第九話if(サカキショーゴ)
※こちらの話は、第九話のifをサカキショーゴ様に書いていただいたものとなります。第八話からつながっています。
※※※
みなさんはナノテクノロジーの起源をご存じか。
最近のテクノロジーだと言う方は勿論いらっしゃるだろう。
だが実際には違う可能性がある。
例えばダマスカス鋼。
カーボンナノチューブ構造と思しき管状構造が発見されたこの鋼は、現在の技術でも完璧な再現が不可能であるとされており、そもそも、カーボンナノチューブが出てきた時点でナノテクノロジー関連技術が製造に関与していると思われる。
さらに言えば中世のステンドグラス。
その中にはナノスフェアが存在するという。
果たしてナノテクノロジーの起源はどこまで遡るのか。
その答えを知りたくば、本作を読むしかない。
それは、剛拳。
金属の如き冷たさはない。明らかに生き物のモノ。しかしその威力は私達4人を吹っ飛ばせるほど。まるで拳が巨大化したように錯覚するほど圧倒的にして、どこまでも純粋な力。
私達が受けたモノはそれだった。
衝撃により肺の中の空気が全て圧し出され、さらには頭の中が真っ白になり呼吸を忘れる。
「が、く園……へ」
しかしそんな中でゆなは指示する。
そして次の瞬間。
私達は学園の校庭へ瞬間移動した。
※
「まさか学園長の力が、あれほどとは」
ゆなに治癒されながら、俺達は校庭を歩き……校舎を目指す。
相川の転移のおかげで地面や壁に叩き付けられる事によるダメージや、落下する事により生まれる力が無くなり、殴られた分のダメージだけで済んでる。
だがそれでも痛い。
まさかあれほどのパンチを出せる人間がいるとは。
しかもそれがゆな曰く、城山恵理子の祖父にして、この学園の学園長で、超能力絡みの陰謀の黒幕たる城山峩朗とは。
「私の一族の調査によれば、彼は戦時中の超能力兵士実験の中で生まれた超能力創造能力者。そして超能力者をも圧倒するほどの……身体能力の持ち主」
「おい、ちょっと待て」
相川がツッコむ。
「そんな化け物がいて、なんで日本が勝ってない?」
「私の家で使った電磁パルスの別種が、戦時中海外で造られたのよ」
しかしその答えに納得した。
確かにそれなら、戦時中にそんな化け物じみた人間が生まれても、日本は勝てなかったろう。拳だけで戦争に勝てるとは思えないし。
「そして彼は己の能力を使い日本のフィクサーになり、冷戦中に、その超能力兵士計画を復活させ……最終的にそれは、バブルが弾け頓挫したけど、数十年前にまた計画を始動させ……この学園がある」
「くそったれ」
俺達超能力者は最初から、学園長の欲望に振り回されてたって事かよ。
「ところで、なんで学園に?」
またしても衝撃の事実を知らされ顔を強張らせつつ、心音が訊ねる。
「用務員の、秋津甲さん……彼の能力は『固有領域・摂理変革』」
己自身を回復させられないため、苦しそうな顔をしつつゆなは答える。
「他の能力者とは違う……異質な能力者。学園長を倒せるとしたら、彼しか――」
「残念ながら」
しかしその声は。
「私でも彼には勝てません。彼の力の一端で、私は重傷を負いましたから」
当の本人――昇降口前の廊下の壁に背を預け座っている、顔面蒼白な秋津さんの告げた、絶望的な言葉により遮られた。
「秋津さん!?」
その名を呼んだのは誰だったか。もしや全員か。
とにかくその名を呼ぶと同時、俺達は慌てて彼に近寄った。
「私も老いたものです」
深い溜め息を吐きながら、秋津さんは告げる。
「あんな若造の能力の一端程度と思ったのが運の尽きでした。まさかあれほど強力だとは。私の生み出した結界が内部から破壊されましたよ」
「そ、そんな」
最後の希望として頼った人物までもがやられた事実を知り、ゆなは愕然とした。もしかすると俺達も、同じ顔をしているかもしれない。
「しかし、まだ希望はある」
するとそんな俺達に、秋津さんは眉間に皺を寄せつつ告げた。
「ただの人間に、彼は倒せない。ならば人間以外の存在から力を借りれば……彼を倒せるかもしれない」
「い、いったい何の話をしてるんだ!?」
まさか悪魔でも召喚しろとでも言うつもりだろうか。
「……そうか」
するとその時、ゆなは目を見開いた。
重大な事実を、今まで忘れていたのを思い出したかのように。
「私と共有した記憶を覚えてる?」
そう訊かれ、すぐに記憶を手繰る。
5000年もの長い年月の中で、嶋家の先祖が、テレパシー能力を取り戻そうとした過程で編み出したという、超能力とは異なる……科学の力。
