第十話if(サカキショーゴ)
学園内決戦前後
ウラジオストク国際空港
1人の女性が空港のロビーを歩いていた。
金髪の女性であり、世界的水準で言えば少々美人である事を除けばそれほど特徴のない顔つきのその女性は、空港に来ていた1人の男性の姿を認めると、男性の方へと近付き……正面から向き合い敬礼を交わした。
「よくぞ帰って来てくれた、サーニャ」
「は、ゴブロフ大佐もお変わりなく!」
「ところで、そのスーツケースの中身がそうかね?」
「はい。私が養護教諭として潜入していた超能力学園の学園長こと城山峩朗の部屋から奪取した隕石です」
そう言うなり女性……サーニャは、持ってきたスーツケースを開けた。
中には、様々な暗色系の色を放つ……禍々しい形の隕石が入っていた。
彼女はかつて、秋村にやられた心音の状態を診た養護教諭だった。
だがそんな彼女はそもそも日本人ではなく。それ以前に一般人でもなかった。
その正体は、日本へと送りこまれたロシアのスパイ。
学園内にあるという隕石の奪取を目的とした存在だった。
「フフフ、これだよこれ。これが必要だったんだよ」
ゴブロフと呼ばれた男は隕石を確認するなり口角を上げた。
そして、目をギラつかせながら……彼はさらにこう言った。
「城山峩朗が消え、隕石が手に入り……我が国において、冷戦時に計画されたが、いろいろあり頓挫した『ズヴェズダー計画』は……ここから再び始まるのだ!!」
※
時は流れ……5年後。
私の記憶が戻って、全てを知って。
私の妹のゆなが、無茶をした事を知って。
とても悲しかったけれど。でもゆなのおかげで心音と佐々木君が今も生きている事を知って……叱りたい気持ちと、感謝の気持ちが私の心にあって。
そしてそれ以上に。
家族が無事で良かったって、思えて。
「あの2人、今どこにいるんだろうね」
そんな、全ての記憶を失ったゆなは。
私の分までいろいろ頑張った彼女は……その2人がいったいどういう存在なのか、記憶を失ったせいでピンと来てないだろう彼女は、窓の外を見ながら呟いた。
「姉さんと智浩さんの結婚式に来られないなんて……相当、ヤバい所に行ってる。死んでなきゃいいけど」
「そう言わないの、ゆな」
智浩さんから聞いた、学園での最終決戦の後に起きた事を思い出しながら……私は言った。
※
「嶋ゆのだ。そこにいるゆな、そして別の場所にいるゆめの……三つ子の長姉だ」
あの戦いの後。
心音と佐々木君が目覚めてゆなが昏睡状態になった時。
どういうワケだか私の姉を名乗る人が学園に現れたらしい。
なお、その人は髪型こそワイルドな感じだったけど顔からして、少なくとも私の親族らしい。
「混乱しているだろうが聞いてくれ。私も混乱している。なぜなら今まで私に家族はいないと、他の親族に言われてきたからな」
私の姉だというゆのは、頭を抱えながらそう言ったらしい。
「もしかすると三つ子ではなく六つ子の可能性もあるんじゃないだろうかとも思い始めているが……それはともかくだ。小沢心音、そして佐々木匠、私と一緒に来てもらおう。世界の平和のために」
なんでもゆのさんが言うには、学園に存在した超能力断絶因子付き隕石は、もう既に学園内には無く、現在はロシアへと運ばれているらしい。
「おそらく学園内にロシアのスパイがいたんだろう。そして最近ロシアが行った、隣国への侵攻も……この事に起因している可能性が高い。ロシア版『スターゲイト計画』辺りを復活させ……世界征服を狙っているとかでな」
スターゲイト計画。
かつてアメリカで実施された超能力者開発計画。
ロシアでも同時期に、同じような計画を画策されたらしいけど……いろいろあり現在は休眠状態だけれど、学園内にあった隕石がロシアに渡った今……その活動が近い内に再開されるかもしれないそうな。
「その隕石の正確な位置を知るには、地球と意思を共有できるテレパスたるお前達の力が必要不可欠であるし、そしてどっちにしろ日本における超能力関係のパワーバランスがフィクサー城山峩朗の喪失の影響で崩れた今、この機に乗じてお前達を暗殺せんとする超能力関連組織が動き出すかもしれん。その前にお前達には、我々嶋家の下で戦闘訓練を……かの『闘仙郷』で時おり行いつつ、我々と共に、世界の本当の意味での調和のために活動してもらう」
※
そしてそんな世界情勢の事を知り。
否応なく私達は別れる事になり……そして今がある。
さすがに、時々は電話をしてくれるけれど。
最近は、心音も佐々木君も……連絡してこない。
最後に連絡してきたのは1ヶ月前。
そしてその内容は、どうやってか入手した、私と智浩さんの結婚の情報を知った上での……下手に動けない事の報告と、結婚おめでとう……のみ。
ちょっと寂しいけれど。
でも心音、離れてても……私達はずっと繋がってるよね。
5000年くらい前の、私達のご先祖様のように!
