「ヴィネの憂鬱」〜養魚〜
ええい!
アレなる物の離解方法も確認せねばならぬと言うに、まだ着かぬ……
ん?
自転車に向けた距離の目安看板か……
――NYA!?――
そんな!
毛馬までまだ五キロ以上?
猫姿の我の脚では時間がかかり過ぎて事に間に合わぬ!
まずい……
――NIIIIIIII――
むむ、下流から来る、あの帽子……
確かアレは、ロックマンとか申す娘。
ああも目立つ格好で堂々電動キックボードに乗り、颯爽と……
いや、警察は何をしておるのだ!?
怠慢甚だしいわっ!
――UNNNYA!?――
否、何処へ向かうかは知らぬが、大川の自転車道を毛馬へ向かっておるな。
何が入ってるやも知れぬ、あの背中の大きな箱……
どれ、そこの木の上から行くとしよう。
――SUTATATATATA――
今だ!
――NYAUUuu――
――SUTTA――
ふむ、我ながら素晴らしい着地である。
征け、ロックの娘よ♪
――NIIIIIIII――
にしても
何か、足下が冷たいのぉ……
――FUNYA?――
おお、大阪城を超えたぞ!
もう近い、頑張れロックの娘♪
ん?
違う! ソッチでは無いぞ!
戻れ!
毛馬の閘門から淀の川を遡上し、枚方の遊園地で歌うのではニャいのか?
まさか、この娘は造幣局で何かしでかすつもりか?
ええい、仕方ない。
汝とはココまでだ!
――NYA!――
――SUTTA――
あと少しだというに……
んん?
これはまた渡りに船か、都合の良い所に足が来よったわ。
金貸しの三下奴め、サボりに毛馬の河岸にボロ車を路駐し寝るつもりか?
信号待ちの今なら窓も開いておるし……
――SUTATATATATA――
あ、信号が!
――NYAWOoo――
待てえぇぇぃ……
――SUTTA――
臭っ!
何だこの、血生臭ぁ……
これは、此奴めの流血を拭いたティッシュが後部座席の床一面に。
むむ、借用書?
濱田功三に二千万円の支払い? ほおぉ、コレであの金貸し屋に囚われておったのか。
此奴め、よくよく見れば中々の筋肉。
なるほど、殴られても痛くも痒くも無いが、コレにより強靭なる身体を持て余しておった訳か……
よし、汝は今から我に仕え手足となれ!
悪魔たる我の庇護の下で命令に従えば、必ずや汝の道は拓けるであろう!
――WOAAAAAUMU――
エブルネウム
ハイドライド
チェンガバル
トヴォルドゥ
エッセルンゴ!!
これより汝の名はハマゴーである!!
「はっ! ヴィネ樣、我にご指示を!」
――NYANYA!――
ふむ、運転中だ、前を向け!
「ははあ!」
――BURUUUUUNN!――
よし、着いた!
荷はまだあの軽バンの中に……
ん?
缶が開いておる!?
まずいぞ!
苛性ソーダが……
「何や、小魚ハネとるで!」
「流石に綺麗綺麗入れ過ぎと違うか?」
「見た目だけでも綺麗なったらそれでええわいな!」
このっ……
国賊共が、己が侵した罪にすら気付きもせず、閘門の水が苛性ソーダの水和熱に突沸している事すら判らず傍観しておるのか!!
――NYAAA!――
ハマゴーよ、奴等に己の罪を分からせてやれ!
「ははあ!」
ん?
ハマゴーよ、軽バンのドアにしがみついて何をしておるのだ?
「ちょアンタ、何をしとるねん、離れんさいや! けったいなオッサンやなあ」
「アンタそれ大阪の紋やで! 壊したら税金増やしてアンタ等みたいなチンピラからも金巻き上げるでな! おんどれはそれでもエエんかあ! おお?」
己の罪を悔いる処か、喧嘩っ早く保身に税金を盾にする、分かり易いまでの公権力クズであるな。
して、ハマゴーよ、汝は何をし……
――BAKIIINN!――
「え、」
「は?」
――FUNYA!?――
いや、軽バンのドアをもぎ取って何を……
「どぉりゃぁあああっ!!」
えええぇぇ……
放りおった。
この馬鹿力が、フリスビーの如くに投げおったわ!
――BASSHAAANN!!――
・・・閘門の中に。
「何しとんねアンタッ!!」
「これ、どないしてくれんねん!」
「アカン! 頭おかしいでこのオッサン!」
公権力クズが三人雁首揃えて己のした罪にまだ気付かぬか、我にはハマゴーの意図を理解出来たぞ。
放り込んだは苛性ソーダが水に触れ、水和熱に沸き立つ閘門内の強アルカリ水の中、ドアのパネル部分がアルミ製と見て……
・・・・・・。
いや、普通に沈んだな。
スチール製のドアであったか……
車業界は環境云々言っとる割に、アルミ製造の電気代ケチってスチールのまま、最近は炭素繊維やガラス繊維に呆けておるからのぉ。
て、ハマゴーよ、軽バンの荷を漁って今度は何を?
