表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/70

決勝

 比渡と秋、それにほかの仲間たちとともに、おれたちはアリーナへと向かった。試合の熱気が待つその場所へ――。


 闘技場の中央で向かい合う、おれたちFクラスと縁忠率いるSクラス。その場の空気は重く、緊張感に満ちていた。観客席からの声援やざわめきが遠くに感じられるほど、この空間にいる全員が戦いの火蓋を切る瞬間を待ち構えていた。


 縁忠の立ち姿はまるで威風堂々とした王そのものだった。目には一切の迷いも、感情も見せず、ただこちらを見据えている。対するおれは、自然と拳を握りしめていた。


<さあさあ皆さんお待ちかね、決勝戦がいま始まろうとしています!>


<そうですねー>


<今回の大会は波乱の連続! 難なく下剋上を果たしていくFクラスとAクラスをたった三人で圧倒してしまったSクラス!>


<やってやれ! Fクラス! わたしの昇給がかかってるんだ!>


<あの東雲先生、本音が洩れています……>


<解説なんてやってられるか! わたしはFクラスを応援する! Sクラスなんてぶっ飛ばせ!>


<あはは……で、では気を取り直して、決勝戦、Fクラス対Sクラスの始まりです!>


 試合開始のゴングが鳴り響いた瞬間、Sクラスの攻撃が激流のように襲いかかってきた。


「秋、実凪、おれと一緒に縁忠を抑えるぞ」


「オッケー」「うん」


 おれと秋と実凪が駆け出した。


「比渡!」おれは名前だけ叫ぶと、


「ええ、わかってるわ! あなたたちは縁忠を!」


 比渡の声が響く。おれと秋と実凪はその指示に従い、敵の攻撃をかわしながら前線に突っ込む。Sクラスは速い。全員が抜群の身体能力を持っていて、その動きには隙がない。


 昔のおれなら避けられなかっただろうけど、今は違う。


 Sクラスのメンバーが壁のように立ちはだかるが、三人での連携攻撃で突破口を切り開いていく。秋が鋭い斬撃を繰り出し、実凪がその隙を突いて支援攻撃を入れる。そしておれがその中心で進路を切り開く。


「おらぁ!」「やあ!」「はあ!」


 おれと秋と実凪はSクラスのモブ共の攻撃を避けながら縁忠の動きを追っていた。しかし縁忠は、一歩も動かず冷静にこちらを見ている。戦況を把握しながら、まるでおれを待っているかのように。


 おれは焦りながらも縁忠へと距離を詰めた。


「一対一では来ないのか? 日野陽助」


「悪いがチームプレーをさせてもらうぜ」


「そうか……悪いが、チームプレーさせるほど馬鹿ではない」


 縁忠が言うと――バタリ、バタリと秋と実凪が倒れた。


 秋と実凪だけではない、FクラスとSクラスの生徒が次々と倒れていく。


<東雲先生、今のはまさか?>


<犬圧(けんあつ)だな……オメガ階級因子の成長とともに出現する他を圧倒する力の才覚。圧倒的な力の差がある者は犬圧だけで相手を気絶させる。あの年であそこまでのプレッシャーを出せるとは、さすが八坂縁忠か。絶対王者の名は伊達ではないようだ>


 と東雲先生はやっとまともな実況をし始めた。


<な、なんと八坂縁忠の犬圧でFクラスだけでなくSクラスの生徒が気絶してしまった! 数の有利はあったが、これでFクラスとSクラスで立っているのはトップ3と日野陽助、比渡ヒトリになってしまった!>


「邪魔者はいなくなった。さあ日野陽助、ここで個人戦と行こうか」


「日野君!」


「おっと、邪魔はさせないよ、ヒトリ」


 どうやら比渡の相手は良乃と唯がするらしい。


「日野君、慎重に!」 比渡の声が背後から飛んできた。彼女は良乃と唯の猛攻を相手にしながらも、なお冷静に状況を見極めている。だが、その余裕も長くは持たないだろう。


 慎重に……いや、ここはぶち破るしかねえ!  おれは全力で地を蹴り、縁忠へと突進する。


「無策な突進とは……がっかりさせるなよ、日野陽助」 縁忠の言葉には冷笑が混じる。彼が片手を軽く持ち上げただけで、おれの動きが一瞬鈍ったように感じた。これが犬圧なのか。まるで空間そのものが重くなったかのような感覚だ。


 だが――


 重いからなんだ! それでも進むんだよ! おれは拳を振り上げ、縁忠へと向かって突き出した。その拳は、これまでのすべての努力と意志を込めたものだ。


 しかし、


「甘いな」 縁忠の手が、おれの拳を軽々と受け止めた。そして、驚くほど冷静な動作でおれの腕を掴み、投げ飛ばす。


「ぐはっ!」 背中からアリーナの床に叩きつけられ、激痛が全身を駆け巡る。それでもおれは立ち上がる。


「拍子抜けだぞ、日野陽助」


「はっ、おれもそう思ったところだ。一発KOされると思ったけど大したことないな」


「ほう……素晴らしい根性だ」


 その表情には、ほんのわずかだが、敬意のようなものが浮かんでいるように見えた。


「だが、根性だけではこの差を埋められない。それが現実だ」縁忠は再び構えを取り、次の攻撃の準備をしている。


 隙あり! とおれは拳を振るうが、


 当たらない、当たらない、当たらない。


「日野陽助。お前は本当にここに来る資格があるのか?」


 低く落ち着いた声が、おれを貫いた。縁忠の目は、まるでおれの内側をすべて見透かすようだった。


 縁忠の言葉におれの拳が一瞬止まる。その問いは単なる挑発ではなかった。本気で、おれの覚悟を試しているのだと感じた。


「資格か」


 握りしめた拳を再び振り上げる。たとえ当たらなくても、たとえ届かなくても、この想いをぶつけずにはいられない。縁忠の視線が鋭くなる。おれの動きを完全に見切っている、それは明らかだった。


「そんなの知らねぇよ!」


 おれの拳が縁忠の頬をかすった。


「お前に挑戦するには資格が必要なのか? だったら、資格試験受けてからお前に挑戦してるぜ」


<おお! 日野陽助の攻撃が王者の頬をかすったぞ!>


<なぜ油断した? 縁忠>


「こっちは本気で最強目指さなくちゃ殺されるかもしれねぇんだ! うだうだしゃべってるとそのうち舌嚙むことになるぜ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