「呪いの絵の具」〜弐〜
■まえがき
これは前回からの続きの話……
商店街のイベントで描いて貰った絵画と同じ姿になってしまった栗子とお母さん。
色々あって自分達に起こっとる事は絵が元凶と気付くも、どうしようかとした話の脱線に、口喧嘩になりかけていた所へチャイムが鳴って、シズの声。
恥を忍んで貴婦人姿のまま玄関のドアを開ける栗子に……
■本文
――GATYA――
「栗子、大・丈・・・ふふふふふふっはははっははははははははははははっははははははははっははははほほっほっほほほほほっっほほほほ……」
コイツ、シバいたろか。
人の顔見てこうも笑うか?
キャスケットにフード被せた殺人犯か魔女みたいな格好した女に、パーカーに手突っ込んだまま笑われる筋合い無いでほんま。
『シズ、用も無いなら帰るか?』
「いや、スマン。違ぅ、用があるんはアンタやろ?」
んぐっ、・・・この女、そういう所は目敏いんよなぁ。
『そらまあそうやけど、シズこれの事もう知っとるんか?』
「まあな。そのバンドエイド、もう状況解ったんやんな?」
ほんに目敏い女やな。
助かるけど。
『これどないしたらええねん? 元に戻る方法あるんか?』
「私を誰や思てんの! それよりえぇ加減中に入れてんか? ここで話しよったら色んな人に見られんで、あんたのその・・・ふふふふふっふふふっふっふ……」
質悪っ!
いや、確かにそうやわ。
『もう笑わんと、お入り』
「ふっ、スマンな、ふふふふふふふふふふふっふ」
コイツ、呪い解けたら絶対シバいたる。
ほんでシズは家ん中で何を深呼吸しとるねん。
『お母さん、シズがコレの事知っとるて。何とかなるかもしれんで!』
「ほんまか? シズちゃんありがとうな」
・・・ん?
何? 何でシズそんなトコで固まっとるの?
「・・・栗子、ちょ、なあ」
何よ小声で……
『シズどないした?』
「ちょアレ、栗子のオカンなん?」
・・・あ、忘れてた。
『そうやで。アレのっぺらぼうと違うから安心してや、お母さんやから』
「はああぁぁん、エライへったくそな絵描きに描かれたなあ」
・・・違うねん・・・違うねんけど。
説明するんも面倒臭いな。
『でも何で私がこんなん成っとるて分かったん?』
「栗子、帰りに昨日の話してたやろ、絵描いて貰たて」
『そんで分かったん? 天才か!』
「アホか、電話に出えへんから何かあったかな思て考えててんけど、絵描いて貰た云う話しから検索したら商店街のビラに怪しいオッサンの顔出て来よったからピンと来てな!」
『どない頭しとんねん』
・・・あ、やっぱあのオッサンが元凶か?
ほな、呪い解く方法云うんもアレか、オッサンの居場所を見付けたとかかいな……
さすがシズやで。
絶対敵にまわしたらアカンな……
『あ、ほんでオッサン今何処に居んの?』
え、な〜んその顔……
ははーん、分かったで! 銭やな。
私が呪いに気付きよったもんで、これはスグに解決する思て、焦らして銭吊り上げよう思てんな。
その手には乗らんでえ! そも銭払う払わんの話しやったか知らんけど。
「栗子あんた、オッサン見付けてボインボインな女に描かせよ思てたんと違うやろな?」
・・・怖っ!!
なんやこの女、私の心読み過ぎやろ!
え、シズほんまはエスパーか何かなん?
ちょ待て、ならさっきシバいたる思てたんもバレてんのか?
やばいな・・・いや、今こうして考えとるんもバレてん違う?
・・・これは、先に謝らな
『スマ』
「違うで!!」
『ほんまに?』
「当たり前やろ、そんなん出来るかあ!」
そらそうやんな・・・ん? 何や違和感あるなぁ。
「栗子アカンで、あがいなオッサンに裸描かせよったらボインは兎も角、風呂もトイレも行けんようなるで!」
『なんでよ!?』
「アホか、あん歳したオッサンが絵描きながらクラシックかけとるんよ。あんなんロリコンか童貞やろ!」
いや、どんな偏見よ。
オッサンが貴婦人画掻きながらクラシック云うんは何や絵描きの定番やんか。
そらまあ、ちぃと気味悪い笑顔しとったけども。
『なんでそんなん判るねん、そも絵に関係ないやろ』
「アホぬかせ! 音楽学校出とる訳でも無いあん歳のオッサンがクラシック聴く理由なんか若い時分にモテようしたん見抜かれそうなって、俺クラシック音楽がほんまに好きやねん! とか吐かして嘘認められんようなって長い事嘘吐いとる内に自分でもクラシック好きなん違うか? 思い込みよっただけのアホやろ! そがいなロリコンや童貞にソコ描ける思うか? 栗子あんたのソコ、最悪何処ぞのテレビ局のマークに棒線引いたもんみたいになってもええんか?」
・・・あ、アレか。
違う違う、ソコやない。
『いや、今はパソ在ったら何でも観れるやん!』
「アホやなぁ、ああ云うんはパソなんかでそがいなもん観いひんて、自分の趣味合わんかったらクソ思てる口や、そやから街で見かけた女タダで描いて性癖ぶち撒けとるんよ!」
・・・なるほど! 思てまうけど。
『そら、全国の絵描きさんに失礼過ぎるやろ!』
「誰が絵描きさん全部言うたん? あのオッサンだけが特別やばいんよ!」
・・・そもこれ、何の談義やねん。
こんな服来て優美な髪も、台無しや。
この服もあのオッサンの性癖か思たら気持ち悪なって来たわ……
母「シズちゃん、とりあえず茶飲むやろ?」
S「あ、私この前の渋いのがええわ」
母「おお、アレな。ええのかあんな古いの」
S「ええも何も古くても美味い方がええです」
母「えぇ舌の証拠やな、あれ渋なっとるけと高いねん。シズちゃんの舌まるでええトコの娘みたいやん」
S「ウチの生まれええトコやからAが付く街なんよ」
母「栗子なんか何飲ませても美味いしか言わんもんで、この前なんか乾燥椎茸の戻し汁飲ませたら美味しい言うたでね、アホやろあの子」
S「栗子さんはアホなんかと違いますよ、見てたら面白いねんから笑いの神様と違うやろか」
・・・いや、打ち解けてんのはええねんけどな。
あんたら今どういう状況か判ってんの?
何なんその平和な雰囲気。
それに見合わん母の顔……
シズもさっき怖がってたやん。
何がえぇトコの娘や。
よう見たらでっかいフードの紫紺パーカーに黒いチュールロングスカート履いて、明るい所で見たら何やお洒落なお嬢さんみたいなんが腹立つけど……
パーカーん中の鮮血柄のシャツも胸元の怪しいアクセも、こないだオカルトショップで売ってたん私見た記憶あんで!
ちゅうか、アンタの生まれた街のAは芦屋や無うて尼崎やろ。
そも引っ越しとるし、今同じとんぼりやんか……
何がAや、性格からしてSやないの!
ほんでお母さん、私に何飲ませとん?
それいつ?
『もう、ほんでコレどないしたら呪い解けるん?』
S「焦りなや、先ずは二人の絵を見して」
まあそらそうよな。
やっと呪い解く気なってくれたか……
けどアンタ、それ茶飲みながらする事か?
・・・まだ続くっ!!!