三日月勇者の身代わりクエスト
「ぐぁぁぁっ!!」
断末魔を上げ巨体が床に沈み込む。
横たわる大きな黒い塊を前に、三人は呆然と立ち尽くす。
「なぁ、俺達もしかして魔王倒しちゃった?」
張り詰めた空気の中、気の抜けるような呟きが聞こえた。
この先に魔王がいるのは分かっていた。
でも俺達は、勇者の神託を受けた王子の為に、勇者と偽り魔王城に潜入して魔王の手下を排除する任務を国王に依頼されただけの冒険者。
実際に魔王と対峙するのは本物の勇者である王子の役目。
俺達はあくまで身代わりの囮役。
依頼を完遂して後から来る本物の勇者一行と入れ替われば、多額の報酬と共に故郷に帰れるはずだった。
なのに突然目の前に黒く大きな物が現れ攻撃を受けて、俺が反射的に持っていた剣を抜いて振り下ろした結果が……これだ。
「ってか、その聖剣は模造品じゃなかったのかよ!」
重い沈黙を破ったのは、攻撃を盾で防いだ戦士のゼムだった。
今までちょっと良く切れる普通の剣として扱っていた聖剣の模造品が、黒いのと対峙した瞬間眩い光を放ったのだ。
「間違えて本物の聖剣を持って来たんじゃない?」
黒い物の追撃を魔法で封じた魔法士のリズが、俺を見て目を細める。
仮に剣を本当に間違えていたとしても、俺は勇者じゃない。
『三日月を持つ者、剣に聖なる輝きを得て魔王を討ち滅ぼす』これが勇者の神託だ。
俺は王子と同じ赤髪碧眼だからという理由で勇者の身代わりを依頼されただけで、額に三日月のアザがある王子が本物の勇者なのは間違いない。
だから、この黒い物体は魔王ではないはず……。
「ねぇ、カイの耳の後ろにあるホクロ〜三日月の形してるよ?」
「まじか〜」
リズの言葉に俺は膝から崩れ落ちた。
自分で確認出来ない場所にあるのは反則だろう。
そして、ゼムが追い討ちをかけるように口を開いた。
「やっぱりこの黒いのが魔王みたいだな。どうする?このままだと、まだ自分が勇者だと思ってる王子様一行と鉢合わせるぞ」
本来なら魔王の討伐は喜ぶべき事だが、俺達が倒したと報告すれば王子の面子を潰す事になり、報酬が貰えなくなるかもしれない。
俺達は瞬時に考えを巡らせ同時に一つの答えに辿り着いた。
「ぐぉぉぉっ!」
不気味な唸り声が室内に鳴り響き、黒き闇が動き出す。
裏ではゼムが声を張り上げて、リズが魔法で黒い物を操り魔王を演じている。
あとは、俺が王子の聖剣を本物にすり替えて、勇者に仕立て上げるだけだ。
さぁ、三日月勇者の身代わりクエストが、今始まる!
身代わりの〜身代わり?
読んでいただき、ありがとうございました♪