嶋家の者の体内に存在するという、先史文明期に創り出されたナノマシンを利用した記憶共有により、俺達の間で共有された……古代人達の記憶。
確か、世界にはテレパスしか最初はいなくて、隕石に含まれていた能力断絶因子のせいでテレパスがいなくなって、そしてそれ以外の様々な能力者が生まれたとかいう話だったよな。
「かつてのテレパスの、この地球上での役割は……この地球と意思を共有し、よりこの地球のためになる事を執行する事。もし、この地球の意思――外来の隕石由来の因子を地上から排除したい、という念を、テレパシーで以て収束・放出できたとしたら?」
「ちょ、ちょっと待って」
目を丸くし、心音が言う。
「地球と意思を共有するだなんて……本気で言ってるの!?」
心音の言いたい事はよく分かる。
そもそも地球に意思が存在するのかどうかすら不明だしな。
「本気よ」
ゆなの目は真剣だった。
「そもそも人間だって、水とタンパク質と脂質、その他諸々で構成されている肉塊だっていうのに意識を持っている。それは体内における電気信号のやり取りや化学反応や量子現象によるものだけど、地球にだって様々な化学反応が起こっている。電磁波だって存在する。ついでに言えば血液のように溶岩が地球の中を駆け巡っている。地球自身に、意識や意思が存在しないとは言い切れない」
「で、でも私! 地球の意思なんて今まで感じた事ない!」
俺だって無い!
「ちょっと感じ取りにくいかもしれない。でも、それは確実に存在するわ」
微笑みながら、ゆなは告げる。
「自分自身を、信じて。テレパスであるあなた達なら……絶対に、古代の人達――テレパシーを失う前の人達のように地球と意思の共有ができ――」
「――フン。どこに行ったかと思ったが、よりにもよって儂の庭に逃げたか」
しかし、彼女の言葉は最後まで紡がれなかった。
なぜならば次の瞬間。ついに城山峩朗が学園へとやって来たのだから。
「いったい何を企んでいたかは知らんが無駄だ。儂からは逃げられん」
両手の骨を鳴らしつつ学園長は告げる。
「さぁ観念しろテレパスとその仲間達よ。さすがに儂自身の超能力は先ほどの電磁パルスで使えなくなって……その分、エグい結末になるだろうがな!!」
直後、彼は全速力で校舎へと走り出す!
このままでは俺達はまたしても殴られ……殺される!
「相川くん」
するとその時、ゆなが相川の手を取った。
相川はギョッとした。今まで何度も、瞬間移動のため彼女に触れたにも拘わらずなぜ動揺する?
ちょっと相川の脳内を覗き視たい気持ちになったが、やめた。
そういうテレパスがいるからこそ、武内のようなヤツが生まれたんじゃないかと思い直したからだ。
「私達で、時間を稼ごう」
「は!? ちょっと待て、あんな化け物に勝てるのか!?」
「勝とうなんて思わないで。あくまで時間稼ぎ」
強く、彼女は相川の手を握る。
そしてそれだけで俺は……強がっている彼女が、実は怖がっている事を察した。
超能力を使わずとも誰かの心を察する事ができるその事実に……俺はその瞬間、ちょっと新鮮味を覚えた。
今まで、テレパシーを意識的にも無意識的にも使っていたから、人の心は超能力で視るモノだという思い込みが俺の中で生まれていたのかもしれない。言動だけで誰かの心を察する事ができるなんて……初めて知った。
「さぁ、行こう!」
「ああもう! やってやる!」
次の瞬間。
ゆなと、彼女のおかげで限界突破する事ができる相川は瞬間移動し……学園長に対して、校内の様々な物を瞬間移動させて、ぶつける戦法を繰り出す。しかしその悉くを学園長は己の拳で粉砕する。
長くは……保たないッ。
※
いきなり、地球の意思を感じ取れって言われても無理だ。
ゆなの理屈は解るけど、でもだからってできるかどうかとは別問題。
昔の人はできていたかもしれないけど。
でも、今まで感じ取れなかったモノをどう感知しろと言うのだろう。
けれど、時間はなかった。
相川君とゆなが必死に時間稼ぎをしているけれど……長くは保たない。
このままじゃ2人が先にやられる。
できるできないじゃない。
やってみせないと私達の未来がない。
だから私は……まずは呼吸を整え、神経を集中した。
※
本来ならば、彼女――小沢心音がなそうとしているのは、私が行くように勧めた『闘仙郷』で修行せねば会得できない奥義。
そして案の定、彼女はそれをなせそうになかった。
でも、どうも何かがおかしい。それでも彼女を中心にして、エネルギーの流れが変わり始めたような……?
