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第十七章 帝国の城

 帝都は、遠くから見るよりずっと大きかった。


 石造りの建物が立ち並び、広い道が通っている。

 人間の城下町に似た構造だが、随所に「人間の都市とは違う」点がある。


 まず、空中に光の粒が漂っていた。

 小さな、淡い光。蛍に似ているが、動きが規則的だ。


 次に、建物の窓に硝子がない。

 代わりに、薄い魔力の膜が張ってある。透明で外から見えるが、風も雨も通さない。


 そして子供がいた。

 走り回りながら、手のひらから光の玉を出して遊んでいる。


 「……子供から魔力を使うんですね」


 「うん。魔族は生まれた時から魔力があるから、使い方も自然に覚える」


 「人間は生まれつき魔力がない人のほうが多いですから、違いますね」


 「人間ってそうなんだ」


 「魔族の方々が強力な魔法使いが多いのは、そのためかもしれないですね。

 物心ついた時から使い続けているわけですから」


 先生が横からぼそりと言った。


 「生まれつき使える場合は、無意識の使い方が体に染み付いてしまいます。

 後から学ぶ場合は、最初から意識的に制御を作れる。どちらにも利点があります」


 城は帝都の中央にあった。


 「城」というより「宮殿」という言葉が似合う。

 外壁は黒みがかった石で作られており、その表面に光の紋様が走っている。


 「城全体に魔法がかかっています?」


 「うん。防御と内部の維持のために。

 三百年以上かけて魔法を重ねてきたから、嵐でも地震でも壊れないって言われてる」


 城の内部は広く、天井が高く、壁に沿って光の結晶が並んでいる。

 廊下を歩くたびに、足音が石に吸い込まれるような静けさがある。


 「静かですね」


 「城の中は音を抑える魔法がかかってるの。

 ざわざわしてても、必要以上に音が広がらないようになってる」


 「……合理的ですね」


 案内された応接の間でしばらく待つと、ミーアが「お父様を呼んでくる」と出ていった。


 「……先生、今はまだ表情を作っていてください」


 「はい、わかってはいますが……でも壁の魔力紋様の構造が——」


 「後で全部聞きます」


 「善処……しましょう」


 祖母が部屋の隅まで歩いていき、壁に手を触れた。


 「……よく作られている。本当に三百年以上積み重ねた魔力だ」


 「おばあちゃんも今は落ち着いてください」


 「落ち着いてるよ。ただ感心してるだけ」


 この二人を連れてきたのは失敗だったかもしれない、とひっそり思った。


 やがて扉が開き、ミーアが戻ってきた。


 その後ろに——一人の男性が入ってきた。


 背が高い。銀白の長い髪を後ろで一つにまとめ、黒い衣をまとっている。

 目は深みのある紫色で、静かな光を宿している。

 三十代後半くらいの顔立ちだが、目だけが何百年分かの時間を経た深さを持つ。


 「ようこそ、人間の客人たちよ」


 深く、落ち着いた声だった。


 「我はルーヴェン。この帝国の皇帝だ」


 私は静かに一礼した。


 「セレス・ラングレーと申します。ミーア様にお招きいただき、参りました」


 祖母が続けた。


 「エリス・ラングレー。セレスの祖母です。

 若い頃にはこちらの方々と縁がありました」


 「イザーク・ヴォルフ。魔法学者です。同行をお許しいただき、光栄です」


 皇帝ルーヴェンが三人を順番に見た。

 私を見る目は、値踏みではなく——観察だ。


 「エリス・ラングレーか」


 皇帝が祖母を見て、静かに言った。


 「三十年以上ぶりだな」


 「……あなたが、あの時の」


 「そうだ。若い頃、山の中で会った。覚えていてくれたか」


 「忘れるはずがない。あの頃から、随分偉くなられましたね」


 「若い頃は皇子の一人だった。今は皇帝だ」


 「皇帝とわかっていたら、あんな偉そうな口は聞けませんでした」


 「あの頃の話し方のほうが、俺は好きだったが」


 二人が穏やかに話している。


 ……おばあちゃん、若い頃に今の皇帝に会っていたんですか。


 私は一人で少し驚いていたが、顔には出さなかった。


 皇帝がこちらを向いた。


 「セレス・ラングレー、ミーアから話を聞いた。

 人間でありながら山に一人で入り、ミーアに魔力制御を教えた、と。

 魔力は持っているか?」


 「少しは」


 「少し、か」


 皇帝がかすかに笑った気がした。


 「まあよい、今はそれで。ひとまず昼食にしよう」


 「ありがとうございます」


 「ミーア、案内しろ」


 「はーい!」


 ミーアが元気よく返事をした。


 この皇女のこの調子は、父親の前でも変わらないらしい。


 皇帝はそれを見て、溜め息をつくでも怒るでもなく、

 ただ静かに「行くぞ」と言って先を歩いた。


 ……なんとなく、この父娘の関係が見えた気がした。


 お互いに大事にしているが、それを直接言わないタイプ。


 ウェスタリアの祖父に、少し似ている。


 不器用に愛情を持つ人間は、どの世界にも、どの種族にもいるらしい。



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