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八坂縁忠と日野陽助?

「そうだな、これ以上は話す必要はないな」


「ああ、そっ! そうだな」 


 おれは舌を噛んでしまった。これが因果応報というやつか。


<おおっと! 気が付けばSクラスFクラスともに立っているのはそれぞれ一人だけ! 勝つのは絶対王者八坂縁忠なのか! それともボッチ界最強の日野陽助なのか!>


 実況の声におれが比渡の方を向けば、気絶はしていないもののもう動ける状態ではなかった。


<勝て! 日野陽助! わたしの昇給がかかってるんだ!>


 東雲先生ちょっと黙っていてくださいよ。こんな状況でも東雲先生はブレない。それが逆に心強い気もしてくる。


「来い、日野陽助!」縁忠が先に仕掛けてきた。高速の拳が風を切る音を立て、おれに迫る。


「遅い!」おれはその拳をぎりぎりでかわし、カウンターを狙う。しかし、縁忠の動きはおれの攻撃すらも読んでいたかのように次の動作へとつながっていく。


「くっ……!」おれは攻撃をかわしながら隙を探すが、縁忠にはそれすら与えられない。体力も残りわずか、このままではジリ貧だ。


「次で最後にしよう、日野陽助」


「いいねぇ」


 正直今のおれじゃあ縁忠には勝てない、でも一発殴らねぇと美少女との約束すら守れない男になっちまう。


「八坂流柔術、正拳一閃!」


 え? 八坂流ってなに? そんな技あるの? おれにはわんわんパンチしかないよ?


「はっ!」


「おらぁ!」


 二つの拳がぶつかり合い、衝撃波がアリーナ全体に響き渡る。


 その時――


「二閃!」


「ぐっ!」


 縁忠の拳がおれの腹部にクリーンヒットした。


「……まだ倒れないのか、日野陽助!」縁忠が驚き混じりの声を上げる。


「悪いな……こっちには譲れない理由があるんだ!」おれは歯を食いしばる。


 砂埃の中、縁忠の顔が見える。余裕の表情は完全に消え、彼の額には汗が滲んでいた。おれの体はもう限界に近い。でも、ここで倒れるわけにはいかない。今まで一緒に戦ってくれた仲間たちのためにも、この一発にすべてを懸けるしかない。


「うおおおおおっ!」


 おれの拳が縁忠をぶん殴った。


<な、なんと! 八坂縁忠を殴り飛ばしたぁー!>


<よっしゃー! 日野! そのままいけー!>


 実況の声がアリーナに響き渡る。観客席からは割れんばかりの歓声が上がった。


「ぐっ……!」縁忠の目が見開かれ、そのまま一瞬ふらつき――そして、彼は膝をついた。


「どうだ? 少しくらい効いただろ」


「……ああ、効いたよ」


「そのまま倒れてくれればよかったんだけどな」


「本気……お前にならぶつけられそうだ、日野陽助」


 あ? 本気? 噓でしょ? まだ本気じゃなかったの? 嫌よ嫌よ! こっちの体力は限界よ! もう無理、立ってるのだって限界なんだよ!


<おっと、東雲先生。彼らなにやら話していますよ?>


<なにぃー! 今がラッシュをかけるチャンスなのに日野は何をやっている?>


 縁忠の体から溢れる異様な気迫に、観客席全体が静まり返った。その場の空気が一瞬にして変わるのがわかる。


 縁忠は印を組むと、


 「――犬現」


 おれは目を見開いた。


螺厨絶縁(らずぜつえん)之法印」


 縁忠の全身がまるで炎を纏ったかのように熱気を帯びる。そして、彼の拳がゆっくりと構えられた瞬間、アリーナ全体に鋭い緊張感が走った。


「おいおい、マジかよ……」


<犬現だあぁぁ! 高校二年生にして犬現を習得しているとは……これぞ王者!>


<まだ完全ではないが、犬現の形になっている。それにこの感覚、自分の内の犬因子が威嚇している? なぜだ?>


「ありがとう、日野陽助」と良乃は言う。


「決まったね、あなたのわんこ君が負けるよ」と唯は比渡へ言う。


「日野君……」


 なに絶望的な顔してるんだよ比渡、今からおれが陽キャになって縁忠の野郎をぼこぼこにするんだぜ。そんな顔するなよ。

 

「負ける……か。まあ見ていてくれよ美少女諸君」


 ははっ、おれなにかっこつけてんだ? 目の前の王者にビビりすぎて頭空っぽになってるのか?


(ベアトリクス、何かおれにないか?)


