「覗くべからず」
そうだ! WEBカメラ仕掛けたんだった。
スマホスマホ……
え、嘘でしょ?
男の手!
・・・にしては、小さぃな。
けどこの、ゴッツい腕とか!
・・・短いな。
化粧品舐める変態か?
思たけど・・・ボトル使う順に並べ替えとるな。
指紋やら拭き取っとるんか?
思たけど・・・埃取っとるなコレ。
・・・誰か来とるんかなぁ?
お母さんに聞かな。
――GATYA――
『ただいま』
「おかえりなさい・・・何や畏まって?」
『今ウチに誰か来とる?』
「何その押しかけ強盗みたいな台詞、怖っ! お小遣いなんか無いでえ」
・・・私、ただいま言うただけやのに。
いや、誰も居てない言う事は判ったけど、ほなアレ誰やねん?
また可怪しな事なっとるわ。
『違うねん、今私の部屋にゴッツい腕が見えてんよ』
母「はあ? 腕前が何やねん! 今お母さん忙しいねんからハッキリくっきりどっきり言わんと分かれへんでえ!」
アカン、これ今お母さん洗濯物取り込んで夜ご飯の準備し始めた所やから忙しそうやし、何聞いてもドヤサれるパターンやな……
今迂闊な事したら知らんオッサンにボコられるんと変わらんで、部屋逃げとこ。
――GATYA――
・・・誰も居らんよなぁ?
いや、それ以前に……
これ、片付けられてない?
窓とか鏡とか机の上も、何や色々拭き拭きされとるし。
鞄もやけど、この前の制服に付いたラーメンのシミもいつの間にか無うなっててんやんなぁ……
いや、最近部屋も綺麗になっとる気はしててんよ。
朝脱いだ服は畳まれとるし
散らばっとった髪留めも揃っとるし
鏡の埃が無うなっとるし
教科書類も色々整理整頓されとるせいか、ここんとこ学校に忘れ物も無かったしやなぁ。
何かに覚醒めた私が、寝とる内に自分で何やしとるんか思てたけど……
私がする訳・・・ないなあ!
まあええわ。
危ないもん居たら怖いし、とりあえず、シズ呼んどいたら何とかなるやろ。
『お、シズあんな……
え、今外?
ああ、出かけてんのか。
いや、何や部屋にセットしといたWEBカメラの配信映像観てたら短くてゴッツい腕が見えてんやんかぁ……
え、最近消えた菓子か?
この前あの子に貰たタイ土産のポッキーと、例の残しとった限定ブランやけど、それが何?
ん、何の謎が解けたん?
いや、今日はプチカステラも何も無いし何も買わんでもええて。
あそ。
おぉぉ、ほな待っとるわ』
・・・いや、解けた謎て何?
謎増やされてんでコレ。
しっかし何処から入って来たんやろか?
恐ろしい事なっとるでコレ。
窓・・・は、閉まっとるな。
押入れ・・・猫型やないねんから。
天袋・・・コレ覗くんも疲れるな。
・・・居らんやんなぁ。
他の部屋とか、屋根裏に潜んどるんかなぁ?
――PINNPOOONN♪――
S「栗子ぉー早う開けえ!」
早っ!
てか聞こえの悪い、取り立てか!?
『今開けるて、ちぃと待っとれよ』
――GATYA ――
『て、何でそんなバナナ買うて来とるの? 私ゴリラと違うねんからそがい大量にバナナ食わんでぇ』
S「誰が栗子にやる言うた? 食い意地張ってからに」
ぃゃ、さっきアンタが電話で買うてくわぁ言うてたんやから、私への土産や思うやん。
ほんで見下した眼えで私をブタみたい見るんヤメてぇや、その小っさい細いアンタと比べられたらかなんでぇ。
S「ほな、お邪魔します〜おいでやす~♪」
て、人が気にしとる間にアンタは、ソレどんな挨拶よ……
母「おいでやす~オカンです〜」
ソッチもノリノリかっ!
何やのコレ。
S「いやぁ可怪しい思ててんよ、栗子が忘れ物もせんと学校来とるし、何や最近身綺麗なっとるんが気色悪い言うか」
母「そやろ? 私も何や気味悪いな思ててん、ほんならやっぱ栗子に何や憑いとるんか?」
S「憑いとる言うか過保護にされとるみたいで、これやと栗子の為にもならん思うし、どうせやったらお母さん助けてもろた方がええん違うか思いましてん」
母「え、何? 私が助かるんか? ええやんそれ!」
S「ほんならこのバナナを……」
・・・いや、何で友達の私を差し置いてシズとお母さん二人で喋っとるんか全く以てワケワカランのやけど。
何やA4広告の裏の白紙に何書いとるんか知らんけど、そのバナナお母さんに渡すんかいっ!
