決勝
比渡と秋、それにほかの仲間たちとともに、おれたちはアリーナへと向かった。試合の熱気が待つその場所へ――。
闘技場の中央で向かい合う、おれたちFクラスと縁忠率いるSクラス。その場の空気は重く、緊張感に満ちていた。観客席からの声援やざわめきが遠くに感じられるほど、この空間にいる全員が戦いの火蓋を切る瞬間を待ち構えていた。
縁忠の立ち姿はまるで威風堂々とした王そのものだった。目には一切の迷いも、感情も見せず、ただこちらを見据えている。対するおれは、自然と拳を握りしめていた。
<さあさあ皆さんお待ちかね、決勝戦がいま始まろうとしています!>
<そうですねー>
<今回の大会は波乱の連続! 難なく下剋上を果たしていくFクラスとAクラスをたった三人で圧倒してしまったSクラス!>
<やってやれ! Fクラス! わたしの昇給がかかってるんだ!>
<あの東雲先生、本音が洩れています……>
<解説なんてやってられるか! わたしはFクラスを応援する! Sクラスなんてぶっ飛ばせ!>
<あはは……で、では気を取り直して、決勝戦、Fクラス対Sクラスの始まりです!>
試合開始のゴングが鳴り響いた瞬間、Sクラスの攻撃が激流のように襲いかかってきた。
「秋、実凪、おれと一緒に縁忠を抑えるぞ」
「オッケー」「うん」
おれと秋と実凪が駆け出した。
「比渡!」おれは名前だけ叫ぶと、
「ええ、わかってるわ! あなたたちは縁忠を!」
比渡の声が響く。おれと秋と実凪はその指示に従い、敵の攻撃をかわしながら前線に突っ込む。Sクラスは速い。全員が抜群の身体能力を持っていて、その動きには隙がない。
昔のおれなら避けられなかっただろうけど、今は違う。
Sクラスのメンバーが壁のように立ちはだかるが、三人での連携攻撃で突破口を切り開いていく。秋が鋭い斬撃を繰り出し、実凪がその隙を突いて支援攻撃を入れる。そしておれがその中心で進路を切り開く。
「おらぁ!」「やあ!」「はあ!」
おれと秋と実凪はSクラスのモブ共の攻撃を避けながら縁忠の動きを追っていた。しかし縁忠は、一歩も動かず冷静にこちらを見ている。戦況を把握しながら、まるでおれを待っているかのように。
おれは焦りながらも縁忠へと距離を詰めた。
「一対一では来ないのか? 日野陽助」
「悪いがチームプレーをさせてもらうぜ」
「そうか……悪いが、チームプレーさせるほど馬鹿ではない」
縁忠が言うと――バタリ、バタリと秋と実凪が倒れた。
秋と実凪だけではない、FクラスとSクラスの生徒が次々と倒れていく。
<東雲先生、今のはまさか?>
<犬圧だな……オメガ階級因子の成長とともに出現する他を圧倒する力の才覚。圧倒的な力の差がある者は犬圧だけで相手を気絶させる。あの年であそこまでのプレッシャーを出せるとは、さすが八坂縁忠か。絶対王者の名は伊達ではないようだ>
と東雲先生はやっとまともな実況をし始めた。
<な、なんと八坂縁忠の犬圧でFクラスだけでなくSクラスの生徒が気絶してしまった! 数の有利はあったが、これでFクラスとSクラスで立っているのはトップ3と日野陽助、比渡ヒトリになってしまった!>
「邪魔者はいなくなった。さあ日野陽助、ここで個人戦と行こうか」
「日野君!」
「おっと、邪魔はさせないよ、ヒトリ」
どうやら比渡の相手は良乃と唯がするらしい。
「日野君、慎重に!」 比渡の声が背後から飛んできた。彼女は良乃と唯の猛攻を相手にしながらも、なお冷静に状況を見極めている。だが、その余裕も長くは持たないだろう。
慎重に……いや、ここはぶち破るしかねえ! おれは全力で地を蹴り、縁忠へと突進する。
「無策な突進とは……がっかりさせるなよ、日野陽助」 縁忠の言葉には冷笑が混じる。彼が片手を軽く持ち上げただけで、おれの動きが一瞬鈍ったように感じた。これが犬圧なのか。まるで空間そのものが重くなったかのような感覚だ。
だが――
重いからなんだ! それでも進むんだよ! おれは拳を振り上げ、縁忠へと向かって突き出した。その拳は、これまでのすべての努力と意志を込めたものだ。
しかし、
「甘いな」 縁忠の手が、おれの拳を軽々と受け止めた。そして、驚くほど冷静な動作でおれの腕を掴み、投げ飛ばす。
「ぐはっ!」 背中からアリーナの床に叩きつけられ、激痛が全身を駆け巡る。それでもおれは立ち上がる。
「拍子抜けだぞ、日野陽助」
「はっ、おれもそう思ったところだ。一発KOされると思ったけど大したことないな」
「ほう……素晴らしい根性だ」
その表情には、ほんのわずかだが、敬意のようなものが浮かんでいるように見えた。
「だが、根性だけではこの差を埋められない。それが現実だ」縁忠は再び構えを取り、次の攻撃の準備をしている。
隙あり! とおれは拳を振るうが、
当たらない、当たらない、当たらない。
「日野陽助。お前は本当にここに来る資格があるのか?」
低く落ち着いた声が、おれを貫いた。縁忠の目は、まるでおれの内側をすべて見透かすようだった。
縁忠の言葉におれの拳が一瞬止まる。その問いは単なる挑発ではなかった。本気で、おれの覚悟を試しているのだと感じた。
「資格か」
握りしめた拳を再び振り上げる。たとえ当たらなくても、たとえ届かなくても、この想いをぶつけずにはいられない。縁忠の視線が鋭くなる。おれの動きを完全に見切っている、それは明らかだった。
「そんなの知らねぇよ!」
おれの拳が縁忠の頬をかすった。
「お前に挑戦するには資格が必要なのか? だったら、資格試験受けてからお前に挑戦してるぜ」
<おお! 日野陽助の攻撃が王者の頬をかすったぞ!>
<なぜ油断した? 縁忠>
「こっちは本気で最強目指さなくちゃ殺されるかもしれねぇんだ! うだうだしゃべってるとそのうち舌嚙むことになるぜ」




