1、伯爵令嬢
まだまだ慣れない投稿で緊張します。
お時間があれば読んでみてください。
「偉大なるベリア帝国皇帝陛下にバルバラ伯爵がご挨拶申し上げます。本日は妻と次女レティシアと参上いたしました」
「バルバラ伯爵、それに細君とレティシア嬢。今日は楽しんでくれると嬉しい」
「ありがとうございます」
春のうららかな日差しが降り注ぎ、緑が輝く庭園で様々な色のドレスで華やいでいる。
今日は皇帝陛下主催の園遊会。皇妃のいない陛下のお妃を品定め…もとい選定、ああなんと言えばいいのか。なかなか決まらない皇妃選びのための園遊会なんだって。
私、レティシアはバルバラ伯爵の次女とあるが実はつい先日まで庶子だった。
私の母は男爵の娘でいわゆる妾のような存在だった。
実家の援助と引き換えに伯爵の妾をしていたらしく、母本人に伯爵への愛があったかどうかはわからない。
聞いたことなかったし、聞いてはいけない気もした。そして今はもう聞く事はできない。
母は昨年、病で帰らぬ人となったからだ。
伯爵と母は私が生まれてもしばらく愛人関係だったらしいが、私が十歳を過ぎた頃には男爵家にやって来なかったので関係はほぼ消えていたと思う。
けれど、母が亡くなったと風の噂で聞いたようで、娘である私を引き取りたいと母の弟で男爵を継いだ叔父さんに申し出た。
生まれてすぐ認知しなかったのになんでなのってモヤモヤしながら伯爵家へ行くと、いきなり淑女教育がスパルタで始まった。
そういう専門の家庭教師がいるそうです。なんでも短期間で淑女へ育て上げるプロだとかなんだとか。
伯爵令嬢って大変なんだなって思ってたらコレだよ。昨日いきなり聞かされた、皇帝陛下主催の園遊会。
伯爵は私を皇妃、もしくは皇帝陛下に気に入ってもらってあわよくば側室にでもしたくて引き取ったのだ。
そりゃそうだよね。存在ほぼ忘れていただろう娘の事を引き取るには十分すぎる理由だ。
ちなみに長女はもう他家に嫁いでいるそうです。あと息子は現在、隣国に留学中。いきなり現れた異母妹に文句を言う姉や兄がいなくてよかった。伯爵夫人も私に関心が無い様子だし。
それはさておき、私はスパルタな淑女教育を終えてキラキラなドレスを着てここに立っている。
皇帝陛下にご挨拶してお言葉ももらえた。もうこれで私の役目は終わったようなものだと思うのよね。だって、皇帝陛下のあの流作業のようなお返事。あれって私なんか眼中にないって。それに実家が伯爵位の皇妃とか無理だわ。だって、侯爵家にも年頃のご令嬢がいるんだもの。こんはぽっと出のなんちゃって伯爵令嬢なんて相手にされないって。
なんでまた生物学上父である伯爵は、私を皇帝陛下の元になんて考えちゃったのかしらね。
ぐぐぅ。
あっ、小さいけどお腹が鳴っちゃった。
今日はいつもより早起きして支度したから朝ごはんあんまり食べられなかったんだよね。ドレスのためのコルセットをギュウギュウ締めるものだからごはんが喉を通らなくて。
食欲なんてないと思ってたんだけど、お腹空くんだな私のお腹。
立食形式だから会場の庭の端には軽食が用意されている。思わずチラリと見てしまう。
食べたい!
「ふぅ、陛下の挨拶が終わると次は演奏会がある。レティシア、お前も参加するのだから準備しておけ。私たちは他の挨拶回りをしてくる」
そう言うと伯爵は私の返事を待たずに夫人を伴ってさっさと行ってしまった。
ラッキー!
さっそく何かお腹の中に入れなくちゃ!
そそくさと軽食の乗ったテーブル目がけて進んでいくと、やっぱり誰もいなかった。
普通の貴族令嬢なら確かこういう場では何も口にしないらしい。
もったいないな。
一口サイズのサンドウィッチやキッシュ、小さなケーキやタルトまである。
どれもこれも美味しそう!