(ありません、今の陽助ではあれに勝つのは不可能です)


(お前が諦めるなよ! かっこつけたんだから少しは協力しろよ)


(あれは犬ではない――鬼です)


(なに訳わからねぇこと言ってんだよ!)


(はぁ、仕方ありませんねぇ、勝てるかわかりませんが少しだけ力を貸してあげます)


(おう! それでこそおれの相棒だ!)


(いま恐ろしいものは?)


(ないね)


(不安は?)


(ないね)


『だって――おれたちは、最強の犬夜叉だからな』


 どこかで爆発音が聞こえた……と思ったら、自分のいる足場がえぐれていた。


 ドクン! ドクン! ドクン! おれの心臓の音か? 違う、これは会場のみんなの心音だ。どうして聞こえる?


<なんだなんだ!? 日野陽助の様子が変だぞ? あれは何でしょう東雲先生!!>


<…………。知らん!!>


<それよりなんかヤバくないですか? 東雲先生!>


<ああ――避難だ!! 先生方はSクラスFクラスの生徒を担いで闘技場を出るぞ! 日野陽助と八坂縁忠を残してだ! 急げ!!>


「日野陽助……なのか?」


『知らねぇよ。ただ、気分が良いんだ』


 おれの体に起きている変化は明らかに異常だ。鼓動が異様に高鳴り、血が沸騰するような感覚が全身を駆け巡る。そして、視界の端に奇妙な光の粒が漂い始めた。


「その様子からするに犬現に近い状態だな……だが、暴走だ」


『なんでもいい、これが天孫降臨じゃなくて陽キャ降臨だぜ!』


 あ? 何言ってんだおれ? ついに陰キャが行くとこまで逝ってしまってボッチがボッチになって頭が陽キャになったのか?


 ははは、何言ってるか分からねぇけど、気分は良い。


『行くぜ! 忠義!』


「親父殿の名を口にしないでくれ、おれは縁忠だ」


『おっと失礼』


「アルファ階級因子、攻撃型狩魔(カルマ)!」


 縁忠の周囲に膨大なエネルギーが渦を巻いた。赤黒いオーラが彼の体から立ち昇り、その威圧感が場を完全に支配する。


(来るぞベアトリクス!)


 おれは避けようとしたが、カラダが思うように動かない。


 なんで動かない!


(当り前じゃないですか、陽助が今の自分の状態を制御できるとでも?)


 縁忠の拳がおれの頬にヒットした。


『痛いだろ! まあいいか、あははははっ! ワオーン!!』


 おれ? は縁忠のところまで飛び、ぶん殴ってアリーナの壁に激突させた。


『アン! アオーン!!』


「ぐっ!」


『はよ立てや! おら! ワオン! ワオン! 和音? ワオーン!!』


 おれ? の連撃は縁忠を襲う。


「まるで犬夜叉だな……」


『勇気があれば、いかなる奇跡も呼び込める!』


「ベータ階級因子、武器強化型俱舎十吏槍(クシャトリヤ)」と、槍を掴む縁忠。


 武器はずるいだろ。おれも武器欲しいよ。


「はっ!」


『ワオーン!』


 おれ? は吹き飛ばされたが、空中で態勢を整えて、空気を蹴った。


牙流流流(がるるる)!』


「ぐっ!」


 おれ? の拳が縁忠の腹部にクリーンヒットした。


 だが縁忠はダメージを気にせず反撃してくる。


「一吏! 二吏! 三吏! 四吏! 五吏! 六吏! 七吏! 八吏! 九吏! 十吏! ――十吏之故徒環吏(じゅうりのことわり)!」


 縁忠の技の連撃を防ぎきれないおれ? は防御から吹き飛ばされそうになったが――


『――伽音(きゃいん)!』


 おれ? は鳴き声で縁忠を吹き飛ばした。


「……そうか、これがベアトリクスの犬因子の力か」


『アン! アオーン! ワオン! ワン! ワオン! ワン! ワン! ワオーン!』


「ほんと、陽キャ降臨だな」


 それから――おれ? と縁忠は攻めと守りの戦いを繰り返した。



「はぁはぁはぁ、お互い限界が近いだろう」


『はっはっはっはっ……そうらしい、ワン!』


「提案だが、次の技で最後としないか……」


『そうしよう……ワン!』


 縁忠は今の戦いを楽しんでいるように微笑んだ。


十氏族之槍(じゅっしぞくのやり)大和之王叢(やまとのおうそう)!」


 縁忠の頭上にあった十の槍は一本に収束されていった。


「八坂流奥義――絶到彼岸賛加羅ぜつとうひがんさんから!」


 おれ? には縁忠みたいな大層な技なんて無い。


 だから――


『――(わん)パンチ!』


 おれ? と縁忠の技がぶつかった。


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