「アレのアレや」
■まえがき
これは前々回からの続きの続きで最後の話。
栗子の部屋に現れた仏像さんに霊犬ネクロが小便垂れて河北伍長が小銃構えて、りょうさんが庇って土下座して、小便の臭い気にした栗子がお母さんに聞いたら神社の手水かけたらエエ言うて納得するも、仏像にかけてもエエんか問うもそもそも仏像さんが何で部屋に居るんかに気付いたら、お母さんがいつの間にやらシズ呼んどって、仏像さんが帝釈天さんやと判ったものの……
■本文
『梵語か何か読んどったん?』
S「その読むと違うわ! 事の筋が読めたあ言うてんねん」
事の筋て、こんなもんに筋書きなんかあるかあ?
部屋でいきなり仏像さんが闊歩してんねんで?
それも何で東京の帝釈天さんが、わざわざ大阪とんぼりに来よるんか、ワケワカランて。
S「それや! 何でわざわざ栗子の部屋に来てるかや!」
何?
いや、その前に私の心の声を勝手に聞くのヤメてくれん?
母「何で?」
何でやないわ!
お母さんもう食い付いとるやん!
すっかりシズの信者やん!
まあ、私も聞くけど……
S「前に栗子、阿修羅マンなったやろ!」
・・・・・あ、アレか!
呪いの絵の具で……
いや、アレはなった言うか、させたんシズ、アンタやろ!
そも今ハッキリ、阿修羅“マン”言うたよな!
S「余計な事まで思い返さんでええねん。実はな、帝釈天さんはインドの方のバラモン教とかヒンドゥー教ではインドラ神て云う名で雷神の武神やねん。ほんでその頃のインドラさん悪い事しててな、阿修羅さんも向こうではアスラ神族て云われててんけど、インドラがアスラの王の娘の舎脂を嫁にするんを待ちきれんと、力ずくで攫って凌辱しよったんよ」
『ぃゃ、サイテーやな!』
S「最低言うかその娘も娘で、凌辱されたのに『インドラ好きーっ!!』てなってもうて、そらもう父親としてアスラの王めっちゃ怒って復讐心丸出しに悪鬼なって天界で暴れ倒すんよ」
『そら、そうよな』
S「けどインドラさんて武神やからな、アスラの王そん時に負けてもうてアスラ族のみんなも天界から追放されてもうてん!」
母「何や昔の昼ドラみたいな展開やな」
・・・いや、お母さんひょっとして、天界と展開かけてんの!?
ドヤ顔しとるし、絶対そうやな。
え待って、ほなこの帝釈天さんは、私があん時なった阿修羅に反応してココまで来た言う事?
ん?
ほなこれ、仲悪い義父関係とか気にしてんと違うん?
『これ帝釈天さん、阿修羅のお義父さんに謝り来たんと違うか?』
S「いや、そもコレ東京の帝釈天さんと違うで、インドのインドラさんやからな! ほれこの明野さんのお礼のお菓子を詰め込んどる袋、アレ確かオカルトショップに在ったん見た事あんで。多分この袋の柄がインドのインドラさんを引き寄せるヒンドゥー教系の呪法か何かなんと違うか?」
『明野さん何してくれ・・・いやまぁ、お菓子くれたんは嬉しいけど。ほなインドのインドラさんは何しに来てん?』
S「単に阿修羅を倒そう思てこの前の阿修羅絵の残糸を追って来ただけやろ。アッチのインドラさん天帝やけど、喧嘩早くて負けたり呪いかけられたり破茶滅茶でな、その上インドラさんて女としても性生活しくさる両性具有やねんで」
・・・両性具有?
何や、TSやの何やので界隈で流行っとるアレか?
ほな帝釈天さん、LGBTQの最先端やん!
これ知ったら、柴又に寅さんと関係ない若い子や外人さんやの色んな感じの人等まで来るん違うの!?
柴又帝釈天さん大盛況なんで!
けど、エラい下品な銅像が建ちそうやな……
・・・て、阿修羅倒しに来た言われても、呪われた絵なんか残しといたら危ないからて、あの阿修羅絵もう顔判らん程塗り潰して燃してもうたやん!