近くにいたメイドさんに声をかけてお皿に盛ってもらう。
私が選んだのはお肉を挟んだサンドウィッチとほうれん草のキッシュ、イチゴが乗った小さなケーキ。
迷わずサンドウィッチをパクリと食べる。
こっこれは・・・!
焼いた鴨肉と甘い玉葱がバランスよく挟まれてるサンドなウィッチだわ!
ほうれん草のキッシュ、ああ、中に角切りされたチーズが!うん、胡椒が効いててこれも美味しい!
最後にケーキ・・・待って、その前に紅茶を淹れていただけるかしらメイドさん。あ、アイコンタクトで解っちゃったらしい。にこにこソーサーを差し出してくれてる。
ああ、美味っ。さすが皇帝陛下主催、紅茶が美味しい。
一息ついたわ。さあ、まずはイチゴよ。頂きま・・・
「うまそうに食べるのだな」
背中に声をかけられた。
私は端なくもケーキのために開けられた口を閉じて振り返った。そこにはさっき挨拶した皇帝陛下が立っていた。
え、なんで?
「そなたはバルバラ伯爵の娘だったな」
「・・・」
「よい、話してもかまわない」
「はい、恐れながらその通りにございます」
「サンドウィッチは美味かったか?」
「えっ、はい。とても美味しゅうございます」
「そうか、喜んでもらえてよかった」
え、なにこの会話。親戚のおじさんがひさしぶりに会った子どもにする会話だよこれ。
「・・・そなたはいくつになる?」
「十五にございます」
「そうか、十も離れていると余はおじさんだな・・・」
え、なんかボソッて呟いたの何?
「邪魔をして悪かったな。イチゴのケーキも楽しんでくれ」
そう言って離れていった。
ええええ、なんでぇぇ?
不可思議すぎて理解できずにいたけど、あれ?
皇帝陛下ってさっきまで花をバックに中央にいたはずだよね。
まさか皇帝陛下のそっくりさん?
いやいや、そっくりさんがいるなんて聞いたことないし。どういうことなの?
なんだか狐につままれた気分で、伯爵に呼びに来られるまで呆然と立ち尽くした。
結局、イチゴのケーキは食べられなかった。
あと、ついでに演奏会も失敗してしまった。
「まったく、なんでひどい出来なんだ。お前は楽器の教養もなく、付け焼き刃程度ではあの場所で抜きん出ることはできないのだぞ。だから歌で勝負するところだったのに、なぜあんな呆けた顔で突っ立っていたんだ!音は外す、伴奏と合わせられない、おまけに終いのお辞儀も出来んとは!」
園遊会が終わり伯爵家への帰路、馬車の中で当然ながら怒られてしまった。
「皇帝陛下へのアピールの場であんな失態をしてしまうとは。お前のドレスや教育にどれだけ金と時間を費やしたと思っているんだ!それを・・・」
「ねえ、あなた。そのお話も大切ですが、園遊会でお会いしたモント侯爵夫人から、個人的にお茶会へのお誘いをいただきましたの」
「なに、モント侯爵夫人から?」
「ええ、宰相閣下の夫人から個人的なお茶会を受けるということはなかなかありませんでしょう?ですから、サンドラを連れて伺おうと思いますの」
「そうだな、モント侯爵家への縁ができる場にサンドラを連れて行けば、婚家であるモーリア伯爵にも借りを作れるやもしれんな」
「そうですわね。モント侯爵夫人はあまり社交をされない方。皆様、侯爵夫人とのお茶会に参加したくて仕方がないのではないのかしら」
あー、なんか夫人の話で上手い具合に伯爵のお怒りが逸れたな。
ありがたい。伯爵のお怒りというものは最後には暴力だからな。自分で怒りのエンジンかけて、燃えたらじゃんじゃん油を注ぐからな、自分で。私黙ってるのに。
伯爵はモンテ?モント?忘れたけど侯爵家への縁を作ろうと興奮気味で話してる。
それを夫人がいい具合に頷いて同調してる。
私は馬車のポックポックと小気味いい蹄の音と馬車の車輪が回る音だけを集中して黙っていた。
ありがとうございました。
誤字脱字報告していただけるとありがたいです。
※初投稿時から皇帝陛下の年齢を変更しました。2023/05/19
主人公と十四歳離れている(二十九歳)→十歳離れている(二十五歳)