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上皇様はズルがお嫌い

 さて、なんだか話の流れで彼女を京都に連れて行くことになったわけだが、大きな問題が一つ。

 よくよく考えたら重大な問題があった。

 すなわち「どうやって彼女を誘い出すか」である。

 ヤモリ様の話を出さずに彼女を京都の神社に連れて行くとなると、もはやデートに誘うような話になってしまう。元々の知り合いでもなく、たまたま仕事で数分お話ししただけの関係でいきなりこれはハードルが高い。しかも目的は彼女の縁結びのお願いである、もうなんだか意味がわからない。

 これ、もはや俺が口説いた方が話早くないか?

 なんだかそんな気がしてきたが、下手すれば警戒されて二度と「通りすがりの不動産屋」としてはあそこに近づけなくなるし、うまく行ったら行ったでそこからは逃げ場のない結婚を前提としたお付き合いの始まりである。会ったばかりの女性相手にわざわざそこを踏み抜きに行く勇気はない。

第一、そんな彼女を思いつきで口説ける技量も自信もそもそもない。

 さて、どうしたものか。

 たっぷり一晩あれこれ思案を重ねた結果。


三日後、なんだかんだで俺は岩永咲耶と二人で京都市内にいた。


 どうにかなるものである。


 きっかけは、驚くことに彼女からかかってきた電話だった。

 なんでも業務委託を考えるのは流石にお父さんに反対されたとのこと。そのお詫びの電話だった。

 じゃぁいただいた資料をお返しに伺いますときっかけを作ろうとしたところ、なんと次の休みの日は京都に行く用があるという。

 それならば、と本日ともに京都を散策する運びとなったのである。

「すみません。一緒に来てもらって。私、京都は詳しくないので助かります。」

「いやぁこちらも仕事の都合で京都に来る用事ありましたからちょうど良かったです。」

 嘘ではない。むしろ渡りに船である。

「それにしても、岩永さんはどういった用が?」

「見舞いに行ったら父が急に生八ツ橋が食べたいと言い出しまして、しかも清水寺の近くにあるやつを。」

「……なにか思い入れでもあるんですかね?」

 マンションの仕事を任せている娘に随分なことを頼むものである、

 俺はなんだかんだと、京都にある金比羅さんを祀る神社に連れてくることに成功していた。休日なこともあって、神社の境内は人が一杯である。

「すごい人ですね。ここって有名なんですか?」

「この神社は、縁切りと縁結びで有名で、みんなこうやってお参りしているんですよ。岩永さんもあれこれありましたから、お参りして行ってください。」

 我ながら自然な流れだ。

 俺は彼女に行列に並ぶよう勧め。

「では、私は仕事の用がりますので。」

 とその場を後にした。

 これも嘘ではない、俺は人だかりを外れると、霊的な別の「入り口」に向かった。当然手ぶらというわけにもいかないので手土産として日本酒も持参済みである。

 中に入ってみると、そこはどこかお役所のような光景で、あちこちに神使らしき人が黙々と書類の束とパソコンに向き合っていた。

 俺は貢物受付で手渡し、要件を伝えると背広姿のどこか神経質そうな神様が現れた。

「また珍しい。人間が直接お参りかと思えば貢ぎものとは良い心がけである。朕が崇徳である。」

「どうも、大阪から来ました。榊です。」

 下調べしてきたが、「金毘羅宮」とは崇徳上皇と大国様を祀った神社のことで、それが外国の神様とごっちゃになって「金毘羅さん」と呼ばれるようになったという経緯がある。言ってみればユニット名のようなものである。どちらかというと海運や商売繁盛の神様として有名だが、ここでは縁切り、縁結びとして有名である。ある意味、崇徳上皇と大国様とくればこちらが本職と言えるだろう。

「お忙しそうですね。」

 お世辞でもなんでもなく、周囲を見渡して俺は言った。周りはひたすら活気に満ちている。現実社会のあの行列がこちらにも影響が出てるのだろう。むしろよく応対に出てくれたものである。