※
「へっくち!」
「どうした心音、風邪か?」
「ううん。たぶん、誰か噂してるんだよ」
シベリア横断鉄道の中で、私は心配する匠に笑みを向けた。匠はそれで納得してくれたのか、安堵するとそのまま別の部屋へと向かった。今から行う作戦の、最終打ち合わせのために、嶋家のみなさんの所へ行ったのだ。
私達はあれから、様々な戦闘訓練を受けた。
さらには秋津さんも知っていた秘境『闘仙郷』においてテレパシー能力を強化しさらには多くの応用技まで会得した。
でも世界には、それすらも通じない強敵もいるらしい。
さすがに城山峩朗には及ばないだろうけど……それでも強い相手が。
今回狙う標的の護衛も、まさにそんな相手。
下手をすると世界の超能力事情を一変させかねない計画を企てている、ロシアのフィクサー……それが今回の相手。護衛もそれなりに強いと思われる。
ついでに言えば、彼が現在の……学園より運び出された、超能力断絶因子付きの隕石の持ち主と思われる人物だ。
気を引き締めていかないと。
また最初の頃のように……匠が死にかねない事態になる。
『そっか。じゃあしょうがないか……じゃあまたね心音! 祝福してくれてありがとう!』
するとその時、親友のゆめとの最後の会話の事が頭を過る。
忙し過ぎて、世界の危機でいろいろとギリギリ過ぎて……ゆめとは最近マトモに話していない。
でも最近のゆめと相川君、そして日本の事情は嶋家のネットワークを通じて私達のもとへも入って来る。
ゆめが相川君と結婚する事が決まったこと以外にも、2人が学園を建て直して、学園長とその秘書の地位に納まり、本当の意味での、超能力者のための教育を実施しているとか。政府の役員の一部――超能力者の事を知る方々と協力し、超能力を完全制御するための、リミッターなどの開発機関を設立している最中だとか。
世界が大きく変わり。
日本でも、いろんな事が変わりつつある。
私も、負けていられないな。
下手をすると追い抜かれて離されちゃう。
今の内に、また追い付けるよう……一緒の時間を取れるように、いろいろと努力しないと。
『小沢、ついに標的が動いたぞ』
そして、改めて私が決意した時だった。
インカムから、ゆめの姉のゆのさんの声がした。
私はすぐに気持ちを切り替え……そして配置に就いた。
※
「これから世界はどうなっていくんでしょうね、指宿」
秋津は色褪せた写真を手に、呟いた。
写真には1人の女性――かつて彼の相棒であった金髪の女性が映っている。
「6000年前、あなたと共にこの地球に観測員として降り立って……いろいろと変わりましたね」
彼らは異星人だった。
地球を侵略するためなどに訪れた存在ではなく。
袋小路に追いやられた自分の種族の進化の、新たな可能性を見いだすために。
その参考になるであろう地球人や他の地球生物を観測するために……彼らは地球にやって来たのだ。
「我々が来訪した1000年後に、この地球に落下した隕石のせいで、私達にも妙な能力が覚醒し……あなたはそれに耐え切れず亡くなってしまいましたね。そんな別れが、これから先も……この世界で続くのだろうか」
それだけ言うと、秋津は写真を懐にしまい……ふと、外の様子が、智浩とゆめが新たに建て直した学園の校庭が騒がしい事に気付いた。
現在、2人は結婚式の最中であり。
