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第十二章 ミーアとのこと

 ミーアとは、その後も山で会うようになった。


 「あ、いたいた! セレス!」


 いつも向こうが先に気配を感じて、草むらや岩の陰から飛び出してくる。


 「……今日は帰り道は大丈夫でしたか? 前回急いで帰っていたので」


 「大丈夫大丈夫! ちょっと魔獣が来たけど追い払った」


 「追い払った、というのはどうやって?」


 「魔法。火を出した」


 「……それは大丈夫だったんですか」


 「大丈夫! ちょっと服が焦げたけど」


 「焦げたんですか!?」


 「あはは。大したことないよ」


 大したことない、と笑うが、想像するとかなりヒヤリとする状況だ。


 ミーアはお転婆で、考えより行動が先に出るタイプだとすぐにわかった。


 好奇心旺盛で、知らないことに対してすぐに「なんで?なんで?」と聞いてくる。

 でも聞いたことはちゃんと覚えていて、次の時に「あれってこういうこと?」と確認してくる。

 頭が悪いわけではない。ただ、落ち着きがないだけだ。


 「ねえセレス、人間のご飯ってどんなの?」


 「普通の食事ですよ。パンとかスープとか」


 「魔族はもっと濃い味が好きだよ。スパイスとか」


 「それは前世で食べてみたかったかも」


 「前世?」


 しまった、と思った。

 ミーアは「前世」という言葉に反応した。


 「……あの、気にしないでください」


 「気になる! 前世って何? 人間は前の命があるの?」


 「一般的にはそういう話はないんですが、あたしは特殊な事情があって」


 「特殊!? もっと教えて!」


 ミーアが身を乗り出してくる。


 私はしばらく考えて、大まかな話をした。


 別の世界で別の人間として生きていた。そこで死んで、今の体に転生してきた、と。


 ミーアは目を丸くして聞いていた。


 「……ほんとに?」


 「本当です」


 「すごい……魔族にはそういう話はないよ。

 一つの命を生きて、終わる。それだけ」


 「人間でも、通常はそうだと思います。あたしがたまたま変な転生をしただけで」


 「でもなんか、すごく面白い話だ」


 ミーアがにこにこしている。


 「あんた、変な人間だね」


 「よく言われます」


 「いい意味だよ!」


 私は少し笑った。


 「ミーアは、魔族の姫として生まれることが嫌じゃないですか?」


 「嫌ってわけじゃないけど……」


 ミーアが少し考えてから答えた。


 「窮屈、かな。お城の中では常にお行儀よくしなきゃいけないし、

 魔法も「姫としての水準」を超えないと怒られる。

 こっそり一人で出てくるのが、一番自分らしくいられる」


 「「姫としての水準」というのはどのくらいですか?」


 「平均より少し上くらい。私、才能があまりないから」


 「……そうですか」


 私は少し考えた。


 ミーアの魔力の感触は——「才能がない」と言うにしては、かなりしっかりしている。

 「姫としての水準」の基準が、そもそも高すぎるのかもしれない。


 「もしよければ、一緒に練習しませんか」


 「練習?」


 「魔法の。あたしも今、制御の訓練をしています。

 一人でやるより、誰かと一緒のほうが気づくことがある場合もあるので」


 ミーアが目を輝かせた。


 「いいの?!」


 「ミーアが嫌じゃなければ」


 「全然嫌じゃない! やる! 絶対やる!」


 こうして、山の中での魔法練習という奇妙な会合が始まった。


 私とミーアが並んで、各自の魔法を練習する。


 見ていると、ミーアの魔力は確かに「才能がない」とは言えない。

 ただ、制御が荒い。力があるのに扱いが雑なため、効率が悪い。


 「ミーア、火を出す時に力を使いすぎています。

 もっと少ない力で、同じサイズの火が出せるはずです」


 「……どうやって?」


 「出す量を先に決めてから、流してみてください」


 「先に決める?」


 「そう。「これだけ出す」と決めた後で動く。

 先に動いてから量を調整しようとすると、どうしても過剰になる」


 ミーアがしばらく真剣な顔をした。


 それから、炎を出した。


 今までより小さく、でも密度が高い。


 「……あ」


 ミーアが驚いた顔をした。


 「こっちのほうが全然楽だ」


 「そうです。力が少なくて済む分、長時間使えます」


 「セレス、教えるの上手じゃん!」


 「上手かどうかは……まあ、わかっていることを話しているだけです」


 「でも「わかっていること」を「わかるように話す」のって難しいよ?

