第十八章 皇帝と昼食
食事の間は、城の中ほどにある広い部屋だった。
天井には水晶に似た結晶が吊り下げられ、やわらかな光を放っている。
料理が運ばれてきた。
色が鮮やかだ。深い赤、鮮やかな緑、透明な琥珀色のスープ。
「人間の食事と違うだろうが、食べられるものばかりだ。
味付けは控えめにさせた」
「ご配慮ありがとうございます」
琥珀色のスープを一口飲んだ。
甘みと塩気とほんのわずかな苦みが同時にある。でも不快ではない。
むしろ、美味しい、という感じだ。
「……美味しいですね」
「そうか。山の薬草と岩清水で煮出したものだ。
魔族の基本的な料理で、魔力の回復にも役立つ」
先生が目を輝かせている気がしたので、そっと足の下から先生のつま先を踏んだ。
先生が微かにうっ、と言ったが、表情は保った。
「学者か?」
皇帝が先生を見て言った。
「はい。魔法学を専門にしております。
ただ今日は客人として参りましたので、研究の話は」
「構わない。昼食の間くらい、自由に話せ」
先生が目を輝かせた。
「では一つだけ……この城の壁に施された魔力紋様ですが、
あれはどのような仕組みで——」
「積み重ね式の定着魔法だ。
歴代の皇族が少しずつ重ねていった。今は五代分ある。
互いの魔法が干渉して増幅される仕組みだ」
「……それは理論的に、どのような——」
「食事をしながら話そう」
先生と皇帝の魔法談義が始まった。
祖母と皇帝は料理の合間に昔話をした。
私とミーアは隣で小声で話した。
「……どう? 帝国は」
「思っていたより、ずっと文明が発達していますね。
特に魔法の実用化は。
人間の都市に「城全体を守る防御魔法」があるところは、見たことがありません」
「魔族は昔から「まず守る」を優先したからかな。
大戦の時の話が今でも語り継がれているから」
「……大戦について、詳しく聞いてもいいですか?
人間側の記録はあまり残っていなくて」
「うちの記録には残ってるよ。後で見せてあげる。
ただ……あまり気持ちのいい記録じゃないかもしれない」
「それでも知りたいです。正確な歴史を知らないと、正確な判断ができないので」
ミーアが少し考えてから、頷いた。
「うん、わかった。セレスなら正直に見せていいと思う」
料理が次々と出てきた。
薄く切った肉に香草が絡まったもの、人間のパンに似た食感のしっとりしたもの、
最後に果物を使った甘い料理。
どれも美味しかった。
「美味しかったですか?」
食事の終わりに、皇帝が私に聞いた。
「とても美味しかったです。特にスープと最後の甘い料理が」
「あの甘い料理は、ミーアが気に入っているものだ」
ミーアが照れたような顔をした。
「セレスも気に入ってくれると思ったから」
「気に入りました。ありがとうございます」
皇帝が、少し柔らかくなった目で私を見た。
「セレス・ラングレー、一つ聞いていいか。
なぜ慣習を気にせず、ミーアと友達になった?」
「困っている人を見たら、できる範囲で助けたいと思うのは、
人間でも魔族でも関係ないと思ったからです。
それから——ミーアが純粋に友人を求めていたので、
それに応えることに、種族の違いは関係ないと感じました」
「……それだけか?」
「あとは、単純に話してみたら面白い方だった、というのもあります」
「「面白い」」
「好奇心旺盛で素直で、一緒にいて楽しいと思いました」
皇帝がかすかに笑った。
「……正直な子だな」
「そうするよう育てられました」
「祖母のエリスにか?」
「はい」
皇帝が祖母に目を向けた。
「よく育てた」
「……自分で育ったんですよ、この子は。私はちょっと手伝っただけ」
その答えに、皇帝がまた少し笑った。
ミーアが「お父様が笑ってる!」とこそこそ私に言ってきた。
「珍しいですか?」
「すごく珍しい! お父様が笑うのは月に一回くらいしかないもん」
「……ミーア、聞こえているぞ」
ミーアがまったく動じず「えへへ」と笑った。
この父娘、やはり仲がいい。




