第十九章 帝国の中を歩く
昼食の後、ミーアが城と帝都を案内してくれた。
先生は皇帝と話し込んで動こうとしなかったので、「先生は皇帝陛下とお話しください」ということで留守番になった。
「先生、後で全部教えてもらいますよ」
「もちろんです! この機会を活かして——」
「ほどほどに」
「……善処します」
私と祖母とミーアの三人で城の中を回り始めた。
「まずは図書室!」
開けると——天井まで届く本棚が並んでいた。
ウェスタリアの屋敷の書庫も相当な蔵書だと思っていたが、規模が桁違いだ。
「うわあ……」
思わず声が出た。
「ここには魔族が記録してきた全ての歴史と、大陸に関する書物が集まっています。
人間の世界のことも、昔の資料が少しあるよ」
「……全部読むのに何年かかりますか」
「さあ……数百年くらい?」
「生きていられませんね、人間は」
「魔族なら生きてられるけど……全部読んでる人いないと思う」
祖母が書棚の一つに近づき、背表紙を見始めた。
「……「大戦前史」か。あるのか、こういう記録が」
「ここに来た学者さんもそこを見たがってた」
「先生にも後で教えてあげましょう」
私はミーアを見た。
「大戦の記録というのは、どのあたりにありますか?」
「あっちの棚。昔の魔族語で書かれてるから、読めるかな?」
「後で一緒に読んでいただけますか」
「いいよ!」
「あのね、大戦の記録って……どっちが悪かったとか、今も意見が分かれてるの。
人間側が侵攻してきたって書いてある文書と、
魔族が先に攻めたって書いてある文書と、両方あって」
「……人間側でも同じです。どちらが先だったか、書いてあるものがない」
「同じなんだ」
ミーアが少し考えてから言った。
「もしかしたら、どちらが悪かったとかじゃなくて、
単に「怖かっただけ」だったのかもしれないね。
お互いを知らなかったから、怖くて先に動いてしまったとか」
「……子供にしてはするどい意見ですね」
「子供って言った!」
「そうですが、良い意味で」
「「子供にしては」って余分だよ」
「直します」
祖母が書棚の前で静かに笑っていた。
図書室の次は魔法の訓練場へ。
壁と床が魔力で強化されており、大きな魔法を使っても壊れない仕組みらしい。
「ここでミーアも訓練するんですか?」
「うん、毎日。でもあまり上手くないから、よく怒られる」
「最近は少し変わりましたか? あたしが教えたことを試してから」
「変わった! 先生も「何かやり方が変わったか?」って言ってた。
セレスに教わったって言ったら、「人間に習うとは何ごとか」って怒られたけど」
「……そうでしたか」
「でも実力は上がってるから、文句は言えないって最後に言ってた」
「それは前向きでいいですね」
次に案内されたのは城の屋上だった。
眼下に帝都が広がる。
光の粒が街中に漂い、まるで昼間の星のようだ。
「……綺麗ですね」
「でしょ! 夜はもっと綺麗だよ。
暗くなると光が強くなって、全部が輝く」
「夜も見られますか?」
「もちろん! 今夜は泊まっていって」
祖母に振り返ると、祖母はすでに「まあ、一晩くらいは」という顔をしていた。
「……わかりました。泊まります」
「やった! 初めて人間のお客様が泊まる!」
帝都の上で、光の粒が昼の光の中でゆらゆらと漂っていた。
「セレス」
ミーアが少し真剣な顔で言った。
「お父様、セレスのことを気に入ってると思う。
昼食の時の目が違った。あの顔は、本当に興味を持った時の目だもん」
「ミーアはお父様のことをよく見ていますね」
「だって大事な人だから」
それは、さらりとした言い方だった。
でも、その言葉の重さを私はちゃんと受け取った。
「……ミーアも、今日来てよかったです」
「私も!」
「友達になれてよかった」
「うん!」
ミーアがまた笑った。
帝都の上で、光の粒が揺れていた。