――FUNYA!?――
鉄パイプ?
流石はチンピラ、よう似合うておるわ……
「お、おどれは、ソレで何する気や!」
ん?
カブの前輪掴んで……
「オマエそれ国の紋やぞ! それ壊したら国税増やしたるからな!」
何と言う腐りきった公権力クズ。
て、前輪持ち上げたカブを?
――DOGOOOONN!――
「NOぉぉお!!」
「増税やがなああぁぁぁ!!」
軽バンにブツケてタイヤを取ったのか……
して?
リムにパイプを通し、パイプを曲げて……
いや、それ素手で曲がる物なのか?
あ、アルミパイプか!
「何やねんな、アンタは!」
また投げた。
――BASSHAAANN!!――
閘門に……
「な、何や、俺に何する気や? コッチ来たらオマエんトコの土地の情報もアイツラに流して殺させんぞアホンダラが! んぐぉお……」
あ、国賊の首根っこ掴んで持ち上げ……
「ひ、人殺し!」
閘門の中に顔向けさせて……
「な、何やコレ? パイプとリムから泡と気体が出て・・・融けとるやないか、コレ!?」
「え、ありゃ小魚ハネてた泡と違うんか?」
「何やコレ! オマエ何入れたんや?」
大阪治水の二人もようやく気付きおったか、でかしたぞハマゴー!
・・・多少、驚きはしたがな。
「アカン! この缶、東横堀に流れ込む排水に入れよ思てた苛性ソーダやがな!」
「ほなコレ、強アルカリでアルミ融かしとるんか? アカンやん! 今ココ中和剤あれへんで!」
「ほんならこの泡、水素やん! コレ下手したら爆発すんで! 離れな!」
して、公権力クズの三人が理解した所で、クズ頭から解決策が出るのを待っていては死人が増えるだけであるな。
先ずは中和剤を用意せねばならぬか、この辺りの工場に酸性素材が置いてあれば良いが……
――PIIIIWUUU――
――PIIIIWUUU――
――PIIIIWUUU――
――NYA?――
何だ、何が起きた?
「な、何や、何で閘門が動いとるねん?」
「アカン! コレ開いたら大川へ流れてまうで!」
「舟もあれへんのに何で動いとるねんや?」
んん?
閘門のヘリに誰か……
あ、あの公営ヤクザ、ココで何を?
――FUNYA!――
あの薬中警官!
ちょろまかした覚醒剤を閘門のヘリに隠していたのか!
そうか!
ハマゴーが暴れてるのを見て、連中に薬物の横領がバレたと勘違いして川に捨て撒き、隠蔽にトイレの水を流す感覚で閘門の可動スイッチを押しおったか!
馬鹿めがっ!!
――NYAAA!――
ハマゴー!!
「ははあ!」
――BAKIIINN!――
「アンタなしてっ!?」
「わて等の車、両ドア無うなってオープンカーなっとるやん!」
ハマゴー?
またドアをもぎ取って、何を……
「うぉりゃぁあああっ!!」
――GABOOOOONN!!――
なるほど、閘門の可動軸にドアをハメ止めたか。
コレで多少の時間稼ぎにはなるが、上流部の門が閉じた事で水位差を合わせるのに大部分が流れておるな……
「あ、アカン! コレ今このオッサン許してエエんか悪いんかもう、よう分からんくなって来てもうたわ!」
「分からんけど、もうエエ事にしとこや!」
「あ、アカン! 警官に見られとったわ!!」
――NYA?――
いや、その警官が元凶だ。
ほれ見てみ!
薬中警官も覚醒剤を撒き捨てた所を見られたと勘違いして、固まっとるではニャいか……
ふん、クズ共が揃って己の罪に怯えておるわ。
――NYAAA!――
ハマゴー! クズは捨て置き、東の横堀へ向かうぞ!
「ははあ!」
続くV!!
▶閘門の役目
閘門は、上流にある川の水位と引き入れる川の水位差を閘門を閉じる事で、下流から昇る船には高く、上流から下る船には低くする事で急激な水位差が生じないようにし、海の干潮の影響で水位を変える海から近い河川の水の流れにも一役かっています。
淀川から大川へは毛馬閘門が在り、大川から分岐した土佐堀川から東横堀川へは東横堀川閘門、道頓堀川にも下流の尻無川へと繋がる前の木津川との境に閘門があります。
▶東横堀川閘門のゲートについて
【サブマージブル・ラジアルゲート】
水中に隠れて見えないゲート(調整門)があり、弧を描くようにせり上がる調整門を【ラジアルゲート】と言います。
東横堀川閘門では下流側に在る隠れた調整門がせり上がる折に、それが判らず船が接触するのを防ぐ為、踏切代わりに河岸上部からの放水で調整門がせり上がる危険を知らせています。
東横堀川閘門の上流側には、両開きの調整門である【マイターゲート】があり、川の両岸にある大きなドアのような物が開閉をします。





