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第17話 身の安全の確保

ご覧いただき、ありがとうございます。

 ともかく、自分自身を守らなければならない。そうでなければ、そもそも仮初めの婚約者を始めることすらできないからだ。


 だが、どうすればよいのだろうか。


 現在は会場を退出し、アーサーにエスコートをしてもらいながら廊下を歩いているが、アーサーの控え室に到着してしまえば当然彼とはそこで別れなくてはならない。


 アーサーと一瞬でも離れてしまえば、クレアはただちに皇女らの手の者に拘束されて彼女たちの前に引き渡されるだろう。


 流石に皇帝の手前、すぐにクレアに害をなすとは考えにくいが、それでもこれまでの皇帝や皇女たちの所業を思えば常に最悪の事態を予測して動くことに越したことはないと思った。

 それに、表面では分かりにくいような罰を与えられる可能性も充分に考えられる。


「皇太子殿下」


 勇気を振り絞って隣を歩くアーサーに声をかけた。

 アーサーは少しだけ、こちらに顔を向けた。


「ああ、何か用件があるんだな。それなら、ここは人目につきやすいので場所を移そう」

「ありがとうございます」


 アーサーは思い立ったらすぐに行動に移すタイプらしく、言葉通りクレアを自分の控え室へと入室させ、侍従の男性にテキパキと指示を与えた。


 すると、クレアは侍従の案内によりいつの間にか椅子に座っていたし、目前には淹れたてのお茶が置いてあった。心地の良い香りがクレアの心を和らげていく。


「それでは、御用がありましたら何なりとお申し付けください」

「ああ」


 パタンと扉の閉まる音が聞こえると、クレアの意識が完全にこちらに戻ってきた。


「それで、用件というのは何だろうか」

「実は……」


 クレアに対して椅子に腰掛けるアーサーは、優雅な仕草で目前のティーカップの柄を持って紅茶を含んだ。

 その洗礼された仕草に、引き込まれそうになる感覚を覚える。


(そうだわ。まずはイリス様とのことを訊いておかなければ)


「皇太子殿下。イリス様のことなのですが」


 アーサーの表情が、少し曇ったように見える。


「ああ、イリス嬢のことは何も心配しなくて良い。こちらから話を通す予定だ」

「そうでしたか。安心しました」


 イリスには直接アーサーから、あくまで自分は「仮初めの婚約者」であることを説明してくれるのだろうか。

 それならば、特にあえてクレアからイリスに接触する必要もなさそうだ。


 それにしても、第一皇子の婚約者であるイリスとアーサーはいつから想いを通じあわせていたのだろうか。

 そもそも、皇太子は最近まで属国で暮らしていたはずであるし、そのような機会自体があったのだろうかと疑問を抱く。


 だが、恋というものは障害があった方がかえって燃えあがるものだと、以前皇女宮の下女たちがが盛り上がって話しているのを通りがかりに聞いたことがあるし、きっとその通りなのだろう。

 クレアには全く見当もつかないことではあるが。


 そう納得をすると、今度はクレアに現在降り掛かっている問題に思い至った。


「皇太子殿下。実はお願いがあるのです」

「ああ、こちらが無理を承知で願い出たんだ。どのようなことでも言って欲しい」

「ありがとうございます。……実は、私は……」


 旨を言おうとして、ピタリと動きを停止させる。


(なんと言えばよいのかしら……)


 皇女二人から虐げられていて命の危険があるなど、軽々しく皇太子に言ってもよいのだろうか。

 腹違いとはいえ皇太子と血のつながりのある姉妹に虐げられているなどと言って、果たして信用をしてもらえるかどうかか……。


 だが、下手に取り繕っても目前の皇太子にはすぐにバレてしまうだろう。


「このまま皇女宮に戻れない理由がありまして、できることならで構わないのですが、もしどこかに空いているお部屋や小屋、隙間などがありましたら紹介をしていただきたいのです」

「隙間……? 疑問は湧くが……、まずはその理由を訊いてもよいか」

「はい。私たちの婚約は、きっと皇女様方にとっては全く見当もつかなかったことだと思うのです。なので、私がこのまま戻りますと混乱を招きかねないので、よろしければ皇女宮には後日改めて戻りたいのです」


 嘘はついていないが、少々理由が苦しかっただろうか。

 案の定アーサーは手を口元に当てて少々考え込んでいるが、その後小さく頷いた。


「分かった。それではこれから第二宮へと一緒に向かってもらう。ただ隙間ではないが」

「……ありがとうございます……!」


 クレアは心から安堵した。これで今晩は命拾いしたことになる。

 それが、どんなに尊いことか、クレアはこれまでの人生の経験から痛いほど知っていた。


 だから、彼の配慮にはとても頭が下がる思いであるし、何も感じないはずの心が少しだけ震えたように感じたのだった。

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