「うむ、ここのところ「えすえぬえす」とやらで随分評判になってな。随分と仕事が増えてしまった。縁を切るのは簡単やが、結ぶのはなかなか大変でな。」

「と、いうと?」

 そう言われると上皇様はタブレットを取り出して図を示した。

「まずこの人「乙」はこの人、「甲」と縁を結びたいとする。」

「はい。」

「しかしながら「甲」は別の人物「丙」と縁を結びたいと願う。」

「あー。」

「しかも「乙」と縁を結びたい「丁」という人物がおったりするとこれがもう、どうまとめたものかという話になる。」

「……確かに。これはややこしいですね。」

 タブレット上に現れた丸印と矢印が複雑に入り乱れる姿に俺は頷いた。

「左様、これが歌手やスポーツ選手のような有名人となるとこうなる。」

「……うわぁ。」

 一個の丸におびただしい矢印が集まる図に俺は思わず声を上げた。

 確かにアイドルとの縁をお願いする人は少なくない。話を聞く神様も楽ではないわけだ。

「もちろん、こちらも仕事であるからして、様々素行や信仰心などを加味して審査するわけであるが、こうなると全国規模の祈願を集計して事に当たる事になる。」

「ああ、それで‥‥。」

 通りで事務所にパソコンが並んでいるはずである。よく見ると大国様が何柱も並んでいる。多分分身してデータを入力して何処かの審査にかけているのだろう。

「よくわからんのは、戯作の登場人物と結ばれたいとかいうやつであるな。これはどうすればよいのか。」

「……いや、それはもう放置でいいかと。」

 言いながらアニメのキャラを結ばれたがる女子の絵馬が大量に出てくる。こうなるとどうしたら彼女たちが喜ぶのか俺でもわからない。

「で、上皇様今回は縁結びのお願いでして。」

「ふむ、縁結びな、これもまた大変でな。やれ裕福な人がいい、顔の整った人がいいとか色々言うのだが、これだけだとなんともいえぬでな。身近にいる相手を適当にあしらっても気づかないし、さりとて縁遠い人と引き合わせるとなるとこれがなかなか……。普段の行いが良いか、他に縁結びのお願いをされていないか、この辺を調べておかないとあちこちで神々が喧嘩してしまうのでな。」

「つまり?」

「結果が出るにはそれなりに手続きが必要と言うことだ。朕は横入りというのは好かぬでな、一応、年に一回、出雲お社で会議をやっておるが、今はインターネットで連絡を取り合い、まぁどうにかしておる、これでも早くなったのだがな。それに、お主は人間ではないか、どうしても特別に計らいを、というならそれなりの証明をしてもらう必要がある。」 

「証明、ですか?」

 俺の言葉に上皇様は頷くと何かを取りに事務所奥に入って行った。


 一体何を証明しろと言うのか?


 自慢ではないが、こうやって神々と対話できると言う以外の特殊能力は全くない、魔物を払えとか、禅問答に答えろとか言われてもはっきり言って答えられる自信は全くない。

 ドキドキして待っていると上皇様は書類を持って帰ってきた。

「お主、娘の家の守り神の頼みできたと言うておったな。その言葉に嘘偽りはないな?」

「はい。」

 上皇様の言葉に腹を決めて頷く俺。それに上皇様は一枚の書類を差し出す。

「では。この委任状に署名と捺印をもらってくるように。」

 そっちか。

 結構直球である。

 というか割としっかりしている。

 あれこれ試練を課せられることを想像していた俺は勝手に肩透かしを食らった形になってしまった。

「さて、お主は巷の呪い屋か何か?」

「いえ、弘田神社の社員としてきております。」

「では、そこな神々にこの推薦状を。」

 なるほど、まぁ、神の代理人としての証明書が必要ということか。なかなかしっかりしている。

「あと、お主の素行と能力を証明する内申書を。」

 あー。

「あとお主の戸籍謄本と証明書のコピーを。」

 神が戸籍謄本?

「それと申し込み時に推薦人に電話確認するので推薦人の連絡先と了承を。」

 いやいや。

「書類は全て複写式になっておるので一枚目と二枚目にも捺印するように。」

 結論。

 なんとも面倒臭い。

 というかお役所レベルなしっかり具合である。

 少なくとも今日のところは書類を持って帰らねばならないようであるが、こんな調子では随分かかりそうである。

「これを書いてくれば優先的に縁を繋いでくださる。と?」

「うむ、これを受けて朕が稟議書を作成して申請をかけ、咲耶なるものの審査を経て神々の了承を得られればどうにかできる。」

 これは先が長そう。

 普通にお参りして帰った方が早い気がしてきた。

 これだけ願主が先にいるとなると手続きはそれなりに必要になるのだろう。順番を飛ばしてなんとかしてくれと言うのは度を越した願いというのは百も承知だが、このシステムを動かすにはそれなりの手続きとパワーが必要なようである。

 要約すると、申し込む側は結果面倒臭い。

 もはや嫌がらせにすら思えてくる。

「書類は不備なきように。朕はズルは好かぬでな。」

 上皇様は最後にこう付け加えた。

 多分この神様の性格もあるよな。

 俺はそう思った。



何があったか知らないが

上皇様はズルがお嫌い。

みんなが幸せ望むから

手続きだって大変です

これで解決するかしら?

次回更新お待ちあれ

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