ベアトリクス
落ちる。
落ちる落ちる落ちる!
そう、おれ日野陽助はなぜか分からないが空から落下していた。てかどうして落ちてるの? それになんか分からないけど豚学の生徒にやられた傷が治ってるし。何が何だか分からねぇよ。
<力の使い方が雑ですね>
と、おれは首輪から話しかけられた。どうやらこの首輪には人工知能が付いているらしい。って、分析している場合じゃねぇ。
「なんとかしてくれ! おまえがなんかやったんだろ!」
<わたしの名前はおまえではありません>
「じゃあなんだよ! てか落ちて死ぬって!」
<わたしの名前はベアトリクスです>
ベアトリクスって比渡ヒトリの前の犬の名前か。なんだよ、人工知能になって生きていたのか。いや、生きているのか? まあどうでもいいか。
「じゃあベアトリクス! おれを助けてくれ!」
<無理です、わたしはいま首輪の人工知能としてこの世に存在しています。生前であれば可能でしたが今は無理無理>
使えねぇなおい! じゃあこの状況どうやって作ったんだよ! おれが天高くジャンプしたとでも言うのか? 無理無理、こんなに高くジャンプしたら足の骨粉々に砕けるっての! いや、その前に普通の人間には不可能だっての!
「落ちる! マジで死ぬ! お父さんお母さん先立つ不孝をお許しください。ああ、それと我が妹よ、なでなではまた今度だ、あの世で待ってるぞ」
<まったくうるさい人間ですね。どうしてヒトリはこんなうるさくて弱っちい人間を選んだのでしょう。疑問です。この雑魚め>
えぇ酷くね? てかどうしておれの周りの奴って口悪いの?
<生きていたいなら着地すればいいでしょ>
無理言うな! おれは鬼じゃねぇんだよ! 人間なんだよ! か弱くて誰かに守ってもらわないと生きていけないニートに憧れる人間なの!
「ふざけてないでどうにか生き抜く方法を教えてくれ!」
<なら重力に逆らわないことです。力を抜いて、地面にぶつかる覚悟をしなさい>
「死ぬよね? それ死ぬよね?」
<いまのあなたなら死にません。というかマスターの名前を教えてください>
マスター? おれのことか? いいや、おれには従者なんていないぞ。可愛い妹だけがおれの理解者だ。
「日野陽助だ、好きなものは犬、って自己紹介している場合か!」
もうだめだ、さっきまでいた豚学の校舎屋上が見えてきた。今度こそ死ぬ。比渡ヒトリよ、先に逝って待ってるからな、どうかおれを呪わないでくれよ。
<それはいいとして陽助。鬼狩りの基本を教えてあげましょう>
と、ベアトリクスが何か説明に入ろうとした…………次の瞬間――おれは豚学の校舎屋上に激突した。