第2話 僅かな食事
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それから、クレアは皇女のティーサロンへと戻り紅茶を淹れ直したのだが、第一皇女のイザベラは眉を顰めたままカップをテーブルの上に置いた。
「まだ渋みが残っているけれど、まあいいわ。わたくしはとても優しいのでこれで許してあげますわ」
「ありがとうございます」
クレアは膝を曲げて辞儀をした。
一応、淑女教育は皇女が気まぐれに許可を出した時のみだが、時折皇女たちと一緒に受けさせてはもらっているので、綺麗なカーテシーが身についている。
ただし、一等品の席が設けられている皇女たちとは反しクレアの自席は無く、講義中は一時間半もの間部屋の一番後ろで立って講義を聞かなければならないのだが。
それにしても、渋みがあるとは酷い言いがかりである。
茶葉は皇室御用達のものを使用しているし、蒸らし時間は砂時計でキチンと計っているので殆ど渋みはでないはずなのだ。
給仕の係の者と日々研究を重ねて絞り出した蒸らし時間なので、間違いはないはずだ。
「まあ、わたくし今日は機嫌が良いの。あなた運が良かったわね」
「ええ。あと一週間後に普段よりも更に豪華なドレスが着られて美味しいお食事が食べられるし、普段は会えないような遠くに住んでいるお友達とも会えるし、最高ですわ」
(美味しい食事……)
思った途端、ぐうとお腹の音が鳴ってしまい、気恥ずかしさから顔を伏した。
「食べ物のことを考えたらお腹の音を鳴らしたの? あー、賤しいですわ」
「全く。これではまるでわたくしたちが、あなたに満足な食事を与えていないみたいではないの」
「……申し訳ございません」
皇女らが言っている満足な食事というのは、一日朝・夕二回の僅かなパンのみの食事も該当するのだろうか。一週間に一度ほど、野菜も僅かにいただいてはいるのだが。
この世の中には、その食事にありつくこともできない人々が沢山いることは重々承知している。
だが、それを指示している張本人たちからそう言われてしまうと、言い返したいという気持ちで心が支配されてしまいそうだった。
他のことは大抵何も感じなくなったのだが、食事に関しては未練も残っているし命に関わることだからか心が動くのだ。
皇女たちが毎日、豪華で美味しそうで夢みたいな食事をしているのを、クレアはただ近くで給仕係として見ていることしかできない。
許されるのであれば、いつも手をつけずに残飯として処分される料理が必ず発生するので、それを分けて欲しかった。
せっかくの料理なのに一口も食べられることなく捨てられてしまうのであれば、せめて生きる糧として美味しくいただきたい……。
(……お料理のことを考えていたら、またお腹が鳴りそう。控えなければまた賤しいと言われてしまうわ)
「今回のパーティーは三ヶ月前から決まっていたのよ。わたくし、ドレスを新しく仕立て直したわ」
「もちろんわたくしもよ。先程仕立て上がったから、これから試しに着てみて最後の調整をするの」
「……それは素敵ですね」
クレアに基本的に発言権はないが、こういった時に何か同意をするような返事をせずにいると、大抵いつも咎めを受けるのですぐに同意をするようにしている。
また、料理のことに関しては心が揺れるが、衣服に関しては心から諦めきっているので然程、羨望の感情は浮かんでこないのだ。
だが、それが気に入らなかったのかトスカはあからさまにクレアを睨みつけて、次の瞬間には嘲笑を浮かべていた。
「まるで他人事のように返しているけれど、今回のパーティーにはあんたも出席するのよ」
「…………え?」
「当然でしょう。あんたは人質とはいえ一国の王女なんだから。我がブラウ帝国の皇太子の立太子パーティーに出席するのはあんたの義務よ」
クレアの血の気が、一気に引いたのだった。




