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家につくと、明かりがついていた。

母が帰っているようだった。

いつもよりはやい。

「ただいま」

と、帰宅を告げる理子。

「今帰ったぞ」

と、これはヒメ。

麦丸はすでに自分の家に入って、横になっている。

理子は二階の自室へ向かう。

理子についていくのかと思いきや、ヒメは、一人リビングへ向かった。

母とヒメのやり取りが聞こえてくる。

「お帰り、ヒメちゃん。顔洗って手を洗って、うがいしてね」

「どこでするのだ」

「洗面所」

理子が部屋着に着替えてリビングに顔を出すと、ヒメがソファにちょこんと座っていた。

「ちゃんと顔は洗った?」

「いや、まだだ」

「お母さんにちゃんと言われたでしょ」

「洗面所、とやらがどこにあるのかわからん」

「聞けばいいじゃない」

「リミは手が放せないようだ。だから今、理子に聞いている」

母は、確かに夕飯の支度をしている。しかしヒメにそんな気遣いができるとは以外だった。

理子はヒメを連れて洗面所に向かった。まず理子が、手を荒い洗顔しうがいをして見せた。

その際、蛇口をひねれば出る水に、ヒメはひどく興奮したのだった。

「何だこれは!?魔法か!?」

魔法でもなんでもない。こういうものなのだ。

理子は苦笑しつつ説明をする。

いったいヒメは今まで、どんな生活を送って来たのだろうか。

すでに、当たり前のようにヒメの存在を受け入れている理子だが、彼女のことを何も知らないのだ。

ヒメが、蛇口から出る水をおっかなびっくり受け止めて、一通りを済ませると、二人はリビングに戻った。

テレビを見ていると(テレビをつけたときのヒメの驚きようは推して図るべし)、母がやってきた。

「二人とも話があるの」

神妙な顔つきだ。

話の内容が、表情に伴わないことを経験上知っている理子は、姿勢を正すこともなく

「うん、何?」

と声を返した。

「リオをね、退院させようと思うの」

「ほんと!?」

理子の表情が輝く。

「それで二人にも意見を聞こうと思って」

「賛成!賛成!賛成だよ!そんなの決まってるじゃない!」

ほとんど叫んでいる。

「ヒメちゃんはどう思う?」

そこでなぜヒメに意見を求めるかがわからない。

「ねえ、お母さん、ヒメに聞いたってさ――」

「リオとは理子の弟のことだな?」

「そうよ」

「魔導師と瓜二つなのが気にかかるが・・・」

「魔導師?」

「ヒメの知り合いにそっくりなんだって。あ、今日、一緒にお見舞いに言ってきたの」

「そうなの。ヒメちゃん、リオのお見舞いに言ってくれたのね。ありがとう」

「う、うむ。まあ当然の成り行きというやつだ」

ヒメは照れている。

「じゃあ、ヒメちゃんもリオのことは良く知っているっていうことよね」

「そう言えなくもない」

「じゃあ、ヒメちゃんは、リオの退院に賛成?」

「反対する理由はないな」

あっさりとヒメは答えた。

魔導師と瓜二つ、という事実は、言葉ほどには気になっていないらしい。

「ねえ、お母さん。どうしてヒメの意見まで聞くの?」

ヒメ、関係ないじゃない。

娘の質問に、何を言ってるのこの子は。とばかりに、リミは答える。

「当然でしょ。ヒメちゃん、うちの子になるのよ」

やっぱりね。

母の答えはそうだろうと思っていた。

理子はため息をついた。

決して、嫌というわけではない。

だが拾った子猫を飼うわけではないのだ、簡単な話ではないはず。

ことにヒメは身元不明者なのだし。

いや、けしって反対というわけではない。

ともかく、リオを退院させることは、決定した。

その後、三人は夕飯をとり、就寝の時間まで、にぎやかに過ごした。

その間に起こった、記すべきエピソードは、お風呂の件ぐらいだろうか。

理子とヒメが、一緒に入る入らないと、一悶着を起こしたのだ。

もちろん、一緒に入ると言い出したのがヒメで、入らないと答えたのが理子だ。

以下はそのやり取り。

そろそろお風呂にしたら、とのリミの言葉を受け――

「風呂か。うむ、一緒に入るか、理子」

「いや」

「つれないなあ。何がいやなのだ」

「いやなものはいや」

「それではわからんぞ。理由を言え、理由を」

「そんなものないわよ。いやなものはいやなの」

「何だそれは。いやだいやだと、まるで子供ではないか」

「ヒメにだけは言われたくなかった・・・」

「仕方ないではないか。まるきり駄々をこねる子供なのだから」

「うっ。イラッときた」

「ならばわけを言え、わけを」

「は、恥ずかしいからよ・・・」

「何?」

「恥ずかしいからよ」

「何だと?」

「恥ずかしいからよ!」

「ふははははは!」

「笑うな!」

「ウブだのお」

「チョーむかつく」

――理子は最後まで首を縦に振らず、結局、ヒメはリミとお風呂に入ることになった。

が、理子とヒメは一緒の部屋で眠ることになった。

もちろん理子の部屋だ。

これもやはりヒメが言い出したことなのだが、そこにリミが加勢した。

二人に詰め寄られ、ついに理子は折れた。

理子はベッドで、ヒメは床に布団を敷いて眠る。

ヒメはこれにもごねた。

同じベッドで寝る、と言い出した。

今度は、馬鹿にされない反対理由を、理子はもっていた。

二人で眠るにはベッドは狭い。

「我輩はかまわんぞ」

「私が構うの」

「いまさら良いではないか。褥を同じにした仲なのに」

「やめてよ、その言い方」

赤くなる理子を、ヒメはからかわなかった。

同じ部屋で眠れることで、満足なのだろう。


理子はなかなか寝付けなかった。

ヒメはすでに寝息を立てている。

体を横に向けて、その寝顔を見下ろす。

可愛いものだ。

本当に妹が出来たみたいだった。

この部屋で誰かと一緒に寝るなんて久しぶりだ。

リオが中学生になってからは、彼のほうが恥ずかしがって、一緒に寝たことはない。

それ以前はしょっちゅう一緒に寝ていたものなのに。

(リオの寝顔、可愛かったな)

思い出す。

そのリオがもうすぐ家に戻ってくる。

とたんに事態が改善するような奇跡は期待していないが、この家でまたリオと暮らすことが出来る。

理子は体を仰向けに戻す。

目をつむる。

眠れそうだ。

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