第九話(柴犬)
[参考・引用サイト]
ウィキペディア フリー百科事典
参考URL:ja.wikipedia.org/wiki/
テレパシー。
超能力の一種であり超感覚的知覚(ESP)に分類される。
「精神感応」とも呼ばれる。
言語・表情・身振りなどを使わず心の内容を別の人に伝える能力。
相手の心や思考に無理矢理入り込み読み取ることも出来る異能。
または相手の心に自分の思考や想いを強制的に伝えることができる。
其れがテレパスだ。
その反面テレパシーで相手の心に入り込む時その影響を受けやすい。
テレパス能力の汎用は極めて危険な行為である。
汎用し続ければ精神面での均衡を保てず発狂することも有る。
テレパシーは他の超能力より無害な力のように感じられる。
だが其の本質は違う。
他の超能力よりも危険かつ凶悪な能力だ。
そして数多く有る超能力で恐らく最凶と言うべき能力である。
理性という枷を外されたテレパスは最悪の能力と言える。
其の能力の凶悪性が立証された事件が有る。
ベトナム戦争というものを知っているだろうか?
嘗てベトナムの北と南で争った戦争があった。
社会主義のベトナム民主共和国(北ベトナム)。
資本主義のベトナム共和国(南ベトナム)
此の北と南で戦争をしたのだ。
此れがベトナム戦争である。
1964年8月2日にアメリカがトンキン湾事件を起こして参戦した事で一気に全面戦争に突入し。
、1975年4月30日に北ベトナム軍が南ベトナムの首都サイゴンを陥落させるまで続いた。
此の北ベトナム軍が南ベトナムの首都サイゴンを陥落させた。
というのがベトナム戦争終結の表向きの発表である。
その裏で超能力者を軍事兵器として利用した初の戦場だ。
投入されたのは一人の高レベルテレパス。
その結果。
民間人を含む敵味方1万の命を奪う事になった。
高レベルテレパスが死に際に放ったテレパシーが原因だ。
首都サイゴンを陥落させたはいいが被害は甚大。
その為此の件は秘匿することになった。
此の事は当時の関係者以外知るものは居ない。
そして現代。
夜の闇。
其の中で閃光や炎が巻き起こる。
自然や人口の力によって引き起こされた物ではない。
超常の力。
超能力によるものだ。
襲撃してきた超能力者達の力が私達に猛威を振るう。
襲撃者に対して私達は少数。
其の差は歴然だ。
あっという間に私達は無力化若しくは駆逐されるだろう。
そう思っていたのだが……。
何故か意外にも私達は善戦していた。
理由は分からない。
だけど戦えば戦うほど能力が強化されていく様な感覚がした。
新たな能力まで使える程に。
新たな能力は相手に私達の鮮明なイメージを見せる能力。
其れで同士討ちを誘発して切り抜けて行った。
そして其の能力はドンドン強化されていった。
最初は本物と錯覚する音。
其れに香り。
最後には痛みまで再現できるようになった。
状況は段々と好転していった。
だから油断した。
そう油断した。
私の眼前で匠が項垂れていた。
攻撃を受け胸から大量の血を吹き出させて。
「に・げ・ろ……」
胸の激しい痛みを堪えながら私達を気遣う匠。
ひどい痛みに耐えながら。
油断した。
等と言うのは言い訳だ。
事態が好転したからといって多勢に無勢。
ある程度したら逃走すべきだった。
其れを実行せずまだやれると驕ったのが原因だ。
気がつけば匠が学園長に胸を貫かれていた。
「た・く・み?」
誰かの声がした気がする。
私だ。
私の声だ。
頭が真っ白になっていた。
匠がこうなったのは私のせいだ。
私を庇って……。
ドサリ。
力無く倒れる匠。
其の目に生気はない。
「手加減を間違えたわ……まあ良い飽きた全員皆殺しにしろ」
聞こえてきたのは学園長の言葉だった。
「次に儂の手に掛かるのは誰が良い?」
「ひいいいいいっ!」
誰かが悲鳴を上げたが分からない。
そう分からない。
何かが砕けた音がしたが分からない。
気がつくと悲鳴を私は上げた。
声にならない悲鳴を。
テレパシーの悲鳴を。
限界を超えるテレパシーを。
「ぬっ!?」
「何だ?」
「ひっ!」
初めて学園長達の悲鳴が上がる。
心からの悲鳴。
私はテレパスだ。
心の内容を別の人に伝える能力を持つもの。
または相手の心に自分の思考や想いを強制的に伝えることができる。
絶望と恐怖。
怒りと憎しみの感情を強制的に伝える能力。
今其の能力が暴走した。
