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<EP_012> 断罪の太陽

翼が完成すると、ダイダロスとイカロスは夜明けを待って脱出することを決めた。

出発前にダイダロスはイカロスへと説明をした。

「イカロスよ、飛び出したら、ほどほどの高度を保つことが大事だ。高く飛びすぎれば太陽の熱で蜜蝋が溶け、低く飛べば海からの湿気で海鳥の羽根が重くなる。ほどほどが大事だ」

そうダイダロスは何度も言ってきた。

そして、朝日が見えた時、イカロスはダイダロスの翼を持って塔から飛び出した。

翼を羽ばたかせると、翼は風を掴みイカロスの身体を中へと浮かばせた。

地上がどんどんと遠ざかり、眼下には青い海が広がっていった。

イカロスが飛行に成功すると、ダイダロスは翼を持って自分も飛び立っていった。

ダイダロスは大空へ飛び立つと高らかに叫んだ。

「ハッハッハ、やはり俺は天才だ!俺は神に愛されている!俺のような天才は陽の光を浴びて輝くべきなのだ!」

ダイダロスの高笑いを聞いてイカロスは怒りを覚えた。

(何故だ!アステリオスは闇の中で死んだ。怪物とされ、無惨に殺された。しかし、この男は天才とされ、今また、別の世界へ飛び出そうとしている。何故だ!)

イカロスが憤懣を募らせていると、朝日は強くなり、雲の切れ間から差し込む光がダイダロスを祝福しているように見えた。

イカロスは憤怒に駆られ、高度を上げていった。

「イカロス!高度を上げるな!」

下からダイダロスの声が聞こえたが、イカロスは聞き入れるつもりはなかった。

(俺は父様のようには生きない。俺は俺として生きるんだ!)

そんな想いでイカロスは高度を上げ、ついには雲海を突き抜けた。

雲海を抜けると、そこには神々しいほどの世界が広がっており、眼の前には太陽があった。

「太陽神ヘリオスよ!私はあなた聞きたいことがあって参った」

イカロスが太陽を見上げ叫ぶと、太陽から答えが返ってきた。

「何用だ。ここは神々の住む天界である。人の身でありながら、ここに来ることはまかりならん。身分をわきまえよ」

太陽からの声は、厳かな声でイカロスを諌めてきた。

「だが、神は寛容である。お前が何も言わずに黙って人界に戻るのであれば、何もせずに返そう」

その傲慢とも言える言葉はイカロスをさらに苛立たせた。

「太陽神ヘリオスよ。あなたの光は全ての者を照らすはずのものです。ならば何故、アステリオスを照らして下さらなかったのですか」

イカロスは叫んだ。

「アステリオスは、あなたの娘パシパエの息子であり、あなたの孫のはずだ。傲慢な天才のダイダロスや殺戮者のテセウスは照らすのに、孫のアステリオスには光を与えなかった。これは、あなたの不手際ではありませんか!」

それは告発であった。

実の父母や姉にも見放され、神である祖父にすら何の恩恵も与えられず、怪物として殺されたアステリオスの魂を救済するための告発であった。

イカロスの告発にヘリオスは沈黙していた。

「ヘリオス神よ、答えて下さい。アステリオスには……我が兄には何故光が与えられなかったのですか!」

イカロスは更に声を張り上げて叫んだ。

その告発にヘリオス神は声を荒げて答えてきた。

「神の警告を無視し、人でありながら神の世界へ足を踏み込み、ましてや神を断罪しようなど、不遜極まりない。その罪は万死に値する」

その言葉とともに太陽からは熱線がほとばしり、イカロスの身体を焼いていった。

神の業火により身体を焼かれながらもイカロスは叫んでいた。

「神よ!我が兄アステリオスと母ナウクラテーに救いを!全ての者に光を!」

「黙れ、神を恐れぬ不届き者め!」

イカロスを焼く熱線によりイカロスの羽根の蜜蝋は溶け、水鳥の羽根が舞い散り、翼は浮力を失い、イカロスは墜ちていった。

「神よ……」

そう呟き、イカロスは海上へと落ちていった。


「ふん、俺の言うことを守らんから、そうなる」

海上へ落下するイカロスを遠目に見て、ダイダロスはそう吐き捨てると、そのまま飛び去った。


甲板の上でイカロスは今までの無邪気な笑顔を一変させ、悔しそうに天を仰ぎ、拳を握りしめていた。

そのイカロスをナウクラテーとアステリオスが両脇から抱きしめると、イカロスの顔は元の無邪気な顔へと戻っていった。

「こうして、イカロスは死んだのよ」

ナウクラテーの口から聞かされた事実に少女はただ驚くばかりだった。

「あなたの世界では、イカロスは父の言葉を聞かずに無謀にも高度を上げ、太陽に近づき過ぎたために翼の蜜蝋が溶けて墜ちたってなってるのよね」

ナウクラテーの問いに少女は頷く。

「でも、本当は違う。イカロスは神によって殺されたのよ。人として神の世界に踏み込み、神を告発し、断罪しようとして、神の怒りに触れて殺されたのよ」

そう言い放つと、ナウクラテーは天を仰いだ。

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