「ヴィネの憂鬱」〜雑魚〜
しかし厄介な物が飛来したものよ。
アレなるをどう討伐したものか……
この惑星の物でもないアレなるを、悪魔でない事から我も詳しい生態は知らぬが故。
幾らか人柱にして確認をしてみるか……
ん、川向うから来るあ奴は確か、金貸しの三下奴か。
丁度良い。
水生動物が人体に寄生する折どうするのかを、先ずは見せてもらうとしよう。
しかし川の水をぶっかける程度で嵐を起こすのも、何ではあるな……
ふむ、少しばかりの旋風程度で良かろう。
――WOAAAOO――
ウォシムンレ
コリディオヌ!!
――NYAAUMU――
「どしたんビネガー?」
――FUHYUUUUuuu――
――TYAPUNN――
「何やコレ! エラい水かけよってからに、誰や! おどれかコラ! イてこますぞアホンダラ!」
三下奴め、川側に誰も居らぬのに良くもまあ他人に絡めるものだ。
日頃の行いもだが、その報いがスグに……
「下でチンピラ何騒いどんねん? グリ下の娘等逃げなヤバいでアレは・・・て、今日は誰も居らんなぁ」
ヨシオよ、安心するがよい!
幼き娘共は既にアレなる物に寄生されたのであろう……
故に、救う手立てを見付けようと、我の力で川の水を暴れさせ、あの三下奴に水生動物ごとぶっ掛け、今その寄生方法を観察しておる所だ。
「冷た! 何するんじゃワレ!? お、何やコレ?」
おお、腕にまとわり付いたアレなる物が薄く伸び、そのまま頭部へと侵攻して行く訳か。
腕との比較からして凡そ十五センチ程であるが、薄く伸びるとサイズは判らぬものに、知る意味も失うか……
服の濡れた範囲が広がって行くかの如く、少しずつ 少しずつ寄生対象となる者の水分を吸いつつ頭部を目指し……
なるほど!
服に吸われ蒸発する水分の補給に、寄生する人の体液を抽出しておる訳だな。
うむ、予想通り段々と服が赤みを帯びて来よったわ。
ほほお、人の皮膚に近い所の水分では足らず、血液そのものを抜き出したか。
「な、何やコレ! 何じゃコリャアアアアアッ!!」
三下奴も己の服に滲む血の色に、ようやく気付きおったか。
詰まる処、痛みは感じていないという事か。
「ビネガー、あんな叫んどるアホみたいなん観てたら絡まれんで! てか、もう食わんのなら皿片付けてまぅ」
――FUNYA?――
下げるでニャいわ!
まだ我が食しておる故。
「何やビネガー、人が皿持った途端に、食い意地張っとるのおぉぉ……」
ん!?
三下奴がシャツを確認するのに摘み上げて肌から離したが為に、アレが皮膚に吸い付いたままシャツから剥がれておる!
シャツは粗方乾いておるな。
チッ!
ええい、早うシャツを離せ!!
アレの動きが見えぬではニャいかっ!!!
ん、首元にちらりと見えるがアレなる物か。
耳鼻咽喉や目か、何処から寄生するつもりだ?
「何やもう! 濡れた思たらワシの血かい!? ワケワカランのぉこの街は……」
――SHUBO!――
――CHUPUCHAPUCHUPUCHAPUCHUPUCHAPU――
な、アレなる物が逃げ出した……
三下奴め、一体何を……
「ああ今日も一日煙草がウマイ! ワケワカラン事はこれで済ますんが一番やな!」
あのアホ、普段からミスばかりして兄貴連中に殴られるのにも慣れ、己の身から出る血にすら関心を失くしておるのか……
しかし、アレなる物は紫煙で逃げたのか?
だとすれば……
火?
煙?
ニコチン?
タール?
否、喫煙で生じた脳内快楽物質によるボケ防止効果が、寄生に乗っ取るを難に感じ考え止めたか?
何れにせよ、いきなり解決策を叩き出すとは、詰まらぬ事を……
「お兄さん! ここ禁煙区域なんですわ!」
お、あの警官、いつも支払いをちょろまかしておる公営ヤクザか。
ちょうどいい鴨が来よったわ。
今度こそ寄生する方法を観察させてもらうとしよう。
「何やお前! 警官の格好したらエラい強気やのお! オドレが借りとるモンきっちり返してから言わんかい、アホンダラが!」
「せやからコレでチャラ言う事に出来ませんかあ?」
「どない頭しとんねん! 何や、警官の格好したらショーパブ通いで作った借金が煙草叩きの脅しでチャラなる思てんのか? 警察言うんはどんだけのクズや! おおっ!?」
・・・そういえば、アレが制服脱いだ折、対岸のグリ下で吹き溜まる幼き娘共に逢い引きしておったな……
しょうもない三下奴のクズ共が!
ん、アレなる物は何処へ行った?
警官には近寄ろうともせぬとは、腰の拳銃から香る硝煙に反応したか?
否、あ奴の身からは何か覚醒剤中毒と同じ類のけしからん薬物臭が出ておるな……
観察対象を違えたわっ!
して、アレなる物は何処に……
――NYA!?――
頭パンチのオバちゃん!
続く!!!