インターン終了
時間が経つのは早い。
「寂しくなるね、またインターンおいでね。というかこの事務所に就職しなよ」
そう言ってミサさんは比渡の頭をなでた。
ワンワン! おいらの頭もなでなでしてくれ!
「うむ! 少年少女よ! 今日までよく頑張ったね!」
『お世話になりました』とおれと比渡は頭を下げた。
東京の鬼は強いっちゃ強いけど、中級の鬼程度なら勝てるようになった。それに両面宿儺との出会いはおれと比渡の成長に役立ったのだろう。
このインターンのおかげでおれと比渡はさらに強くなれたと思う。
「よし! では最後に、君たちの目標を訊いておこう!」
え? 目標? なんの?
「それなりの目標でなければ犬学に返さないから安心してこの事務所にいてくれ! 死ぬまでいてもいいよ!」
なにそれ強制労働? 人手不足だとしてもこんなオンボロ事務所に就職するなんて嫌だよ。
「でたでた、明日香先輩のただでは返さない篇」ミサさんは呆れている。
「じゃあまずは比渡ヒトリちゃん、今後の目標は?」
「目標……わたしは、比渡家の当主に認められたい。比渡ヒトリという存在が次の比渡家の柱だと認められたいです」
「それじゃあ弱いよ、わたしの事務所から外には出られないよ――もっと簡単な言葉でいいんだよ」
明日香さんに言われた比渡は少し悩んでから、
「比渡家を復興させることです」
比渡の目には覚悟が宿っていた。身命を賭しても比渡という御家を復興させなくてはならない。その禁止で目標を掲げている。
「比渡家の復興か。巖堕羅への復讐は目標に入れなくていいのかい?」
「復讐心は無いといえば嘘になります。ですが、わたしの目標に復讐という言葉は入っておりません。いずれ巖堕羅とは決着をつけなくてはなりませんが、私怨を捨てて復讐という形ではなくセカイの為に決着をつけたいです」
大丈夫だ比渡! 比渡はセカイを守ってくれ。復讐って言葉はおれが背負ってやる! 巖堕羅だかなんだらだか分からないけど、おれは復讐の鬼になってやる!
「セカイの為にか……昔のわたしを見ているようだよ」
と、明日香さんは比渡の頭を撫でた。
「では日野陽助君、君の目標は?」
おれの目標は最初から決まっているだろ――
「――青春王におれはなる!」
「あ、アホだ」とミサさん。
「バカ犬」と比渡。
何を言われてもいいさ。この世の中の人が青春を謳歌できるということは鬼がいなくなるという事だ。つまり、このボッチで陰キャなおれが青春の王様になれるということはこの世に鬼がいなくなったという事だ。世界平和の誕生だ。
「ふふふっ、あはははは! 日野陽助君、君は本当にそんな存在になれると思っているのかい?」
「なれますよ。だっておれには青春の鬼神が憑いているんで」
とおれが言うと、明日香さんはおれの頭を撫でてきた。
え? なに? めちゃくちゃ気持ちいいんですけど。止めて! 比渡以外の人に頭なでなでされると浮気になっちゃう! いや、浮気よりも酷いよ多分不倫だよ! マジで止めて! おれのわんわんがわんわんしちゃうから! って、前にも誰かに頭なでなでされたっけか? わおーん!
「日野陽助君、君は優しいね」
「なに言ってるんですか。おれはいつでも優しいじゃないですか」
「そうだね、君は残酷なくらいに優しすぎる」
「残酷な優しさですか……まあ、鬼みたいに冷酷な奴よりマシですよ」
おれが言うと、明日香さんは首を横に振った。
「君はまだセカイの中にいる。鬼という悲しい生き物が君の目にどう映っているのかわたしには分からないけど、鬼もまたセカイの中にいる」
「鬼が悲しい生き物?」
「いずれ鬼と人間の歴史を知ることになるよ。その時、君は〝どちら側〟にいるのかな……」
どちら側? おれはいつだって人間側だ。比渡ヒトリの犬であるおれは、飼い主を守らなければならないから、人間側であり続ける。鬼と人間の歴史を知ったところで、おれの心は揺れ動かない。
「鬼と人間が和解したセカイは想像できませんから、どちらかが生き残るんですよ。おれは人間側な訳で、例えるなら鬼退治する犬です」
「どうだろうね。キビ団子一つで人間側に付く犬なんて信用できないかもしれない」
「おれは比渡ヒトリの言う事しか聞きませんから、安心してください」
「鬼として誕生した者たちの歴史は君の想像を超えるよ」
「それでもおれは、青春の王様を目指しますよ」
と、明日香さんはなぜか悲しそうな顔をして、
「君を見ると、昔好きだった彼を思い出すよ」
いやいや、元カレの話とか今はどうでもいいんで。それよりおれの頭から手をどけて下さい。このままじゃおれが明日香さんの今彼になっちゃうよ。
「よし! 君たちには未来が宿っている! 少年少女よ、今よりももっと強くなれ!」
こうしてインターンは終わった。