 私のお師匠様、いつも「わかれ」としか言わないもん」


 「それは確かに難しいですね」


 前世でも、仕事ができる人が必ずしもいい教育者とは限らない、という話はよくあった。


 「教えてもらえる人がいるのはいいことです。

 師匠の言葉を「わかれ」としか受け取れなかったのは、

 もしかしたら今まで「量で出す」感覚しか知らなかったからかもしれません。

 「先に決めてから流す」を試してみたら、師匠の言葉も違う意味に見えるかも」


 ミーアがじっと考えた。


 それから、ゆっくりと頷いた。


 「……そうかも。ちょっと帰ってやってみる」


 「うまくいくといいですね」


 「うまくいったら報告する!」


 元気よく笑うミーア。


 こういう素直さは、一緒にいて気持ちがいい。


 前世でも、素直な人間と働くのは好きだった。




◆◆◆




 その日の帰り道、私はふと気づいた。


 ミーアの魔力の感触が、あたしが本で読んだ「魔族の魔力の特性」と少し違う。


 書物には「魔族の魔力は人間より強く、制御に難がある」と書いてあった。


 でもミーアの魔力は——確かに「才能がない」というほどではないし、

 「制御に難がある」とも感じなかった。


 むしろ、ほんの少し扱い方を変えたら、見違えるほど精密になる可能性がある。


 ……まあ、それはミーアが自分で気づいていくことだ。


 あたしが先走って「こうしなさい」と言う必要はない。


 必要な時に、必要なことを。


 前世でも、仕事の手伝いはそういうやり方が一番うまくいった。




◆◆◆



 その日の帰り際に、ミーアが言った。


 「ねえ、また来ていい?」


 「来ていいですが——」


 私は少し考えた。


 ミーアが山脈の向こうから来るのは、簡単ではないはずだ。

 毎回タイミングを合わせるのは難しい。

 それに、私も毎日山に入れるわけではない。


 「約束の日を決めませんか」


 「約束の日?」


 「例えば「毎月の十日と二十五日の昼」というように。

 その日に来る、こちらも来る、という形にすれば、

 お互いに空振りしなくて済みます」


 ミーアが少し考えた顔をした。


 「……それ、いいかも。私、急に来てもセレスがいない時があって、

 なんか損した気分になってたから」


 「あたしも行っても誰もいない時がありましたよ」


 「あ、そうだったの? ごめん」


 「謝らなくていいです。決めておけば解決しますから」


 「じゃあ十日と二十五日!」


 ミーアが元気よく言った。


 「来られない時はどうします?」


 「その時は前の日に……どうやって連絡する?」


 「カインに伝言を頼む、という形ではどうですか。

 カインはここへ来ることがありますし、

 あなた側の亜人の集落に話を渡してもらえれば」


 「亜人の集落って繋がってるの? 人間側と魔族側で」


 「山脈の中には様々な亜人が住んでいますから、おそらく。

 カインに聞いてみます」


 後日カインに確認したところ、「山脈の中腹には複数の集落がある。

 伝言なら渡せる」という返事だった。


 こうして、月に二度の「約束の日」が決まった。


 十日と二十五日の昼。


 地味だが確実なやり方だ。

 前世でも、定期的な打ち合わせは「場当たりより定例のほうが続く」

 というのが鉄則だった。


 人間でも魔族でも、仕組みは同じらしい。


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