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若き太陽神はかく背中を押した

というわけで3件目、お社はさすが神戸というべきか、おしゃれなブティックのような場所だった。かなり大手で活気はあったが先ほどよりは落ち着いた雰囲気である。

 明石さんが事前に話を通してくれたのだろう。今回はスムーズに御祭神に面会できた。

「私が稚日女尊わかひるめのみことよ。初めまして。」

 出てきたのは後光が指しているかの如く眩しいオーラを背負った美しく、そして若い女神様だった。高校生のような容姿とおしゃれな服とその風貌はそれこそ若手のブティックのオーナーのように見える。スサノオ様と相性が悪いとは聞いていたが、確かにこれは相性が良くなさそうだ。

 彼女はおしゃれな部屋のおしゃれなソファーに腰掛けるように勧めてくれた。流石に女神様である。見た目はともかく作法は完璧だ。

「話は聞いたわ。恋のお悩みだそうね。」

「……まぁ、縁結びと言った方が正確ですが。」

「同じことよ。」

 なんだか話がずれている気がするが、食い気味に話を聞いてくれるのはありがたい。

 と、いうか女性はこういう人の色恋沙汰を話すのが好きなようだが女神様も同じのようだ。彼女はビジネスの話をしに来たといった様子ではなく、どこか嬉しそうで、まるで楽しい雑談をしに来たようである。

 彼女は明石さんから色々聞いているのだろう。みなまで言うなと言わんばかりの勢いで彼女は俺の手を握る。

「安心して、あなたたちは神の加護がついているわ。まずは自信を持って。」

「……ありがとうございます。」

 ガッチリ手を握る女神様。なんだか主語が気になるが、水を差すのもどうかと思いそのまま話を進めることにした。

「……で、彼女の縁を結んでいただけるということであとは結果を待てば良いということでしょうか?」

「そうね、良い質問だわ。」

 彼女はうなづくと手慣れた手つきでタブレットを操作しざっとデータを確認してこちらをじっと見据える。

「彼女は内気だけどとっても良い子。信心深いし優しい。ああ見えても家事もできるわ。ただ、いざという時に自分から踏み出す勇気が持てず困っているのよ。」

 まるで預言者か占い師みたいだ。

 流石女神様である。若い見た目なのに神々しさが凄まじい。俺は彼女に見つめられて目が眩む思いがした。

 と言うか実際眩しい。

 流石太陽神である。

「だからあなたは自信を持って彼女を導いてあげて、あなたはやれるわ。だってこうやって私たちと話ができるんだもの、これはすごい能力なのよ?」

「……確かにそうですね。」

 そう言われると悪い気持ちはしない。よく考えると、こうやって色々な神々が縁を結ぼうと頑張ってくれているのはある意味彼女は幸せなのかもしれない。

「あなたはやれるわ。大丈夫、運命を感じて彼女の心の声を、神々の声を聞くの。幸せはすぐそこよ。あなたの信じる道を行きなさい!」

「はい、ありがとうございました!」

「頑張ってね。」

 女神の祝福、それはとても心地の良いものだった。こうやって話しているとどんどん自信が湧いてくる。

 確かにこれならなんでもできそうだ。

 俺は湧き上がる勇気を胸に俺はお社を後にした。

 さて、これで一件落着。女神様の祝福を受けた俺に成せぬことはない。

 こうなったら行動あるのみである、

 ……。

 あれ?

 さっきの話、俺が励まされただけじゃない?

 何か解決してるの?これ

 っていうか俺が自信持って何をしろって言うんだ?

 しまった、もう一度確認を!

 と振り向いたが、その瞬間。俺の目に見えていたお社の「入口」が目の前で消えていった。

 時間切れ、ということらしい。

 元々時間ギリギリの夕方に駆け込んできたので、確かにこうなるのも当然だが確認漏れはまずい。

 俺は慌てて「入口」に向かったのだが、俺を出迎えたのは、突然降り出したバケツをひっくり返したような雨だった。

 たまらず近くのゲームセンターに駆け込む俺。

 なんと言うタイミングだろうか。

 もうなんだか帰れとすら言われた気分である。

 確かにある種の神様は日没を過ぎると霊威が随分と衰える神様もいる。こちらの神様も太陽神ということだからまぁ、日没、しかも雷雨となればその力を示しづらいのだろう。

 それにしても失敗した。

 なんだかものすごい神々しさと励ましの言葉に押されたが、こちらの行動指針はなんら決まっていない。

 もう少し粘って確認するべきだった。

 轟然と降りしきる雨を眺め困惑する俺。その視界に傘を刺した岩永さんが映った。

「そちらも用事は終わりました?」

 どうやら向こうも急な雨に見舞われてコンビニか何かで傘を買ってきたらしい。ご丁寧にタオルまでこちらに渡してくれた。

「ええまぁ、消化不良な感じですが、まぁ時間が時間ですので。」

 裏の事情の知らない彼女にはもうこう言うしかない。俺は彼女にもらったタオルで頭を拭きながら嫌がらせのように降る雨を眺めた。

「雨、すごいですね。」

 俺の内心を知ってか知らずか、彼女が同じく雨を眺めて呟く。確かにもはや暴力的と言っても良いくらいの降り方である。駅まではそんなに離れていないが、そこに向かうことすら躊躇われる降り方である。

 帰りどうしよう。

 そんな考えがふとよぎった瞬間彼女が声をかけた。

「榊さん。この際ですし、ご飯食べて行きませんか?お礼も兼ねて奢りますよ。」

 その声に俺はあれこれ考えすぎている自分に気がついた。

 雨だろうが、縁結びだろうが前向きに捉えたらなんとかなるだろう。なにしろ神様が大丈夫と言っているのだ。人間の俺がとやかく心配することではない。

 俺は笑顔で彼女にうなづいた。

「じゃあ、どこかで気長に雨が止むのを待ちますか。あ、お金は私が出しますよ。」

 そう言うと俺はスマホで周辺の検索を始めた。

 よくよく考えれば、そんないきなり目の前で奇跡が起こるわけでもない。神様の言質もとったことだし。今回は成功と見て良いのではないだろうか。

 まずは気長に彼女の幸せを見守ろう。

 俺は彼女と食事をしながらそう結論を出していた。



思いのままに行けばよし!

女神様が言うのなら

そっと黙って見守ろう

これで一件落着?したはずなのに

雨はなかなか止みません

さて、こののちの展開は?

それは次回のお楽しみ

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