表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

娘と少女の間にある空気はまだ少し張り詰めていたが、それに気付いていないかのように、母は少女に問いかけていた。

「役職名って例えば、部長とか課長とか?」

「ブチョウトカカチョウトカ? いや、我が輩は『ヒメ』と呼ばれていた。『クサビノヒメ』だ」

「まあ、じゃあ、ヒメちゃんね」

手を打って喜ぶ母。少女は独り言のようにぼそりと呟く。

「その呼び名はあまり好きではない」

「どうして? 可愛いのに」

リコも母と同感だった。『理子』という自分の名前も好きだが、『ヒメ』という名もなかなか良いと思う。

「ただの『ヒメ』ではない。『クサビノヒメ』だ。だから嫌いなのだ」

「クサビノ・ヒメは確かに可愛くないかもしれないわね。いっそ『天音ヒメ』にする? ヒメちゃん」

「お母さん」

不審人物であるところの少女を、母は家族の一員にするつもりでいるらしい。リコはさすがに呆れる。

「別にいいじゃない?あなただって妹が欲しいって言ってたでしょ」

「言ってない」

母のボケに娘のツッコミ。それがおかしくて少女は笑ってしまう。

「くくくくく。やはり面白いなあ、お前たちは」

そしてまた、くくくく、と笑う。それから

「お前たち。名は何という」

しかしそれにしても口の聞き方を知らない少女だ。目上の者に対する態度というものを教えてやらなくてはならない。憤りをリコが実行するよりも早く、母が少女の質問に答えていた。

「美理よ。天音美理。美理ちゃん、てよんでね」

こういう母を持つと娘は恥ずかしいのだ。もはや少女に憤る暇はない。しかし母が名乗った以上、名乗らないわけにはいかず

「理子よ。天音理子」

「理子ちゃんって呼んでね」

「呼ばなくていいから」

またしても笑いのつぼに嵌ってしまったらしい。くくくくくくくくく。少女はひとしきり笑った後

「美理に理子だな。わかった。覚えたぞ」

躊躇うこともなく天音親子を呼び捨てにする。まるで言葉遣いがなっていない。母はもちろん、リコも少女よりは年上なはずなのに(少女に外見からの判断だが)なのに尊大な口調。リコは少しむっとしたが、母はそうでもないようで、手を打ち合わせると

「さあ、自己紹介も終わったことだし、朝ごはんにしましょう」

ニコニコしている。

母の笑顔を見ていると、少女の言動にいちいち腹を立てているのも馬鹿らしくなった。

母は早速食事の準備に取り掛かっている。少女はもう椅子に座っているし、リコも椅子に腰掛けた。

配膳が終わると母も椅子に体を落ち着ける。手を合わせ

「いただきます」

「「いただきます」」

リコとヒメが唱和する。

ご飯とお味噌汁と玉子焼きとお漬物。並んでいる品を見て、ヒメが漏らす。

「この世界も主食は米なのか。少しがっかりだな」

「文句があるならねえ・・・・」

「文句ではない。ただの感想だ」

「それを文句って言うんでしょ――」

「ごめんなさいねえ、代わり映えしなくて。でもうちの朝はこのセットって決まってるの」

「そうなのか。いや、こちらこそすまない。いろいろと言ってしまって。気を悪くしたのなら許して欲しい」

「大丈夫よ。ヒメちゃんもそんなに気を遣わないで。それよりもどう?おいしい?」

「うん、おいしい」

「よかった」

手を打ち合わせ微笑む。うむ、ヒメは頷く。

リコはちゃちゃを入れることはしなかった。時間に余裕がないことに気付いたのだ。

「ご馳走様」

食べ終えると手を合わせ席を立つ。

「どうしたのだ、リコは。食後の時間はゆっくりするものだろうに」

「学校があるのよ」

「ガッコウ?」

「勉強したり、友達とおしゃべりしたり、部活したり、他にもいろいろするところ」

「ブカツ?」

「うーん、なんて言えばいいのかなあ、みんなが一緒になって夢に向かって努力する?」

「なんと!ずいぶんと楽しそうなところではないか!」

ヒメの勢いに、ふふふ、と笑う。

「ヒメちゃんも行ってみる。学校?」

「もちろんだ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