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7、侯爵家の養女

よろしくお願いします!



「えっと、つまり・・・、お母様の本当のお相手は侯爵様で、バルバラ伯爵は協力者、と?」


「ええ、そうよ」


「アマンディーヌ様の公認の、愛人?」


「ええ。わたくしは子どもができない体質らしいの。それに薬やら何やら効きにくくて。困っちゃうわよね」


「えーっと・・・、それでなんでバルバラ伯爵が私の父親と貴族院に届けたのでしょうかね?」


「そうねぇ。推測になるけれど、バルバラ伯爵はジュリアのことを好意を持っていた様子よ。ジュリアからバルバラ伯爵が花やら贈り物をもらったと聞いていたから。

ジュリアが亡くなってしまったから、よく似たあなたを手元に置きたかった。でも辛く当たったのは瞳の色はアルベール様の物だからかしらねぇ」


「伯爵は私を皇帝陛下の妃か愛人にしようと思っていたらしいですよ」


「まあ、うふふ。バルバラ伯爵夫人の手前、そう言わないとあなたを引き取れなかったのでしょうね」



話がややこしいし、わからないことだらけだ。

なんと言ってもアマンディーヌ様がわからない。

いくら子どもができないからーーお母様のことを友人だからと言って、夫の愛人にしようと思うかな。

それにそれを了承するかな、侯爵様も。


でもアマンディーヌ様の話は大まかな話はしてくれたけれど、お母様とどうやって知り合ったとか、どんな話をしたとかが中心で私の知りたい情報を躱してしまう。

教える気がない、ということかしら。


扉がノックされてメイドが紅茶とお菓子を持ってきた。お菓子はアーモンドのクッキーだ。

サクサクした食感が美味しい。

紅茶とお菓子で一息つくと、ふと、アマンディーヌ様が私を見つめていた。



「ふふふ、美味しそうに召し上がるのね」


「ええ、まあ、食べられる時に食べないといけないので」


「あら、なんだか令嬢らしがらぬ殺伐とした物言いね」


「あははは・・・」



誤魔化すように紅茶を飲んだ。



「これからあなたはこの侯爵家で暮らすことになるけれど、なにか欲しいものはあるかしら?

伯爵家に置いてある物はこちらで取りに行かせるから安心してちょうだい」


「ありがとうございます。そうですね、それほど欲しい物はないと思いますが・・・あ!」


「なにかしら?」


「クロエが・・・私付きのメイドの事が気になりまして・・・。あの、伯爵家に引き取られてから良くしてくれたメイドで、ずっと寄り添ってくれたんです」


「そう・・・、では伯爵家に言って、侯爵家でも働いてくれるようお願いしてみましょうね」


「え⁉︎いいのですか?」


「環境が変わるのだから、あなたも慣れた人が側にいると落ち着くのではなくて?安心なさい、モント侯爵家はメイドが一人増えても大丈夫よ。そのメイドが勉強をすれば侍女にもなれるわ。あなたは侯爵家の娘になるのだから侍女を付けなければね」


「クロエが付いてくることを了承すればお願いします。あの、あと気になるのですが。貴族院には私が伯爵の婚外子と届けられているのですよね?出生届をおいそれと訂正できないと思うのですが、『侯爵家の娘』とはどうやってなるのでしょうか?」



アマンディーヌ様は優雅にカップを落ち上げ、ひと口含まれた。ゆっくりとした動作で時間の経過が違うみたいな。



「出生届は訂正できない、そうね。残念だけれど正す事は法においてできないわね。だからあなたを侯爵家の養子にする。わたくしはそれで気が済むけれど、社交界というのはそういうものではないわ。

養子縁組の理由を知りたくなる人達がいるから、その人達を黙らせるのに数年、あなたは領地で過ごしてくれないかしら?」


「領地、ですか?」


「ええ、王都より暖かくておおらかな土地よ。今は義息子が住んでいるの。年は離れているけれど、落ち着いた子だから安心して。たまに王都に帰ってくるのだけど、ほとんど領地にいるわ。領地経営の修行中といったところかしら」



アマンディーヌ様は相変わらず微笑みを浮かべたまま話す。高位貴族のお手本のような表情から本音が見えない。

領地に数年って、何年なの?

他家の領地がどこにあるかなんてスパルタ淑女教育では習わなかった、というかそこまでは無理!

願わくば、美味しい特産物があればいいなと思うばかり。


私が黙っていると、アマンディーヌ様はくすくすと鈴を転がしたように笑った。



「レティシアさんは表情が豊かで可愛いのねぇ。ふふふ。わたくし、気に入ってしまったわ。ねえ、レティシアと呼んでもいいかしら?」


「え、あ、はい。もちろんです」



アマンディーヌ様は私の名前を噛み締めるように呼ぶと、笑みを深めた。





「お嬢様!」



翌朝、バルバラ伯爵家に置いてあった荷物とクロエが侯爵家にやって来た。

あんなにクールビューティーだと思っていたクロエは饒舌になり、今は涙を浮かべて私との再会を喜んでくれている。



「ごめんね、私のわがままでこちらに来てもらって」


「とんでもございません。伯爵家にそれほど思い入れがあったわけではありません。私は身ひとつでお嬢様にお仕えいたします。侯爵様のお屋敷に呼んでいただき、クロエは嬉しいです」



侯爵家の執事と一緒に来たクロエは、侯爵家のメイド服を着ていた。クロエと一緒に伯爵家で使っていた小物や本などが入った荷物を解き、整理していく。

いらないーー必要ないと思ってたそれらは、以外と懐かしい顔をして私の手元にある。お母様と一緒に暮らしていた男爵家から伯爵家へ移った時は何も持っていかなかったから、今回も何もいらないと思ったんだけどな。


思えば、バルバラ伯爵や伯爵夫人、スパルタ淑女教育の先生、執事やメイドの人達。あんまりいい思い出はなかったけど、食事が最高だったから頑張れたんだよね。うん、そこだけはちょっとね。またあの濃厚なクリームスープ、食べたかったな。



「そういえば、お嬢様。厚かましくも私、伯爵家の料理長も一緒に侯爵家に参りました」



うん、簡潔すぎて意味がわからない。



「えっと、なんで?」


「お嬢様、伯爵家での食事をたいそう楽しみにしておられたので。そこでダメ元で侯爵家の執事様と料理長に相談して侯爵家へ一緒に働かせていただくことにしたのです」



それって、つまり・・・私のため⁈

侯爵家は、この際置いておいて。料理長、いいのか料理長!会ったことないけど、いきなり職場が変わって大丈夫なの?家族とかいないのかな?あれ、そういえばクロエの家族はどうなんだろう。私、自分のことばかり考えて。クロエが侯爵家に来ることを了承したからって大丈夫なの?



「クロエは、大丈夫なの?その、家族とか」


「大丈夫です。申し上げておりませんでしたが、私の両親は伯爵家の使用人で、元々、個人の仕事を優先してきた家族なのです。私の職場が変わってもお互い大きな支障はありません」



そう・・・なの?

いかんせん、私の知っている家族像が乏しいためにクロエの言う大丈夫が言葉通りなのか心配だ。


クロエはこれから私付きのメイドをしながら侍女としての勉強をするらしい。執事が言うにはクロエなら数ヶ月で侍女になれるらしい。

私には侍女とメイドとの差がいまいちわからないので、今度、クロエに教えてもらおう。


侯爵家での暮らしは始まり、やがて一ヶ月後にはモント侯爵家の領地へと私は旅立つことになった。





ありがとうございました!

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