01.初めてのラブレター
この俺、鈴木健太は非常にモテない非モテ男子だ。それに対し、俺とよく絡む友人の啓介はもの凄くモテる。つか、イケメン。
男の俺から見てもかなりのイケメンだし、整った鼻筋、シャープな顎のラインを一目見れば、外国の血が流れているのではないかと疑ってしまう。そのうえ性格は俺みたいに男前で、男の俺から見ても惚れるつーか? まあ、野郎なんかに惚れはしないが。
そんな俺は今、幼なじみの歩美と一緒に学校へ向かっていた。
歩美とは、物心ついた頃から腐れ縁。同じクラスだとグループは必ず一緒で、高校も同じ。家が隣同士なので夜な夜な俺の部屋で勉強会をしたり、漫画本を読んだりと、とにかくウマが合う。
だがそんな幸せな日常は、あのイケメン野郎に全て奪われてしまったが。
「ねぇ、健太?」
普段からツンとし、お高くとまっている歩美が話しかけてくる。こんな幼なじみでも、俺にとっては好きな女。優しくしてやりたい気持ちはあるが、無駄なプライドが邪魔して素直になれない。
気づけば俺の視線は、歩美が履くスカートにむいていた。パンツが見えるギリギリまで折り曲げたスカートは、男の欲求心を刺激する。
「あんだよ」
スカートに釘付けになりながら返答すれば、耳にタコが出来るほど聞かされた言葉。
「啓介はまだ来ないの?」
歩美は口を尖らせ、しつこく俺に言い寄ってくる。
「知らねぇよ。それより下寒くねぇの?」
スケベな風がスカートを激しく揺らす。
俺は思わず口笛を鳴らせば、歩美は顔を真っ赤にしてスカートを抑えた。
「健太のエッチ!」
キッと睨みつける瞳。ああ、その罵るような瞳、かなり唆るわ。なんて変態じみたことを考える。
「別に恥ずかしがる必要はないだろ? 桃色パンツ可愛いじゃん」
「な、なななな!? 見たなぁ!?」
メラメラと怒りを放つ姿。
「一緒にお風呂に入った仲だろ? 今更恥ずかしがる必要はねぇし、寧ろまた入ってあげてもいいんだぞ?」
「それは昔の話でしょう!? アンタとなんて死んでもイヤ」
「そういえば体洗いごっこ楽しかったなぁ。歩美、まだ左胸のホクロって残ってる?」
からかうように言ってやれば、歩美は怒りと恥ずかしさのせいか体を震えさせる。
「なんでこんなことしか言えないの!?」
「俺は事実しか言ってねぇし?」
「あのさ、健太がそんなこと言うたびに私の結婚が遠ざかるの。もしお嫁に行けなかったらどうするつもり?」
「……拾ってやるよ? 俺、優しいし?」
「変態のアンタと? 想像しただけでゾッとする」
「バカ言え! 男はみんな変態だ。男の俺が言うから間違いない」
自信満々で言い返せば、歩美はキッと睨みつける。
そんなくだらないやり取りをしていれば、聞き覚えのある声が聞こえる。
「おーい、健太と歩美ちゃん!」
後ろを振り返ると、手を振りながら駆け寄る啓介の姿。通称、イケメン野郎が俺達の元にやってきた。
「おせぇよ、啓介っ」
肘で啓介の脇腹を軽く突けば、困ったように笑みを浮かべる。
「遅れて悪い」
申し訳無さそうに両手を合わせれば、歩美がひょっこりと口を出す。
「私、啓介が事故に遭っていないか心配してたんだよ?」
「歩美ちゃん、心配かけてごめんな?」
お得意のイケメンスマイルを見せれば、歩美は口元を露骨に綻ばせる。
たく。なんだよ。あの締りのない態度。俺と啓介との態度を比べたら、まさに天と地の差。まるで腐った生ゴミを扱うかのような態度じゃねぇか。
啓介と出会う前は、毎日のように愛想をふりまく天使のような存在だったのに、今はマジで可愛げのない態度。くそ、胸がモヤモヤする!
