闘技大会への準備
教室を出た後、比渡がこちらに近づいてきた。
なに? もしかして愛の告白をいまするの? おれに惚れちゃったの?
というバカげた考えを浮かべるおれに、比渡は、
「今のあなたはわたしよりも弱いわ」と言い放った。
ええー! 比渡ヒトリさん、それは急だし酷くない? 一緒に協力して両面宿儺と戦った仲じゃない! もう少し優しい言葉で躾けなくちゃわんわんは精神病になっちゃうよ? それでなくても豆腐メンタルなんだからさぁ。
「あなたは誰よりも強くならなくては生きていけない」
比渡の言う通りおれは強くならなくては死ぬのだろう。ベアトリクスの犬因子を持ってしまった以上、鬼以外にもいのちを狙われることになる。
「ああ、悪かった。鬼と戦う事がないからって安心している自分がいた」
「学園生活でももっと緊張感を持ちなさい」
「うん、わかった……」
クゥーン、飼い主に怒られたよ。でもおれが悪いよな、緊張感の欠片もなかったんだから。
「……じゃあ、闘技大会は活躍できるわよね」と比渡。
「正直、比渡に言われるまではそこそこ活躍すれば良いやって感じだった。でも、おれは八木とか霧江の御家に力を見せるしかねぇんだよな」
比渡は微笑みを浮かべた。「そうね。まあ、団体戦はわたしも一緒に戦うから、心配しないで」
え? なに? 比渡って天使なの? 飴と鞭の使い方うますぎだろ。酷いこと言ってから甘い言葉をかけるとかエクスタシー感じちゃうよ? おれのわんわんが熱を帯びちゃうよ?
「サンキューな、比渡」
「礼なんていいわ。飼い犬の躾は飼い主の仕事だもの」
まあ、そうだよな。でもありがとな比渡。
おれたちは校庭に向かい、トレーニングを始めた。他のクラスメイトもそれぞれの方法で闘技大会へ向けてトレーニングを進めている。
「日野君、まずは基本的な体力を鍛えるところから始めましょう。インターンシップで鍛えられたとしてもまだまだ基礎体力が低いわ」と比渡は提案してきた。
「わかった。どんなトレーニングがいい?」
「まずはランニング。それから筋力トレーニング。基本がしっかりしていれば、闘技大会でも役に立つわ」
おれたちは走り始めた。汗が額を流れ、息が切れる。だが、比渡の存在が励みとなり、おれは最後まで走り抜いた。
「いい感じよ、日野君。この調子で続けていけば、きっと力がついてくる」
舐めるなよ比渡、おれは飼い主がいるから頑張れるだぜ。
次の日も、その次の日も、おれたちは一緒にトレーニングを続けた。体力がつき、技術も向上していく。
「日野君、今度は実戦形式のトレーニングをしましょう」と比渡が言った。
「実戦形式?」
「そう。実際に戦うシチュエーションを想定して、対人戦の練習をするの」
おれたちは模擬戦を始めた。比渡は冷静におれの動きを見極め、的確なアドバイスをくれる。そのおかげで、おれは次第に戦闘技術を磨いていった。
「いい感じね。次はもっと複雑な技を試してみましょう」
比渡の指導のもと、おれは新しい技に挑戦し続けた。おれたちの絆は次第に深まり、信頼関係も強まっていった。
比渡のおかげでおれは強くなれている。
そういえば――事の始まりは教室だったんだよな。おれの隣の席に比渡が座っていて、それで話しかけられて、屋上に呼び出されて、急に「犬になりなさい」とか言われて、おれは犬になって、鬼と戦う事になって……いつの間にやら犬学で最強になろうとして、青春王になろうと決めて、なんか短期間でいろいろあったな。
「ありがとな、比渡」
「いいのよ、一緒に頑張りましょう」
闘技大会の日が近づくにつれ、おれたちの準備は整っていった。おれは自分の成長を実感し、闘技大会に向けての自信を持ち始めていた。
「日野君、個人戦でわたしと当たったら全力で戦いましょう」
全力か、飼い主に噛みつく犬は駄犬だろうけど、飼い主がそう言うなら逆らえないな。
「ああ、全力でやろう」
こうして、おれと比渡は闘技大会に向けての準備を万全に整え、次なるステージへと向かう決意を固めた。




