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6、アマンディーヌ

※話の内容が鬱です





わたくしはアマンディーヌ。

父は伯爵、母も同じ伯爵位から嫁いできた。

だからだろうか、政略結婚と言っても夫婦仲は良くて楽しそうにしている。

いつかわたくしも結婚をしなくてはならないだろうから、両親程とはいかなくても相手と仲良くなりたいと思っていた。


そんなわたくしも婚約者を決める年頃になった。ありがたいことに数多くの縁談が我が家に持ち込まれたのだが、父はモント侯爵のアルベール様を選んだ。選んだとは聞こえがいいが、申し込まれた縁談の中でモント侯爵家の爵位が上で断れなかっただけである。


ちなみに先日、無事にアルベール様との顔合わせが終了し、いよいよ来週には婚約式をするそうだ。


正直、ここまで心が躍らないというのも淋しい。もう少し舞い上がるものだと思っていた。

アルベール様は背が高くて綺麗な空色の瞳だ。お母様は「素敵な婚約者様で良かったわね」と喜んでくれたのは嬉しかった。


でもわたくしは、何も感じない。


婚約式の後少し散歩した時も、お茶を一緒に飲んだ時も、微笑んでくれるアルベール様に好意も嫌悪も感じられなかった。

これはどうしたらいいのだろうか。

両親に言うときっと悲しむかもしれない。

友人に言うときっと喜んで社交界に話をばら撒くだろう。

どうしたらいいのだろう。


そんな時、わたくしは出会った。

どの家のであったか忘れたけれど、お茶会で出会ったのだ。若い令嬢が多く集まった、お茶会で彼女に。


彼女は伏せ目がちで綺麗な髪が印象的。

華奢な体は折れてしまいそうなほど。

声をかけると、とても恐縮されてしまった。男爵家の娘で、どうやら異国の愛人の娘らしく幼い頃に引き取られたらしい。


話を聞けば男爵家で必要最低限の世話をされていたらしい。彼女は自由に部屋から出ることを禁じられており、それは男爵家の嫡男である幼い異母弟の目に彼女が入らないためだという。

そのせいか、どうしても出席しなければならないお茶会に出る時は、人の多さに気後れしてしまうらしい。


・・・可愛い。

なんて可愛いのだろう。

容姿だけじゃない。未だ自由を知らない、庇護欲をそそる少女。

わたくしが守って差し上げたい。


アルベールと結婚してからも彼女と頻繁に会っていたわたくしは、彼女の婚約者が浮気をしてありもしない罪を彼女に着せて婚約破棄されたと知った。

なんてこと。彼女は濡れ鼠のようにしょげて身を縮こませていた。

この婚約破棄のせいか、男爵家の評判は落ちて事業も経営も芳しいとはいえないらしい。


侯爵夫人という身分のわたくしが、彼女の家である男爵家に訪問することは、彼女以外、とても光栄らしく熱烈な歓迎を受ける。その時ばかりは彼女も家族から蔑ろにされずにいた。


やがて数年後、なかなか妊娠しないわたくしは侯爵家や生家から心配という名の圧力を受け始めた。興味のないアルベール様の子どもを、いくら貴族の義務だからといって必死になって作りたくはない。これが本音。

けれど侯爵家に跡取りの子どもは必要で、犬猫のように貰ってくるわけにもいかず、わたくしはアルベール様に愛人を作るよう勧めた。


結果は、アルベールに怒られてしまった。

困ったわ、最善の方法と思ったのに。


まあ、確かに何処の馬の骨ともわからぬ女の胎から生まれた子どもを、乳母や家庭教師やらで育てたとしても、わたくしが養母となる。よく考えれば、同じ屋敷で暮らすにも少しばかり抵抗がある。

ではどうしたらいいのか。


そこでわたくしは閃いた。


そう!

アルベール様と彼女との子どもなら、わたくし愛せるかもしれない、と。


男爵家には、彼女を侯爵家の愛人にするならば資金援助をすると言えば快く受けてくれるに違いない。それに、確固たる立場を得れば男爵家でも蔑ろにされない。ーーいいえ、愛人としてこの侯爵家に迎え入れることも可能では?

そうすれば、わたくしは彼女と一緒に時間を気にせずいられるのでは?


溢れる希望がわたくしの胸をときめかせて、言葉にできないほど興奮した。こんな気持ちは初めてだわ。


アルベール様はまた反対するかもしれない。そうね、真面目な方ですもの。

では、モント侯爵家の縁戚にあたるバルバラ伯爵を使うのはどうかしら!

結婚式の時にお会いした時から今まで資金援助の申し込みに何度も侯爵家に来ていたから、きっと男爵家と同じで資金援助と言えば協力してくれるでしょう。


信頼のおける侍女に手伝ってもらいバルバラ伯爵に連絡を取った。もちろん、この計画を賛同して手伝うと言ってくれた。

次に、男爵家へ連絡を取ろうと思ったが、これはバルバラ伯爵が動いてくれた。

最後はアルベール様だ。これは彼女と引き合わす直前に計画を話した方がいいだろう。


それからしばらくして、侯爵家に彼女を呼ぶ日が来た。

わたくしは侍女に手伝ってもらい、夫婦のベッドに薔薇の花を散らばせた。

色はあえてバラバラにしてとても華やかだ。

アルベール様が帰ってきたら、ここで彼女と二人でお迎えしよう。

そしてアルベール様と彼女が上手くひとつとなるよう見守ろう。

なんと言っても、今日は彼女が妊娠するのに最適な日なのだから!


ああ!

侯爵家から遣わされた医師に、妊娠する最適な日を割り出す方法を執拗に指導されて、本当に良かった!

あの時はとても嫌な気持ちだったけれど、こんな風にわたくしを助けてくれるなんて思いもよらなかったわ!


戸惑う彼女に、わたくしはいつものようにお話しして計画に頷いてくれた。やっぱり彼女は素直だわ。


そしてアルベール様が帰ってくると、彼女と一緒に寝室で待っていた。

ああ、なんて胸の鼓動が早鐘のよう。

侍女がアルベール様を先導して寝室へと連れてきてくれた。


驚いたアルベール様を見て、わたくしは初めてアルベール様のことを面白いと思った。

侍女にお願いしておいた香炉から気分を昂らせる薫りが漂い、アルベール様はわたくしたち二人が座るベッドへと進み寄った。

両親がアルベール様を夢中にしなさい、と押し付けられた香が役に立って良かった。


この後の話はーーー、わたくしだけのものね。

アルベール様と彼女はあまり覚えていないらしいから。



ありがとうございます!

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