そして今日は休日で……運動部くらいしか登校していないハズだが。
「ブルァァァァ! テメーらザケんなよぉ?」
「ヒャッハー! 俺達が先にサッカーしてたんだぜぇ?」
「ホァチョー! 後から来たテメェらに譲る運動場は無ぇ!」
「モンゲー! なんで野球のダイヤモンドでサッカーやるズラ!」
「やれやれ。またしても喧嘩か。しかも超能力者が交じっているとみえる」
そして彼は溜め息を吐くと。
「勝負は清く、審か。正しく判つ、裁きの場。その勝負、私に任せなさい。君達に相応しい舞台を提供しよう」
いつもの言葉を言いながら。
生徒達の仲裁を行うべく運動場へと向かったのだった。
※
地球から、遠く離れたある宙域に。
秋津達とはまた異なる地球外知的生命体の乗る宇宙船がやって来ていた。
『凄いぞ! この反応……少なくとも我らの星域のエネルギー危機を救えるだけの力を内包している!』
『こ、これは……彗星、か? なんて巨大な氷だ』
そして宇宙船に乗る異星人達は、そのエネルギー反応の中心にあるのが、巨大な氷の塊である事をモニターで確認した。
『ッ!? み、見ろ相棒! こ、氷の中に……我々と似たような生命体が閉じ込められているぞ!?』
『な、なにぃ!? ま、さか……この生命体が発しているエネルギーなのか?』
さらには、その中に自分達と同じ姿形をした存在がいる事をモニターで確認したが……直後に2人は失笑した。
『まさかな。ていうかアレ、確実に死んでるだろ』
『だなぁ。つか生物じゃなくて死物だわな』
――……だ。
だがその笑みは、その場で凍り付いた。
なぜならば2人の脳に……何者かの声が聞こえてきたからだ。
『な、なんだ今の声は!?』
『の、脳の中に直接、だと!?』
――……まだだ。
またしても聞こえる、謎の声。
そしてそれを聞いた瞬間……2人同時にある可能性に思い当たる。
と同時に2人は、それを確かめるべく……モニターに映る、巨大な氷に閉じ込められた存在――城山峩朗へと視線を向けて。
ビシリ、と。
その氷にヒビが入ったのを……確かに見た。
――まだ終わらんよ!!
城山峩朗の、そんな言葉が……頭に響くのと同時に。
続篇製作決定!!
タイトルは『サイキック都市』!!
峩朗「まさか貴様と組めるとはのぅ……魔王?」
魔王「ふふ、僕としてもビックリですよ峩朗翁」
ロシアが怪しい動きを見せる中。
なんと地球への帰還を果たした城山峩朗が未来から来た自称・魔王と接触!?
「こ、ここは一体……どこですのぉ!?」
再び動き出した魔王を止めんとするキラキラ★ベリベリキューティーガールズ。
だがロシアvs城山峩朗&魔王な構図の全面戦争によって発生してしまった次元断層に巻き込まれて……なんと一行が異世界に!?
「こ、ここは……東亜合衆国?」
『ち、違うズラ! ここはそもそもオラ達がいた世界じゃないズラ!』
しかもしかも!?
次元断層からセイクリッドセイヴァーズのセイヴァーホワイト降臨!?
さらには企画参加してくれた全作家さんのキャラが参戦し……?
怒涛の展開を見逃すな!!
心音「いや嘘だから(゜Д゜;)」
秋津さんと指宿さんはアダムとイブのモデル。
超能力因子関連の話はバベルの塔崩壊の話のモデルです。
※※※
以上にて、サカキ様によるif最終話は終了となります。
書いてくださったサカキ様に感謝を。