※
声が、聞こえ始める。
それは、徐々に大きくなり……叫び声になった。
途端に、耳を押さえるが……それは物理的な声ではないので意味がなかった。
直後、頭が割れるかのように痛くなる!
私の頭の中……だけじゃない。私の中に何か……怒りや悲しみの感情に似た何かが流れ込んで……!?
「ま、まさか……この惑星は、それほどまでに学園長のような存在を排除したいのか」
後ろで、秋津さんが何かを言っている。
でも、それさえも気にしていられないほど……私の中で様々なモノが暴れ回っていて……!
「心音!」
するとその時……匠の声が聞こえて。
手に、温かさが伝わってきて……手を、握られているんだと気付いて、顔が一瞬熱くなって……直後に、私の中のモノの勢いが半減したのに気付いて……。
「お前にだけ、全てを背負わせない」
私の目を見て……匠は告げる。
「俺もテレパスだ。だから俺にも……お前と同じモノを背負わせてくれ」
「た、匠……」
思わず、涙が出そうになった。
テレパシーを匠に使わなくても分かる。
目を見ただけで。
彼がどれだけ本気なのかを。
「分かった。一緒にやろう、匠」
そして私は、覚悟を決めた。
匠と呼吸を合わせて……私達の中に入り込んできたモノを収束・放出する!
「たった1人じゃダメでも、2人なら!」
「私達は、絶対に負けない!」
※
「ッ!? 避けて!」
学園長へぶつける物が、校舎の一部を含めて無くなり始め、学校が更地にならんとした……まさにその時だった。
ゆなが耳元でそう言い……直後に、生物的直感で避けなければいけないような気がして慌てて、ゆな共々瞬間移動し――。
――俺達がいた場所を、人一人は巻き込むほどの直径の、アースカラーの波動が通過した!!
「うっぐぅぅぅ……ぬおおお!!」
そしてその波動は、学園長に直撃し。
その奔流により彼は吹き飛ばされて……空の星となった。
※
(ぬぅ、まさか儂を大気圏外まで吹っ飛ばすとは!)
場所は変わり、大気圏外。
なんと学園長は……まだ生きていた!?
(だが何のこれしき! 心頭を滅却すれば何とやらよ! すぐにまた地球へと舞い戻って――)
そして彼は、泳いで地球へ戻らんとした……のだが!
(ぬ、おおお!? か、体が、凍、る……)
しかし、それは叶わず。
その体は凍り付き……彼は考えるのをやめた。
※
「や、やった……やったな小沢! 佐々……き?」
勝利の喜びも束の間。
俺は2人が……手を握り合った2人が校舎前で倒れているのを見た。
「……力を使った反動ね」
淡々と、しかし体を震わせながらゆなは告げる。
「たった2人じゃ……地球の意思を受け止め切れずに……脳の演算能力を限界以上まで使って……このままじゃ、2人は……」
「ッ!? そ、そんな! な、なんとかならないのか!? お前の『治癒』で!」
せっかくラスボスを倒したのに……こんな結末って!
「確かに治せる。でもここまで重症だと……完治させるには私の脳を代償にしないといけない」
「……ぇ?」
ま、まさか……2人を治すとお前が犠牲になるって言うのか!?
「そ、そんな……お前に何かあったらゆめはどうなるんだ? お前の……お前の姉なんだろう!? せっかく学園長を倒せたのにこんなのってあるか!」
「ありがとう」
するとゆなは……微笑みながら言った。
「私達姉妹の事を想ってくれて。
でも大丈夫。悪くても私の脳がショートして、超能力を失った上で、記憶喪失になるだけ。私の記憶で2人の命が救えるなら……安いものよ」
ゆなは、そう言うと……2人の頭へ手をかざして。
俺は咄嗟に、そんなゆなを止めようとしたけれど「彼女の覚悟を、無駄にしてはいけない」と秋津さんに言われた。
「分かってる……分かってるけどよぉ」
それでも、納得できねぇよこんな結末は!
「……相川君」
そしてゆなは。
最後にまた、俺に微笑んで。
「姉さんの記憶は、私の超能力が消えれば元に戻る。あの時、自分から記憶を私に差し出して、この学園に潜入して以来……姉さんはあまり変わっていないかもしれないけど……そんな姉さんに、伝えて。家族として、ずっと愛してる……って」
そして、次の瞬間。
嶋ゆなという1人の超能力者の犠牲により。
1つの戦いが、本当の意味で終わりを迎えた。
名前:秋津甲
性別:男性
誕生日:不明
血液型:不明
身長:169cm
体重:58kg
能力:固有領域・摂理変革
概要:指定した空間内の物理法則を書き換える能力。
体内に能力を指定する事により回復速度を早めたりもできる。
彼は地球人ではないので地球人とは異なる系統の能力になっている。