ほな、さっきの何やねん?
私一人で食うな言う事か?
『おーいシズ、私ココやでえ』
S「ほな、それだけ守って下さいね」
母「オケ! そんなんしてくれる言うんに見いひん見いひん! あがい恩返してくれとるんを覗きよるのはスケベーやからやろな、アホやアホ! しっかしそんなんでええんかぁ? ほんまそれは助かるなあ!」
S「栗子、コレ部屋の目立つ所に明日の夜まで貼っとき」
『・・・何コレ?』
広告の裏に書いた・・・英語っぽいけど何や違う感じがするなぁ、まあシズが書くんやからコレも何や呪言みたいなんかなぁ?
【ʻokoʻa! "E ʻoluʻolu e kōkua i nā poʻe ʻē aʻe ma ka hale hoʻokahi."】
おこっ! あ! え、居る居る、こ、怖いな、ぽえ甘か晴れほお、オカヒ。
・・・うん、絶対違うな。
こんなもん全く以て読めへんで……
『盗っ人か何や分からんけど、コレであのゴッツい腕のオッサン出んようなるんか?』
S「盗っ人? まあその手の連中は三分あったら入り込む言うけどゴキ並みのクズにソレが読める知能あるとは思えんで! けどまあ大丈夫や! もう栗子の部屋にそのゴッツい腕は手ぇ出さんようになるでな!」
『おお、ほんまか! 助かるわあ』
S「助かるか? まあ今日からは頑張りや。ほなな!」
て、帰るんかい!?
何しに来てん?
いや、まあ何や護符みたいなん書いてくれてバナナまで、助かるけど。
て、早いな! もう居らんやん。
――GATYA――
え、もうあんな所まで行っとる。
小っさいのにどんだけ速いねん。
いや、シズ逃げ足も速いもんな……
『シズー、コレありがとうな!』
振り向かんと手上げて、去り方ヒーローか!
服からしたら絶対ヒールやけど。
それからスグに私は部屋の扉にこの紙を貼ってキッチンに戻り、バナナを食べようした手をお母さんに叩かれた。
母「栗子、このバナナお客さんのやからアンタ食うたらアカンでえ!」
ワケがワカランもののバナナは諦めた。けど、この日を最初で最後にあのゴッツい腕が私の部屋に現れる事は無かった。
ただ最近、お母さんがやたらとのんびり寛いどる気がしてならん。
お母さんが料理しとる所も最近見てない気がする。
ほいで何でか知らんけど、ロコモコやポケっぽい魚料理にラウラウ風の蒸し料理が出るようになって
南国気分が物凄い良い感じやねんけど……
日に日に汚れて行く気がする私の部屋と、忘れ物が増えて学校で先生に怒られとる私を見てゲラゲラ笑いよるシズに腹を立て、今日も朝から部屋に散らばる髪留め踏んで痛がる私……
それまでの日常が戻って来た感じは凄くする。
けど、何やろか……
何かは知らんけど……
何や、めっちゃ損した気がするねん。
■あとがき
★メネフネ
ハワイ諸島に住んでいたといわれるバナナや魚が好きで、困ってる人を見ると助けてしまうお人好しで働き者の伝説上の小人族。
普段は山や谷に住んでいて人目に触れることはないが、ハワイにはメネフネが作ったといわれる養魚池や水路や岩等の遺跡がある。
けれどその建造作業を見られるのをとても嫌がる事が有名で、王様と作業を覗かない事を条件に建造を約束したが、王様が約束を破って覗いてしまったが故に途中で建造を辞めたと見られる痕跡の残る遺跡等もある。
◆シズが書いたのはハワイ語。
【ʻokoʻa! "E ʻoluʻolu e kōkua i nā poʻe ʻē aʻe ma ka hale hoʻokahi."】
「違う! 助けるべきはこっちじゃない。」
◆“この話で”消えていたお菓子について
・タイにはチョコバナナ味が売っています。
・数年前に飲料メーカーと期間限定で出したハワイ柄のバナナ味。