心の悲鳴が。
私の痛みの声が暴走した。
世界は地獄に変る。
黒い夜空は昏い瘴気漂う世界に変貌し。
大地は腐り汚泥と化す。
空間が歪み醜悪で悍ましき怪物が顕現する。
「いやああああああああああああああああああああああっ!」
これらは全て現実でない。
全て私の能力が作り上げた光景だ。
但し本物以上の本物。
空は見た目通りの物だし。
大地はその感触から本物としか言いようがない。
無論怪物に殺されれば本当に死ぬ。
そんな地獄を私は作り上げた。
此の時半径五十キロ周辺が作り変えられた。
「ぬぐっ!」
「ぎやっ!」
眼の前の光景に怯む襲撃者達。
「「「「「「「「ぎやあああああああっ!」」」」」
怪物に襲われる襲撃者達。
悲鳴を上げ無様に逃げ惑う。
延々と悲鳴と咀嚼音がした。
長い時間。
暫くして半径五十キロ周辺は死の大地と化した。
誰も動かない土地。
その時、ザッザッ……と何かの音が近づいてきた。
初老の用務員さんが竹ぼうきで地面を掃きながら近づいてきた。
落ち葉を集めながら。
用務員さんは遮光器土偶のような眼鏡をかけており、ツナギの胸に『秋津』という名札があった。
竹ぼうきをクルリと返してこう言った。
「39回目……今回も失敗か」
「そうですな」
用務員さんの眼前に影が現れる。
人の様な影。
其れは輪郭が曖昧だったが次第に形が整う。
学園長だ。
用務員さんが竹ぼうきの柄を指でパチンと弾く。
「今回こそは死ねると思ったがと思ったが……」
「いやはやアレで死なないとは本当に不死身ですね」
「不死身などと何億年も生きていれば嫌になる」
「だから様々な方法で自殺したのでしょう?」
「其の尽くは全て失敗した」
「だからと言って我々地球人に迷惑を掛けて良いとは言ってないんですが」
トントンと竹ぼうきを叩く用務員さん。
「ねえ来訪者さん……いえ……隕石と共に降臨した因子殿」
ため息をつく用務員さん。
「だが今回は良いところまで行った」
「良いところね~~」
「生物は抑圧されれば急速な進化を遂げると聞いてたがアソコまでとは……」
「貴方の都合で殺された匠さんが可哀想です」
「だがその御蔭で小沢心音は進化し儂を殺せる寸前まで行けた」
「はいはい」
「だから今度こそ……」
「わかりましたよ」
用務員さんは竹ぼうきをコンと叩く。
すると空も建物も地面もすべてがモノクロのようになった。
それと同時に学園長も消える。
「今度の時間巻き戻りで成功すれば良いが……」
用務員さんが竹ぼうきの柄をくるくる回した。
すると全てがビデオの逆回しの様に戻っていく。
破壊された建物は綺麗に建て直され。
生物は見えない力で何処かに運ばれる。
時間の巻き戻しだ。
空は目まぐるしく太陽と星が入れ替わり昼夜が何度か入れ替わる。
「霊感、山勘、超感覚。異能に不条理、念動力。すべてが使えるこの舞台。此度こたびの超能力対戦サイファイトの犠牲者は無く成るまで何度も繰り返す……」
其の言葉と共に用務員さんは何処かに消え去った。
「転校生の佐々木匠ささきたくみです。よろしくお願いします」
そう言って挨拶するその少年を、私はじっと見つめていた。
というかどこかで見たこと有る。
……これが噂の転校生か。そう思う間も無く、私の周囲から一斉にガヤガヤと声が聞こえてきた。
何か既視感が有る。
何でだろう?
(あんまりカッコよくないなぁ)
(イケメンを期待してたんだけど)
(ブス男)
(パッとしない陰キャ)
これが女性陣からの大方の反応だ。あまり好意的ではない。
男子はもっとひどくて、(こいつにならマウント取れる)だとか(次のいじめの対象に使えそう)だとか本当にろくでもなかった。
これだから嫌なんだ。思わず耳を塞ぎたくなり、私は大きくため息を漏らした。
仕方ない。とりあえず転校生の声でも聞いてみるか。
そう思って彼の方へ聞き耳を立てようとした――その瞬間だった。
(この中に、俺のこの声が聞こえる奴はいるか。いたら返事してくれ)
そんな声が彼の方から聞こえて来たのは。
その声に何故か懐しさを感じた。
(あれ? 何であの子泣いてるんだろう?)
え?
泣いている?
彼の視線の先には私が居る。
思わず瞼を拭うと濡れていた。
涙だ。
彼を見て涙を流していた。
無意識に。
何で?
戸惑う自分の胸に湧き上がる深い悲しみと懐しさ。
その正体に心当たりがなく困惑したのだった。