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第10話 感謝

ご覧いただき、ありがとうございます。

「綺麗……」


 思わず感嘆の息を漏らしていると、今度は椅子に掛けるように促された。

 

 着付けをしてもらうのは乳母が亡くなってからは数回程度であるし、ここ最近は久しくなかった。

 なのでどこかくすぐったいような感情が込み上げてきたが、同時にどこか安堵感も覚えた。


 その心地を感じている間に、化粧と髪の結い上げが終了していた。入室してからまだ二十分も経っていないはずだが……。


「凄い……」

「ええ、クレア様はとてもお綺麗でいらっしゃいますので、お化粧もより生えますわ」

「いえ、あなた方の手際がとても良かったので」


 そうは言ったが、リリーの手際が良いのは普段からあのワガママ皇女たちの着付けを行っているからであり、アンナは侍女たちの着付けや化粧を施していてそれぞれ鍛えられていることをクレアは知っていた。


「そう仰っていただきまして、何よりでございます」


 リリーはテーブルの上から黒い箱を手に取ると、それを開いてクレアに見せた。浅い長方形の箱で中には複数の煌めく宝石が収められている。

 宝石のことは詳しくは分からないが、ダイヤモンドやサファイア、エメラルドなど、どれも高価で希少な宝石だということは判断がついた。


「……この中から選んでも良いのですか?」


 これまで装飾品を身につけたことはあったが、その全ては二人の皇女が選んだ物であった。

 当然、傷一つつけたら手酷い罰が待っていたので、いつも内心青ざめながら身につけていたものだった。


「もちろんです。これらは全てクレア様のためにおあつらえになられたものなのですから」

「これら、全て……ですか?」

「左様ですわ」


 クレア思わず目を瞬かせた。


「全てと言うと、……もしかして今私が身につけているドレスもですか?」

「はい、左様でございます」


 言葉がつまり何と切り出して良いか考えあぐねているクレアにリリーは気がついたのか、そっと口元を緩めた。


「実は、皇女様方からは固く口止めをされていたのですが、毎年クレア様の祖国であられるユーリ王国から、クレア様のためにあつらえた沢山のドレスや宝石が贈られていたのです。……ドレスのサイズがほぼ寸分違わぬのは、表向きにはクレア様は丁重に我が国でもてなされていることになっておりますので、クレア様の採寸等は日頃から国同士の連絡で情報が渡っているためでしょう」

「そんな……今まで贈ってくださっていたのに……私はお礼も言わずに……」


 突然真実が打ち明けられたが、クレアはそれが重くて受け止めきれそうになかった。


「お父様やお母様は……ご健在なのですね……?」


 その情報すら普段皇女らが遮断してしまっているので、クレアは知らないのだ。


「はい、ご両親である国王夫妻もご兄弟も皆様お元気でいらっしゃいます。……ただ、一人帝国で人質としてお暮らしのクレア様の身を案じていらっしゃり、せめて祖国の物を身につけて欲しいと贈ってくださっておられたのです」


 クレアは視界がぼやけていくのを感じたが、傍に立つリリーが涙を流しているのを見ると必死に込み上げてくるものを抑えた。


「申し訳ございません。クレア様の贈り物の管理はわたくしの役目なのです。ですがこれまでは皇女様方から決してクレア様に知られてはならないとキツく言いつけられておりまして、お渡しすることが叶いませんでした」

「そうだったのですね……」


 喉の奥が熱くて、言葉が上手く出てこなかった。

 だが、肩を震わせて自分に対して謝罪をするリリーに非がないことはハッキリと理解をすることができた。


「顔を上げてください。あなたは悪くありません」

「……ですが……」

「ここでは皇女様方の命令は絶対ですから。拒否をすれば無事ではいられません」


 その言葉がクレアの心を縛り付けたようだった。

 そうだ。リリーとアンナはどうなるのだろうか。自分にこのような親切を施してくれたことがあの二人にバレてしまえば、きっと二人には残酷な罰が待っているのだろう。

 だが、あのような形でリリーが自分を迎えに来てくれた時点で、自分が二人と関わりがないとしらを切ることもできそうにない。


「……あなた方は、このままでは大変な罰を受けてしまうかもしれません。何か手立てを考えなければ……」

「構いません。元より覚悟の上です」

「でも……」


 顔を伏せるクレアに、これまで傍で静かに話を聞いていたアンナが口を開いた。


「先日、クレア様はイザベル皇女殿下の本の捜索に加わっていただき、一生懸命探してくださった末に見つけてくださいました」

「え、ええ。そうですが、それが何か関係があるのですか?」


 リリーは深く頷いた。


「はい。あの時、わたくしがイザベラ皇女殿下のご本をお持ちできなければ、わたくしは既にこの皇女宮からは追放され厳しい処分くだされていたはずです。ですので、危機をお救いいだたクレア様のお力添えをするのは当然のことです」

「……そうだったのですね」


 だが、その通りでも二人のこれからのことを思うと胸が痛んだ。

 

「さあ、クレア様。装飾品をお選びになってください」


 辛い現実が待ち受けているはずなのに、それを微塵も感じさせない笑顔を向けてくれるリリーを見ていると、心に切ない気持ちと温かい気持ちが同時に込み上げてくるように感じた。


(このままではいけない。何か二人のために力になりたい)


 クレアはそう強く思いながら、クリスタルのネックレスを選んだのだった。

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