ぎていた。転校するにしても行く先を誰にも教えないなんてありえないだろ。
彼女の高校のクラスの生徒に聞いても誰も知らなかったのだ。
秋の大会でまた会える。また試合ができると思っていたのに、今年の試合には彼女は居なかった。それから二ヶ月、彼女の消息を探る日々が続いた。
そうしながら、僕は彼女をライバルと思う心のなかに、別の感情が混ざっているのを感じたのだ。
噂では、彼女の住む町の有力者のドラ息子らが少女を拉致しようとしたところを助けて乱闘になったということだった。歩道橋から落ちて自身も怪我をしたとはいえ、三人の男を相手に互角以上に渡り合った、あいつは流石だ。
その事件が起きたのは、ちょうど去年の武道会の後のことらしい。そこで怪我をして長く入院したせいで出席日数が足りなくて、今年の春から再度高校一年生をやり直してるということまではわかった。
しかし、あいつは二学期になる前に、いきなり転校して、東京から居なくなったのだ。次の試合こそあいつに一矢報いてやろうと、鍛錬に鍛錬を重ねて、汗だくになって鍛えた僕の拳は、すっかり行き場を失ってしまった。
道場に行くのも虚しくなって、インフルエンザだと言って一週間も休んでしまった。三日以上道場に通わないのは、初めてのことだった。
仮病で寝込んだふりをしながら眺めていたスマホの中に、そんなあいつ、こと辻文七巳は朝のニュースで、突然僕の眼の前に現れたのだ。
そのニュースは、月読峠という場所で、古代の大蛇の化石が発見されたというものだった。
そのニュースに、発見者として出てきたのが、一人の高校生男子と、彼女だったのだ。あいつ、あんなところに居たのか、という思いと、なんで発掘調査なんてやってるんだ、という思いがこんがらがって僕は混乱してしまった。
しかし、次の日曜日に、あいつに会いに行くことだけは決定事項だった。
土曜日の夜、僕はベッドに入って、明日のことを想像するとなかなか眠れなかった。
つい、最後の試合のときのことを回想してしまう。去年の秋の大会だった。
準決勝であたった彼女は、スレンダーで軽そうだったし、僕の障害になる相手には見えなかった。
しかし、それは試合が始まる前までの印象だった。
試合が始まると彼女は、渦まく金色のオーラをかくそうともしなかった。
こいつは油断できない。
そう思って気合を入れる僕の懐に彼女は、音もなく入っていた。
右手拳の突きをすんでの所でブロックしたが、離れ際に来た次の左回し蹴りは確実にブロックできずに、こっちはダメージを負ってしまった。
ポイントも3ポイント取られた。
一歩引いて、僕も攻撃に移る。彼女の突きをかわして腕を取り、引き込むように投げに入った。
彼女はくるりと受け身を取ったが、抑え込んで僕は寝技に入る。
彼女の胸に僕の右腕があたって、女子らしいふくよかさにドキッとしてしまった。
多分、僕はその時、彼女に恋してしまったのだろう。
対戦相手としての鋭い目つきに、何かキュンとするところがあった。
彼女の拳や蹴りに、うっと呻きを上げながら、ドキドキする喜びがあった。
僕はこの子となら恋人同士になれる、そんな気がしたのだ。
そんな僕の迷いが影響したというのは言い訳にしかならないだろうけど、僕は彼女に負けた。
一昨年優勝した僕は、準決勝で散っていったのだった。当然その大会での優勝者は彼女だった。
そして、今年の大会では絶対勝ってやると思っていた僕の前から、彼女はあっさり消えていったのだ。
この作品は、カクヨムの月読峠コンテストに出したものです。成田良悟氏の執筆した序章の続きを、その登場人物を使ったり、新たに自分でキャラクターを足したりして書いていく趣向でした。
序章は読まなくても通じるように書いたつもりです。
コンテストも終わったので、こちらにも公開します。




