「写し鏡の中の」
そうだ! WEBカメラ仕掛けたんだった。
スマホスマホ……
え、嘘でしょ?
鏡に【推しうちわ】映リ込んどる……
恥ずっ!
公開してないからええけど。
・・・ん?
今何か横切らんかった?
・・・気のせい?
うぅん、何か違和感あるんよねぇ……
とりあえず、鏡アソコに置いとくんは危険やな!
ってえ!
ケースのお菓子、減っとるやん!!
私のコロン何処やってん!!
いや、在るな・・・手前のケースには在る。
鏡の向こうには、無い。
・・・オカシクね?
いや、お菓子やからとかやなく!
映り方で消えるミラーマジック的なアレか?
まあええか、とりあえず部屋で確認すればえ・・・え?
何で私が映ってんの?
しかも部屋着やし。
当たり前に動いとるけどコレ・・・LIVE配信やんね・・・うん、設定もあっとる。
・・・ええ?
てか、何か私・・・太ってね?
あ! コイツ、プリッツにまで手ぇ出しよった!
うぅわっ!!
コロン箱だけ戻しよる。
何コイツ! 最低やな。
・・・私の顔してからに。
いや、ちょい待って。
これどうすんの?
あ、シズに聞いたら何や解決してくれるかもしれん!
とりあえず一旦切って、配信のアドレスキーをシズに……
シズSNSやらんから、電話は……
『シズ、ちょ聞いて! いや、それノーパソで観て欲しいねんけど!
・・・・・
そお、そいつ!
いや、私まだ帰ってないて!
え、せやから外におるって…
窓に顔出せて、映っとる部屋あるんは二階やで!
はあ? 私どんだけ脚力あんねん、アホかっ!
え、プリッツ食い終わって戻した?
・・・あの、クズっ…
そやろっ! やっぱ太っとるやんね。
え、・・・何処が一緒なんじゃボケえっ!!
いや、ええから。これ何とかならん?
ちょっ、スピーカーにするわ』
「何でよっ! 地べたでメモ取るオッサンかっ!
いや栗子、これ気い付けなアンタ消されてまうかもしれんで!
それ多分、都市伝説の【写し鏡の中の人】やと思うわ!
あれな、鏡の中に映し出される世界云うんは、パラレルワールドと似た次元との隔絶世界が切り出されとるんよ。
けんどそこに写った生物が、不意に意思を持ってまう事があんねん。
よう合わせ鏡の何番目かに写る顔は○○○言うんを聞いた事あるやろ?
あれ意思を持ったはええけど、世界の理の強さは隔絶世界よりコッチの世界が上やから。
ほいで世界の調和保とうする次元的な力が、隔絶世界の動きをコッチの世界に合わせて動かしてまうねん。
これを私は【次元的同調圧力】と名付けとる……」
『・・・あ、次元的同調圧力な、ええ名前やん、ほんで?』
「いや、問題なんは鏡ん中の栗子が太ってもうた事で、次元的同調圧力がどう判断して調和を取ろうするんかなんよ!
コッチの栗子を太らせるか、鏡の中の栗子を痩せさせるか、それとも……
理にそぐわん二人共を排除するか!
最悪殺されんで、あんた……」
『え、何それ。ちょ、怖い事言わんといて』
「そこでよ! 栗子、前に祭りで貰た自転車の置物、下の部屋にあったやろ?」
『え、・・・ああ、そんなんあったな。アレが?』
「遠近法使て鏡の前に置いたるねん」
『ん? 置いて・・・え、運動さすんか!?』
「そやっ! けんど栗子は暫く部屋に行ったらアカンで! 栗子のオカンに頼んで鏡ん中の栗子痩せさすねん! ほんで見た目変わらんようになったら鏡の前に行ったらええわ」
『おおっ! ありがとうな、ほなまた!』
「おお、明日から銭休みやし頑張りっ!」
・・・写し鏡の中の人、そんなん知らんかったわぁ。
ほな、鏡の中の私、コロンとプリッツ食いよった罰やけね!
『お母さ〜ん、私今日から暫く下で寝るわ』
「はあ? 栗子また部屋で何か変な物零したん?」
『違うわっ! ちょコレ観て……
そお! 太っとるんよ。
・・・いや、何処が一緒じゃっ! よお見てみっ!!
ほんでコレな、シズから聞いてんけど……』
あれから三週間、私は待った。
その間、お母さんにシゴカれた鏡の中の私は大変だったのだろう。
久々にあの鏡で見た私は何処か疲れているようにも見えるが、特に反応は無い。
私に言いたくても理の強さで言えんのかもしれんけど……
思い返せば夕方お母さんが水槽を部屋に持って行って、何をしてるのかと聞いたらプールとか言っていた。
鏡の前に置いて水攻めにしていたのだろうか・・・よう頑張ったな写し鏡の中の人。
私は固く決心した。
お母さんに痩せろと言われる前にお菓子は少し制限しようと……
けれどそんな私の? 苦労とお母さんの愉しみ? の時間を嘲笑うかの如くに、久し振りに会ったあの悪魔のような女は私に言い放った。
「え、栗子ほんまに写し鏡ん中の人にダイエットさせたん? アホやなぁ、あがいなもん鏡パタン倒して一旦真っ暗にしたったらリセット出来るやん! 律儀やなぁ……」
・・・いてこましたる。