プロポーズはお姫さまから
Twitterのタグ#30日物書きチャレンジの作品です。
お題は【白雪姫をあなたらしく】
白雪姫を思いっきり自分好みに書きました。主人公が最初からお姫様にぐいぐい押されておりますが、彼に拒否権はありません。美少女に言い寄られて許される返事は、ハイかYESだけです。
そして王子を完璧なる当て馬にしました。
頭がお花畑の王子の続編も書きたいです
「あなたに相応しくなれるように頑張りました。お嫁さんにしてください」
周囲は一様に静かになっている。それはそうだろう。絶世の美少女が王子さまそっちのけで、いきなりその従者に求婚しているんだから。
状況を整理しよう。俺は一国の王子に従者として最近雇われたばかりだ。主は高貴な人の特有なのか夢見がちである。
「隣国に継母に迫害されている薄幸の美しい王女がいるらしい。わたしが助けに行かねば」
ちょうど隣国に詳しいからと、雇われたばかりの俺を含む数人とともに隠密で旅に出た。集めた情報を元に白雪姫が逃げ込んだという森の奥へ。しかし肝心の彼女はすでに継母に毒を盛られて死んでいた。
頭がお花畑の王子は周囲を囲んでいた小人たちに必死に交渉。ガラスケースに安置してある遺体を城に運ぶことになった。ちなみに小人たちは王子の頼みにドン引きしていた。
ガラスケースを運ぶ俺は思いがけない展開に動揺していた。そして石につまずきあやうくケースを落としそうに。そのはずみで王女の口から毒リンゴのかけらが飛び出た。毒リンゴを吐き出したことにより王女は息を吹き返えす奇跡が。
大喜びした王子は早速王女に愛を告げるも、王女は全く意に介さず周囲を見渡した。そして従者の俺を見つけると嬉しそうに駆け寄りいきなり求婚を申し込み。
うん、整理してもさっぱりわからない。
「……なんで始めて見かけた人間に結婚申し込んでるんですか?」
王女、いや白雪姫は満面の笑みで答えた。
「あら、以前にお会いしましたよね狩人さん」
思いっきり動揺した。気づかれていた。蓄えていたひげも剃ったし、髪も短く刈り込んだのに。
「お継母さまに私を殺すように依頼されて、あなたは森に私を連れてきた。そして森の奥へ繋がる道を指し示した。ここをひたすら進めば小人たちの小屋がある。逃げ込めば匿ってもらえるって。小人さんたちに聞きました。狩人さんが前もって頼んでおいてくれたんですよね」
「あっあいつら黙っておけって言っておいたのに」
白雪姫は容赦なく畳みかける。
「事前に世話代だとお金まで渡してくれたんですよね。住んでる家まで手放して。しかも自分は足がつかないようにすぐさま隣国にわたって」
ちきしょう、誰だよ。森の小人たちは共に森で働く人間に誠実だって言ったのは。全部ばらしてるじゃないか。
「私は決意しました。すべてを捨てて私の命を救ってくれた、あなたのお嫁さんになると。世話代を貰ったから、と渋る小人さんたちに頼み込み、家事をやらせて貰い身に着けました。狩人の仕事をいっしょに出来るように、道具の手入れや罠を仕掛ける事を覚えました。どうですか?結構、私役に立つはずですよ」
まさかの可能性に思い至り疑問を口にする。
「もしかして、継母からの毒リンゴを食べたのもわざとですか……」
「ええ、優しいあなたの事ですから私に何かあれば見に来てくれるかと。あなたが教えてくれたんじゃないですか。あの木になってるリンゴはとても鮮やかな色だけど猛毒だと。完熟したところを齧ったらひとたまりもないって。下の緑色の場所を一口ぐらい大丈夫だと思ったんですが、まさか仮死状態になるとは。あなたも身元がばれないように王子の従者に紛れ込むとはさすがですね」
頭を抱えた。何なら地面にめり込ませたいぐらいだった。
「見かけによらず無鉄砲なんですね……」
彼女はにっこり微笑んだ。
「同情だけで全てを捨てたあなたに言われたくありませんよ。相手が自分と同じように親に殺されそうになったってだけで」
まあ、俺の場合は実の父親だけど。子供のころから散々俺を殴りつけていた。いい加減命の危機を感じてスキをついて森に逃げ込みそこで小人たちに会った。彼らに生きる手段を教えてもらいなんとか大人になった。
白雪姫を助けたのは同情。そしてその目に俺と同じ、生き延びたいという強い意志を感じたから。
「いっしょに傷の舐めあいしませんか?」
王女の話を聞いていたら何もかもばかばかしくなってきた。
「いいんですか、こんな一文無しの俺を選んで。白雪姫さんならここにいる王子さまを始めとして相手はより取り見取りですよ。しかも俺はあなたを今まで、恋愛対象として見たことはありません」
彼女は今までで一番表情を明るくした。
「もちろんです。身分や容姿だけにまとわりついてくる相手にはうんざりです。お継母さまは素晴らしい反面教師でした。大丈夫です。あなたはこれから落とします。まずは小人さんたちからレクチャーされた料理の腕で胃袋をつかみます」
「俺もメシを作るのは、それなりに上手いんですけどね」
不敵な笑みで笑う彼女。
「それは交代でお願いしますよ。共働きですから。あとお金なら私が持っています。小人さんたちがあなたからもらったお金を私にくれました。家事と仕事を手伝った正当な対価だそうです。逃亡資金はばっちりですね」
完敗だ。もう俺が彼女に勝てることは言えない。こうなりゃ地獄までいっしょだ。
ようやく、王子たちをはじめとした周囲たちが我に返り始めた。
「どうしてだ、白雪姫。貴き身分で美しいあなたには、わたしのような人間が相応しいのに」
取って付けたかのように白雪姫は告げた。
「さようなら、姿かたちだけ整っている人形のような女がお好みの王子さま。もうさらに隣の国に100年前から眠り続けている美しい姫君がいるそうですよ。茨に囲まれたお城にいるそうなので、頑張ってくださいね」
いっしょに逃げるために俺の手を取るかつての王女。その手は皮膚がかさつき、あかぎれもある働く人の手だった。
最期までお読みいただきありがとうございます。
書いててとても楽しいお題でした。白雪姫と主人公のその後も書きたいです。ヤキモキする白雪姫とそれに気づかない鈍感な主人公。
そして馬鹿王子の当て馬シリーズも。
皆様にも少しでも楽しんで頂ければとても幸せです。
誤字脱字報告頂けると助かります。
お題を与えていただけると、創作意欲に繋がりますのでぜひ!
無茶ぶりだと嬉しいです!
それでは次作でお会いできればうれしいです。