俺は苛立ちを晴らすように自分の髪をグシャグシャにすると、それに気付いた歩美は俺に話題をふってくれた。
「そういえば健太ってエッチなの。私のパンツを覗こうとしてきてね」
「はあ!? それ大きな誤……」
咄嗟に否定すれば、啓介は食いつくように言葉を遮る。
「健太、それは感心しないな。確かに俺と違って女に飢えてはいるが、そんな奴ではなかっただろ?」
「うんうん」
「ふん。なぜ俺が、歩美のパンツを見て欲情しなきゃならねぇんだよ」
「は? 失礼にもほどがあるんじゃないの?」
歩美は俺に近づき再び睨みを利かす。
くそ、顔近い。
そんな俺の心境を知らない啓介は、神妙な面持ちで言う。
「確かに歩美ちゃんのパンツで欲情はしないな」
「何もう、啓介まで……」
啓介は悪戯げに笑うと、歩美はムッと顔をしかめる。
ふふん、ざまあ見ろ。内心ほくそ笑んでいると、いつの間にか楽しそうに会話をしている二人の姿。
勝ったはずなのに残る孤独感。なぜ、歩美は俺に冷たくなったのか。同じ高校に進学したはずなのに、構うのは啓介ばかりだ。
想いを諦めた日もあった。それなのに思い出は日に日に濃くなり、夢では美化した記憶が蘇る始末だ。
啓介は嫌いじゃない。寧ろ親友だから二人が結ばれても祝福出来る自信がある。だが、落ち着かない俺の思い。
高校に着けば、相思相愛モードの二人から逃げ去るように昇降口へと急ぐ。上履きに替えようと、靴箱に視線を移せば、非モテである俺にはあり得ない紙切れが上履きの上に置いてあった。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
俺は一枚の紙切れを両手に持ち、馬鹿みたいに騒ぐ。すると会話に夢中だった歩美が近付いてきた。
「どうしたの? 朝から暑苦しいのはやめてよ。ただでさえ部活で暑苦しいくらいなのにって、えぇ!?」
歩美は、俺が両手で持っている紙切れを何度も確認する。
歩美も思わず大声で叫べば、啓介も釣られて俺達の元に足を運ぶ。
「うるせぇよ。朝っぱらから何をって……お前……!?」
普段からクールな啓介さえ、動揺していた。
ラブレターに指をさすと、二人揃って「あの健太がラブレター!?」と叫びだした。
「あり得ない! 啓介の靴箱と間違えたんじゃないの!?」
歩美、失礼な!
「これ俺のだ。返してくれないか? 女子が間違えたんだろう」
啓介、さりげなくラブレターを奪おうとするな! それに普段からラブレターを貰ってるお前に渡してもしょうがないだろ! それに何で俺のことを……
「否定するんだ! やっと俺にモテ期がきたのによ!!」
「イタズラね」
「いや、罰ゲームだな」
いやいやいや、何で歩美と啓介は俺のことを信じないんだよ!? 俺だって啓介には負けるけど、負けず劣らずイケメンな方だし、性格はSSR級だし、そのうえ野球部のムードメーカーなんだぞ!? 逆にラブレターが届くのが遅かったくらいだ。
「先ずは開けてみないとね」
「まあ、どうせ偽物だろ」
何で歩美と啓介はこんなにも否定的なんだ。まあ、封を開ければ俺へのラブレターって分かるし、愛も感じるだろ。
俺はラブレターの封を開ければ、それはとっても綺麗なパソコン字で………
健太くん初めまして。
私はあなたの事が大好きで、いつも見ています。あなたの素敵な笑顔に私はいつも心が蕩けそう。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。
相手の名前がなく、俺への愛が詰まっている内容でした。
「ほ、ほら。俺への愛が詰まってるだろ?」
俺は自分の口元が引き気味なのを感じた。
そんな情けない俺の姿に、二人は苦笑する。
「イタズラだな」
「イタズラね……」
先ほどとは違う、何とも言えない空気感。いたたまれない俺は茶化すしかない。
「あ、愛! 愛が詰まってんだろ? 俺が好きすぎてこんな文章を書くなんて可愛いよなぁ」
精一杯無理して笑う。すると俺の肩に歩美と啓介が手をそっと置いた。
「無理しなくていい」
「……私は何も見てないから」
流石の俺も二人の憐む言葉に甘えることにした。
(初ラブレターがイタズラなんて最悪だ……)