帰ってきたぞ犬学
Fクラスの教室内は騒がしかった。
まあインターンシップ前と変わらないな。そう思いながらおれは席に座る。
インターンシップの話題で忙しいだろうけど、おれには話すような友達がいない。ボッチは今に始まったことではないが……誰かおれの活躍とか訊いてきてよ!
「おはよう、インターンシップどうだった?」
と比渡に訊いてきたのは秋だった。
「おはよう。東京でのインターンシップはまだまだ学ぶことが多いと気づかされたわ」と比渡。
「比渡さんと日野君は東京で最上級の鬼と戦ったって聞いたけど、それって本当なの? しかも両面宿儺だって話じゃん!」
「ええ、本当よ」
「すごーい! よく無事でいられたね! わたしだったら死んでいたよ」
「明日香さんが駆けつけてくれなかったらわたしと日野君はここにはいなかったわ」
「そっかそっか、犬神如月明日香様に助けてもらったんだね。あ、おはよう日野君」
ついでみたいな挨拶しないでくれ。てかおれを会話の輪に入れないでくれ。ほっといてくれ、おれはボッチなんだよ。ボッチの神様に愛されているんだよ。
「おっす」とおれは不愛想に挨拶した。
「あ、そうそう――どこの教室でもふたりの噂でもちきりだよ」
『ふたり?』おれと比渡は声を揃えた。
ふたりっておれと比渡の噂か?
「両面宿儺と戦ったからって、そんな噂になるもんか?」
「日野君の言う通り、戦って生き残ったからってそこまで噂になるものかしら?」
「最上級の鬼と戦った噂じゃなくて――」
「おはよう」と、そこに現れたのはショタこと実凪だ。その彼は続けて、
「ヒトリさんと陽助君って、あの東京で夜の街を駆け回ったの?」
なにその夜の街って! いや待て、確かに夜の街を駆け回ったよ、明日香さんに言われて夜どころか朝から晩まで駆け回ったよ。でも仕方ないんだ東京は昼も夜も鬼の発生件数がやばいんだ。
「ええ、確かに日野君と一緒に夜の街を駆け回ったわ」と比渡は何の感情も込めずに言う。
それを聞いていただろうFクラスの連中は驚きの声を教室内に響かせた。
「ホテルか」「やっぱりできてるよね」「インターンシップで何を学んでんだよ」「性の勉強だろ」「日野陽助、羨ましい!」とFクラスはさらに騒がしくなった。
なんだなんだ? おれと比渡ができてるだ? いいぞ! もっと言ってくれ! もっとその噂を広めてくれ!
「比渡さんって結構大胆なんだね」と秋。
「大胆? わたしと日野君の間に遠慮なんていらないもの」
比渡の言葉を聴いたであろうFクラスの男子生徒は『ぐはぁ!』と悶え苦しみ、女子生徒は『キャアァー!』と桃色の悲鳴を上げた。
そうだぞ比渡、おれと比渡の間には遠慮なんていらないもんな。ご主人様と犬の関係だもんな! だからおれの頭をなでなでしてくれ!
「秋、勘違いするな。おれと比渡の間に遠慮は無くとも、みんなの想像している事は何一つしていない」
本当は比渡といろいろしたいよ! あんな事やこんなことしたいよ! でもおれは比渡ヒトリの犬なんだよ! したくともお座りという比渡の言葉一つで体が言う事聞かなくなるんだよ! もうおれは比渡ヒトリに調教され尽くしているわけだよ! 早く人間になりたーい!
「みんなの想像? わたしと日野君は事実夜の街を駆け回ったじゃない」と比渡。
え? 比渡って天然なの? もうそろそろ教室の空気に気づいてよ。
「学生ならもう少し健全な交際をした方がいいとおもうけど……」と秋。
「ヒトリさんって比渡家の復興を目指しているんだよね……なんで陽助君を選ぶか分かった気がする」と実凪。
もう話が滅茶苦茶だ。ここは一つ、おれの言葉を使うほかあるまい。
「正直に言うと、比渡はおれのこと嫌いだぞ……」
「嫌い……ではないわ」と比渡。
え? じゃあ好きなの? おれのこと好きなの? チューしていい?
と、おれと比渡の間に微妙な時間が流れると、それと同時に教室が静まり返った。
インターン終わった初日から疲れる。いや待て、これが青春というものなのか? もしそうだったら青春王になる価値はあるのか?
まあなんだっていい。と、おれは青春とは何かを考えるのだった。