S「あの絵の具、オカルトショップに残ってんで。もっ回姉ちゃんに描いて貰うか?」
『アホか! 今 阿修羅なったら殺されてまうやんか! けどコレ私どないしたらええねん?』
S「さあな、アッチのインドラさんやし、阿修羅が仏教に帰依して武闘神なって修羅界で仏教警護しとる事も判ってへんのと違うか?」
『アカンやん!』
母「昼ドラ的には、阿修羅出て来んと話にならんもんな」
・・・・・いや、お母さん?
何で娘をインドラに差し出そ思てんのよ。
下手したら、インドラの子を孕まされんで!
S「栗子が天帝でもあるインドラ神の子を産んだら神の姫や、ご神姫さんになれんで?」
母「ほな私、ご神姫さんの母やから……」
『ぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃ無い! それは無い! そんなんされたらアカンやん!』
S「今度は戦闘神と違うで、神姫やで! 神の姫、お姫様やん!」
何や、響きはめっちゃ良い感じやけど、姫なる前に凌辱される言う話やろ?
セクハラ処の騒ぎやないでコレ!
アンタ等、私を何や思てんねん!
何や一回は成ったせいか、阿修羅族の王の気持ちがめっちゃ解って来たわ。
S「栗子、今ここに映ってんの誰?」
誰て、私のスマホ何でアンタが持ち続けてんのよ。
まあ今はええけど。
て、いつの間にやらインドラさんと誰かが話しとるやん!
あれ、これ不動産屋のおっさんか?
そういや今まで何処行っててん?
姑息に隠れとったか?
母「ああ、この人な。この家買うた時の不動産さんや」
S「どうりで真新しい幽霊やな思たんよ」
いや、新しいか古いかやないねん。
どれもコレも幽霊なんやで?
て、インドラさん不動産屋の話にめっちゃ肯いとるなぁ。
・・・何言うたん?
あれ、インドラさん何処行くねん?
画面から消えてもうた。
――GARARARARA――
え、何やこの音?
母「あれ、上に誰か居るんかあ?」
誰かて、今スマホ観てたやん……
あ、これ部屋の窓を開けた音か?
ほな、インドラさんがカメラに映らんくなったんは、窓から出て行った言う事?
て、不動産屋のおっさんカメラ目線で親指立てて……
・・・え、どゆ事?
S「ははあぁん、これおっさん巧い事したな。多分喧嘩させ易そうな高知の金剛福寺さんに阿修羅が居てるてインドラ神に言うたんやろ! あっこには怒りを現す少年の阿修羅像が在るて、さっきネットに書いてあったわ」
母「流石は不動産屋やね、口が上手い」
そやんな、その不動産屋の口車に乗せられて、お母さん見えてんのに幽霊が居てるこの家買うたんやもんな……
ほいでお母さん忘れてるかもやけど、シズの情報もネットや言うてんで……
S「とりあえず帝釈天さんの真言でも唱えといたらええんと違うか? オン・インドラヤ・ソワカやて」
いや、それ唱えたらインドラさん戻って来るんと違うの?
アカン、絶対アカンわ!
これはシズの企みや……
恐ろしい女やでホンマ。
母「昼ドラ的には戻って来た方がオモロイねんけどな……」
おいっ!
『アレのアレ篇』
おしまい。
■あとがき
この『アレのアレ篇』の話は、帝釈天さんや阿修羅さんを馬鹿にする意図はありません。
インドラ神さんの破天荒な行動も、仏典の帝釈天さんやバラモン教やヒンドゥー教のインドラ神の話に伝わる事で、それ等に基き構成しています。
注)神社の手水舎の水は手を清める為の水であり、聖水めいたものではありません。本作での使い方はネタですので真似しないようお願い致します。
※難波八阪神社の阪は、コレが正解です。デッカイ獅子の顔した社殿が在り、手水舎では獅子の口から水が自動で出て来ます。
また、南乃福寿弁財天さんの地下水の件もネタではありますが、飲めないのは本当です。建てる際の発起人が落語家さんばかりなので、笑いに使うのは許容されそうだなとの甘えですが、問題がある場合は一報いただければ修正致します。
ちなみに帝釈天さんはLGBTQとか以前に天帝さんですので、そもそもの解釈は違えぬようにお願い致します。作中では栗子の頭やから、という勘違いネタである事をご理解願います。





