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「わかった。なる」

守護者の言葉にうなづいた瞬間、世界が変わった。

理子のいるここは、リオの病室ではなかった。

白い。

ただ白い空間だ。

驚くことさえも出来なかった。

ただ呆然とするしかない。

それでも我に返ると、ここはどこなのかと、辺りを見回す。

白い。

白――それしかない。

右を見ても左を見ても上を仰いでも足元を見ても、白――しか見えない。

自分の体さえも見えないのだ。

手のひらを顔の前にかざしても、それさえ見えない。

白――しか目に入らない。

(そもそも自分の体さえ見えないのだから、手をかざしているのかどうかは、感覚に頼るしかない)

立っている。

立ってはいる――はずだ。

これもまた、感覚に頼るしかない。

視力が効かない――それが身体の感覚さえ奪ってしまうものだとは知らなかった。

目を開けていれば、白――しか目に入らない。

自分、が消えてしまいそうだった。

目をつむる。

視界が真っ黒になる。

深く深く安堵の息を吐いていた。

このほう身体を感じることが出来る。

もう目を開ける気にはなれなかった。

とりあえず移動しようと這って歩く。

いくらも進まないうちだった。

抵抗があり、それ以上進めなくなった。

それでも何とか這い進もうとする。

無駄だった。


ガチャリ――。


音がした。

鈍い金属の音。

真っ暗なまぶたの裏に、鎖につながれている自分の姿が、映った。



**



守護者の招きに応じ、病室に入ってきた二人を見たとき、驚かないわけにはいかなかった。

なぜなら二人の少女が何者か、私にはわかったからだ。

小さなほうの女の子は、クサビノヒメ――先代のクサビノヒメだと言うことがわかった。

そしてもう一人。

彼女は私と瓜二つだった。

すでにここが私のいた世界とは、異なる世界だと言うことはわかっている。

彼女はこの世界での私だった。

彼女もまた、クサビノヒメだった。

でも違う。

彼女は選ばれたクサビ。

私は作られたクサビ。

彼女には大切に思う人も、大切に思ってくれる人もいる。

私には誰もいない。

クサビではない私を必要としてくれる人は誰もいない。


守護者の言葉にうなづいた後、彼女は消えた。

女の子が泣き叫ぶ。

守護者を責め立てる。


女の子は彼女を必要としている。

彼女を求めている。


そう――。


だから彼女はここに帰ってこなければならない。

クサビとして求められたのは・・・クサビとして作られたのは・・・この私――なのだから。



**



「理子!」

叫び、ヒメは理子を抱き上げる。

重い。

その重みが、理子がここにいるんだと実感させる。

理子は気を失っている。

「理子!理子!」

ヒメは必死で呼びかける。

ゆっくりと理子が目を開けた。

泣きながら覗き込んでいるその顔に答える。

「ヒメ・・・」

泣き顔をさらにくしゃくしゃにして、ヒメは強く理子を抱きしめた。

「理子・・・理子・・・良かった・・・本当に良かった・・・」

ヒメの温もりを強く感じながら、理子は、自分の身に起こったことを実感できずに、ぼんやりとして、夢を見ているようだった。

「帰ろう、理子」

ヒメの言葉にうなづき、彼女の手を借りて立ち上がると理子を、不思議そうに見つめているのは、守護者だった。

それから振り返り、異界の少女がいつの間にか消えていることを確認する。

病室を出て行こうとする二人に声をかけた。

「待ってください」

二人は立ち止まらない。

かまわず続ける。

「奇跡の代償はきっと大きなものですよ。覚悟をしておいたほうがいいでしょうね」

守護者の声は届いただろう。

だが二人は言葉を返すこともなく、病室を出て行った。

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