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<EP_014> 星屑を拾う帆船

ダイダロスがシチリアに辿り着いたということは、まもなくミノス王に伝わるだろう。

ダイダロスとイカロスがクレタ島を脱出したことを知れば、ミノス王は自分を殺すであろうことはナウクラテーには分かっていた。

港で商人から話を聞いた夜、ナウクラテーはイカロスの手紙とアステリオスの絵を持ち、クレタ島の断崖の淵で星を見上げていた。

そこで跪いて両手を組み、神へと祈った。

「神よ…これがあなたの私への罰だと言うのですか。私が奴隷という身分、妻という役割を捨て、母として生きることを願った罰だというのですか。アステリオスが殺されたのは、他者から怪物というレッテルを貼られ、それでも高潔に心優しき弔い人であり続けたことへの罰だと言うのですか。イカロスが死んだのは人の身でありながら神を告発し断罪したからなのですか」

それは、祈りと言うよりも呪詛であった。

「神よ。他人から与えられた役割を捨て、自分に見出した役割を生きることが罪というのですか。人が自分の内なる生き方に正直に生きることが罪なのですか。それが罪だというのならば、それはあまりに不当です。それが正当な罪だというのであれば、私はあなたを呪います」

ナウクラテーは星空に向かって訴え続けた。

自分のここまでの生き方、失った二人の息子の無念を乗せ、ただひたすらに訴え続けた。


その悲痛な母の訴えは星の女神であるアストレイアに届いた。

裁きの神でもあるアストレイアはナウクラテーの訴えを聞き、左手の天秤を取り出すと、ナウクラテーの呪詛を右の秤に乗せ、左の秤にはイカロスの羽根とアステリオスの首を置いた。

天秤は静かに揺れ続けた後、平衡を保った。

それを見届けた後、アストレイアは地上のナウクラテーへと話しかけた。


「ナウクラテー。あなたの訴えは聞き入れられました。あなたがあなたのままで生きることは罪ではありません。あなたはあなたのままで良いのです。人が他者に押し付けられた役割から外れることは罪ではありません。人が身分を越えて他者を断罪することも罪ではありません。人は人のままで生きて良いのです。そして、その生き方は身分によって決められるものではありません。ナウクラテー、あなたに罪はありません。あなたに与えられた罰は不当なものと断じます。ですから、あなたの罪を免じ、私からささやかな贈り物をすることにしましょう」

そう、アストレイアの声が聞こえると、星空から一艘の帆船が降りてきた。

その帆船はナウクラテーのいる断崖に接岸した。

帆船の甲板には牛頭の少年と、翼を持った少年が静かに微笑み、ナウクラテーへと手を伸ばしていた。

「ああ、アステリオス…イカロス…」

ナウクラテーは少年たちの微笑みに導かれるように帆船へと乗り込んでいった。

ナウクラテーの足が断崖から踏み出されると、一瞬、身体がフワリと浮き上がるような感触の後、ナウクラテーは帆船の甲板に立っていた。

アステリオスがナウクラテーを片手で抱きしめると、舵輪を回し、イカロスが舳先へと飛び立ち天空を指差した。

すると、帆船は静かに夜の空を滑り出していく。

アステリオスの力強い腕に抱かれながら、イカロスの無邪気な微笑みを見ながら、ナウクラテーは歌った。

アステリオスの雄々しさと優しさを讃える歌を。

イカロスの無邪気さと勇気を讃える歌を。

ナウクラテーの歌とともに、帆船は星の海へと静かに漕ぎ出していった。

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